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 空の旅。バージョン2っ!?

 「準備できたよ」


 僕がリビングに戻ると、3人は銘々寛いでいた。タイルは優雅にお茶を飲んでいて、エレファンはいつの間にか戻ってきたマルコとミュルと何やら談笑し、オールはフルフルをナンパしていた。


 おいこら。


 「じゃあ、時間もないしとっとと行こうか」


 「キアス、しゃんぷー、りんす、ほしい」


 マルコとミュルを引き連れて、話をぶった切りながら近付いてきたエレファン。

 こいつは本当に他の魔王とかどうでもよくて、ただシャンプーとリンスが欲しくて来たんだな………。

 どうせならと、転移の指輪や通信用のイヤリングも鎖袋に入れておいてやろう。


 「キアスぅー、助けてなのぉー!!」


 「キアス、我は精霊と子を成した事がない。このアンダイン、孕ませてもよいか!?」


 「良いわけあるか!!ウチのフルフルの半径10m以内に近づくなっ!!」


 オールの元から逃げてきたフルフルを抱き締め、僕は変態龍を怒鳴り付ける。全く、この変態は本当にブレない変態だな!!


 「むぅ………。我が伴侶は独占欲が強そうじゃの」


 「さも、伴侶になる事が既成事実であるかのような物言いはやめろ!!」


 ああもう!!こいつが関わると本当に話が進まない。


 「オールは相変わらずだなぁ。情熱的で積極的で、そしてちょっぴり過激な感じが、彼女の魅力だよね?」


 「そう思うならそっちで引き取ってくれ………。僕はあの過激さを、とても『ちょっぴり』なんて表現できないよ………」


 「あははは。モテる男の子は大変だなぁ。さ、でも遅れても格好つかないし、ホントにそろそろ出ないと」


 肯定も否定もなし。上手く逃げやがって、こんにゃろ。


 「そういえば、その『お馬のうぶ毛』ってどこでやるんだ?」


 「『逢魔が宴』ね。ここからそんなに遠くないよ」


 「ガロの町より、さらに南下した場所にある、ワットの町じゃ。確か第5魔王の支配地域であったはずだったの」


 第5魔王ってことは、オールの次の魔王か。確かコションを含めて3人がもう死んでるって話だったし、ここに4人いるから、その魔王を含めて残りは6人か。多いな………。


 「ガロってオールのいた町だろ?僕の足じゃ、あそこに着くまでに夜中になっちゃうし、そこからどれくらい南下するのかがなぁ………」


 まぁ、明日っていうなら間に合わない事もないんだろうけど。ただ、出発が夜まで遅れたら、確実に遅刻してたな。


 「ならば我の背に乗って行くか?ワットの町まで夜が更ける前には着くぞ?」


 え?乗れるの?


 龍の背に乗れるのっ!?うわぁー!!それいいっ!!超いい!!


 金の龍の背に乗るなんて、まるで歌みたいだ。オールもたまには良い事言うじゃないか!!変態な事ばかり言わずに、普段からこういう事を言っとけよ変態龍。


 「なんぞ、誉められながら貶されたような、複雑な気がするのじゃが?」


 「気のせいだ」







 「痛っ。いたたたた。ちょ、オール、鱗が刺さってスゲー痛いんだけど?」


 「仕方なかろう。それはお主らの髪のようなものじゃ。身を守る為に生えておる物ぞ。痛いからと言われて剥ぐわけにもいかぬ」


 思ったより乗り心地は良くないな。まぁでも、龍の背に乗って空を飛ぶなんて、これぞファンタジーの世界だよねっ!!それに比べれば、ちょっと乗り心地が悪いぐらい、いくらでも我慢できる。ヤバい。最っ高にワクワクしてきたっ!!


 オールの背には、僕、パイモン、レライエが乗り、タイルとエレファンは自分で飛ぶそうだ。


 場所はゴモラの外。僕の住んでいる神殿からだと、重力で叩き落とされちゃうからね。


 ただ、オールの胴が太いので、物語のように跨ぐようには乗れない。鬣に埋もれながら、その鬣にしがみついて移動しなければならないらしい。まぁ、これはしょうがないよね。まさか『胴が太すぎて乗りづらい』なんてオールに言えるわけがない。雌雄同体とはいえ、オールは僕の前では女の子に化身しているわけだし。


 「行くぞ?振り落とされぬよう、注意せよ」


 オールが注意を喚起し、静かにふわりと飛び上がる。思ったより柔らかい離陸だ。




 「行くぞ?」




 そんな感想は、オールが2度目の確認をした直後に、遥か彼方の大地に置いてきてしまった。


 って言うか速い速いはや―――


 「っ―――」


 オールに止めてもらうよう言おうとしたが、とても言葉にならない。


 つーか、息できない!?Gが物凄く体にのし掛かってくるっ!!鬣を掴んだ手が千切れそう!!


 つーかヤバいヤバいヤバい!!手離れる!!手ぇ離れる!!







 あ。







 僕は、空に投げだされた。


 あぁ………。綺麗な青空。高空にいる僕より、なおも高みに浮かぶ雲達。


 なぁ、お前達はなんでこんな場所を飛び回ってるんだい?

 こんなに高くて、寒くて、怖くて、怖くて、怖い場所に。

 どうしてそんなに楽しそうに浮いていられるんだい?


 僕は―――







 死ぬかと思ったっ!!


 マジで死ぬかと思ったっ!!


 ギリギリでダンジョンに転移できたから良かったものの、できなければ今ごろ僕はケチャップになってた。


 こんなに死ぬかと思ったのは、生まれて初めてだ!コションや聖騎士なんてメじゃない!!僕はさっき、生まれて初めて命の危機を実感したっ!!


 もう金輪際、龍の背中に乗ろうなんて考えない!!ファンタジー?知るかっ!!ここは現実じゃボケぇ!!


 あぁ………。今ならコーロンさんの気持ちがわかる。僕は地面が大好きだ。大地を愛してる。なんだったら大地賛讃をこの場で熱唱してやろう。そうだ、そうしよう。




 オール達が慌てて戻ってきた時には、曲は佳境に至っていた。




 時刻は夕暮れ。遅刻決定である。





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