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 閑話・5

 キアス殿の住み処から帰ってきた翌日の事である。


 「あら、アニー?なんだかいい匂い」


 まず初めに気付いたのはアルトリアだった。


 「それに、なんだか髪も艶々で、サラサラだわ。どうしたの?」


 やはりか。キアス殿の風呂であの洗髪料を使ってから、私の髪は見違えるような滑らかな指通りになった。野宿する事もある我々は、髪や身なりに頓着する余裕など普段はないのだが、それでもやはり女。できれば身綺麗にしていたいし、見映えだって気にする。


 だからこそ、この著しい髪の毛の状態の変化に、私は昨日顔に出さずとも驚いていたのだ。やはり、一見して違いがわかる程か。


 「昨夜キアス殿に使わせてもらった『しゃんぷー』と『りんす』なる物のお陰だ。なんでも、少量ながらキアス殿の商店でも取り扱っているそうだぞ?アルトリアも試してみるか?」


 「ちょっとお待ちなさい、アニー!?まさかあなた、昨夜はキアス様と一緒にいたのですかっ!?」


 しまった。


 「なんという事でしょうっ!!まさかこんな伏兵がいたとはっ!!レイラに続いて貴女までもがキアス様をっ!!しかも!我々に黙って一夜を共にするなどっ!!」


 「いやっ、ちがっ」


 「キアス様はどんな風に貴女を罵ったのですかっ!?道具はっ!?どんな道具をお使いになられたのですっ!?どのような趣向がお好みでしたかっ!?」


 「ばっ、馬鹿者っ!邪推も大概にしろっ!!ちょっと用があって訪ねただけだっ!!」


 「なんだなんだ?キアスさんの話か?」


 チッ。レイラまで嗅ぎ付けてきたか。ややこしい。


 「レイラ!思わぬ伏兵です!大逆襲です!存亡の危機です!」


 「お前はもう黙れ!」


 アルトリアはキアス殿の話になると、もう本当に手に負えないな。


 「なんだ?」


 首を傾げるレイラに、アルトリアが何か言う前に話しかける。


 「キアス殿の商品である洗髪料の話だ。風呂に入る時使う物なのだが、これが中々に良質な物なのだ」


 「おぉー、そぉいや、今日のアニーの髪は綺麗だな」


 「お風呂でですって!?」等と騒いでいるアルトリアは無視だ。良くも悪くも、魔王の影響というのは計り知れないと、ひしひしと感じる。


 「でもアタシは癖っ毛だし、アニーみてーに長い髪じゃねーからな。あんまし、意味ねーんじゃねーかな」


 「何を言う。お前とて女の子だろう?それに、お前は充分に魅力的だ。自信をもて。そうだ、今日はキアス殿の店でしゃんぷーとりんすを買って、この宿の浴場へ行こう。絶対にレイラも気に入る筈だ」


 「うーん、ま、いっか。上手くいったら儲けもん、キアスさんに女っぽいアタシを見せにいくぜ!」


 なぜ同じ想いを持つのに、アルトリアはアレで、レイラはコレなのだろう。


 レイラとアルトリアを比べて、アルトリアの方がバカに見えたのは、今日が初めてだった。




 「おわっ、なんだこりゃっ!?」


 「あらあら、まぁまぁ。………本当にすごいですね」


 「………ん、すごい………」


 宿の大浴場で、我々は早速『しゃんぷー』と『りんす』を使ってみた。


 キアス殿の使っていた大浴場と比べては当然見劣りしてしまうが、それでも、この広い浴場はすごい。しかも男女別だ。この『魔王の血涙』のどこに、こんな無尽蔵な水源があるのだろう?


 「すっげ!見ろよ!あたしの癖っ毛が、なんかふわっふわになったぜ!!」


 「これは………、値段は張りますが、是非とも日常的に使いたいですね」


 「………僕の髪、こんなにサラサラになった………」


 すっかり皆これの虜だな。無理もない。女なら、これは喉から手でも足でも出して欲しくなる代物だ。







 「あ、あのっ!」


 ちょっと用があってネージュ女王国の貴族邸を訪ねた我々は、そこでその貴族の娘に呼び止められた。


 「皆様のお髪、とても綺麗ですねっ!!いったいどんなお手入れをしてらっしゃるのかしら?」


 みれば、婦人も興味深そうにこちらを見ている。


 これは、キアス殿の仕事も忙しくなるな。今や私もキアス殿の仲間。ならばここで商売の宣伝でもしておこうか。


 「実はさる商人が―――」



 ○●○




 うがぁぁぁあああ!!


 なんだこの忙しさはっ!?

 なんだって細々とやってたシャンプーとリンスに、真大陸中から注文が殺到してんだよっ!?あれは、ソドムに住む人向けに売ってただけだったから、外には一切流してなかったのにっ!!

 どこから情報が漏れたんだっ!?


 アムハムラの王国空運がなかったら過労死する自信があるぞ!?まさかこれが新手の魔大陸侵攻の方法とかじゃないよなっ!?だとしたらお手上げだぞ!白旗ブン回すわ!!


 えーっと、アドルヴェルド聖教国の貴族?お前ら今それどころじゃねぇだろうが!!

 何々?『さんぷーとりんす、合わせて20個の注文』だぁ?こいつ、絶対転売で稼ぐ気だな。品薄なので無理とでも返しとこ。次は………、またネージュ女王国か………。あの国は女性の地位が高いからシャンプーとリンスに食い付くのも無理はないか。だからってこの量は異常だけども!!結構高額な値段設定なんだよっ!?少しは躊躇しろよ!!


 マジで僕の代わりに数字に強い仲間が欲しい!!いっそセン君でも引き入れるか?いや、絶対無理だな。ザチャーミン商会の次期会頭を引き抜けるわけがない。お父さんのリンさんも怒鳴り込んできそうだし。




 ああぁぁぁ!!忙しいっ!!





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