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 とある女王様の非日常

 最近の世界情勢の急激な変化に、私も、王宮の貴族達も、連日連夜公務に追われていた。


 ここ、ネージュ女王国は、今現在真大陸でも微妙な立ち位置に立たされている。


 急激な変化の1つとして、アヴィ教の衰退があげられる。


 これまでアヴィ教は、信者の少ない北より南の事情を優先してきた。真大陸で最大の勢力を誇るアヴィ教だが、だからといって真大陸の全ての人間が信仰しているわけではない。傾向として、南側は信者が多く、北側は信者が少ない。それゆえに起こったのが、あの飢饉である。

 当時まだ玉座に着いていなかった私でも、あの時の事は如実に憶えている。貴族、いや、王族といえども食事の量は減り、飢えていない国民などほとんどいなかった。他国の状況も我が国とさして変わらず、援助の宛もない。あのひもじさ、飢えたという事実は、今となってはいい経験だったとも言える。我が臣民が、二度と同じ苦痛を味わう事がないよう、私という王の指針になったのだから。

 だからといって、あの狂信者共を笑って許す気など到底無いが。アムハムラ王国程ではなくとも、我が国でも餓死者が出たのだ。


 アムハムラ王国が教会を去ったのを機に、我が国、そして北の他の二国も教会を脱退した。遠くの神より近くの他人、という事だ。


 だが、アムハムラ王国と他の三国とでは、明らかに状況が違う。今や飛ぶ鳥を落とすような経済発展を続けるアムハムラ王国は、今の真大陸には無くてはならない流通の要となっている。我が国も、その恩恵で物流は活発化し、大きな利益を得る事が出来ているが、それはあくまでもアムハムラ王国あってのものだ。もし仮に、我が国とアムハムラ王国との関係が悪化し、この物流が途絶えれば、我が国は経済的に逼迫せざるを得ない。我々は、既に教会から破門状まで貰っているのだ。


 まぁ、あの王に限ってそんな事にはならないだろうが。民が飢える苦痛を、私などの比ではないほど味わってきた王だ。民に影響が出るような敵対工作なんて、絶対にしないと思う。そういった意味で北方四国は、ある種お互いを信頼している。

 ただ、希望的な観測に国の舵を任せるわけにはいかず、考えうる最悪のシナリオの対策を立てねばならないのが為政者の義務だ。


 アムハムラ王国との国交を妨げない、その上で我が国が発展していくべく、新たな産業を生み出す。このところ、王宮では毎日この議題が検討されている。毎日検討されている、という事は、未だその解決策が出ていないという事でもある。

 産業、というものは早々簡単に見つかるものでもないのだ。幸い、我が国には国土の半分近くを占める大森林があり、林業、製紙業が盛んである。勿論、アムハムラ王国の王国空運のおかげでそのシェアも広がっているが、林業が盛んな国など他にいくらでもある。製紙業も、我が国が特別優れているという事もない。

 全く別の産業といわれたところで、思い付くのは本を作る事くらいか。だが、そんな事で劇的にこの国の事情が変化するわけもない。

 本という物は、貴族しか手を出さない、出せない商品なのである。値段、識字率が、庶民に本が普及しない原因である。さらに、高名な魔術師の書いた魔術書でもなければ、貴族にだってそうは売れない。




 はぁ………。


 明日からも会議の日々かと思うと、とても憂鬱だ。公務を終えて、私室に入っても中々寝付けない。


 明日も朝から会議だというのに、寝ようとすればするほど目が冴え渡ってくる。


 「一度、明日の会議の資料にでも目を通しておこうかな」


 このままベッドでダラダラしていても仕方がない。私は一度体を起こすと、ベッドの脇に設えてあるテーブルから、水差しを取って陶器のカップに水を注ぐ。




 「こんばんは、ネージュ女王陛下」




 ブッ!!


 私は驚きのあまり、口に含んでいた水を盛大に吹き出してしまった。


 ここは女王の私室であり、限られた者しか立ち入れない場所である。


 そんな、私が一番無防備な場所に、見知らぬ声が響いたのである。咄嗟にテーブルの上の鈴を鳴らそうとしたが、声の主はそれを止める。


 「やめた方がいいですよ。僕はあなた達の利益になるような話を持ってきたんですから」


 その、変声期を迎える前の子供のような声に、私は聞き覚えがあった。


 「ま、魔王っ!?」


 「正解」


 そう言って部屋の暗がりから歩み出てきたのは、いつぞや召喚で呼び出された時のままの姿の魔王だった。


 どうしよう………?なんかそんな空気じゃないけど、これって鈴を鳴らすべきだよね?


 「大丈夫ですよ。危害は加えませんから。安心してください」


 そんな、自らの安全性を3つの言葉を繋いで説明されても、私としてはとても安心できるような事態ではない。


 「夜分に女性の寝室に忍び込むのは気が引けたのですが、これはあくまでも内々の話なので申し訳ありません」


 「内々の話?」


 我が国がアヴィ教から距離を置いた事で、与し易しとでも踏んだか?残念ながら、アヴィ教を去っても人間の敵になるつもりはないぞ!!


 「内々の話、といいますか内密の話ですね」


 何がおかしいのか、一見無垢な微笑みを浮かべる魔王は、私に言った。




 「新たな産業、欲しくありません?」








 資料のようなものの方にボツネタ上げました。


 そちらの前書きでも書いてありますが、その話をボツにしたのはあくまでも作者の趣味が原因です。


 それと、今回は難産でした。更新が遅れて申し訳ありません。





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