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 閑話・4

 「よぉ、シュタール」


 「ん?お!キアスじゃん。なんか用か?」


 ソドムの街を視察がてらぶらぶら歩いていたら、シュタールに出くわした。


 「んにゃ、べつに。ちょっと散歩してただけだよ。たまには仕事を休んでゆっくり羽を伸ばさなきゃね」


 「なんだ、てっきりお前はワーカーホリックなんだと思ってたぜ」


 前徹夜してからレライエがうるさいんだよ。


 「仕事をするのは、人生を楽しむためには必要なことだけど、仕事に追われていたら楽しむ間もなく人生を使いきっちゃうからね」


 「ちげぇねえ。やっぱ羽を伸ばすのは必要な事だよな」


 「お前の羽はどこまで伸びるんだ?」


 「うるせぇ」


 なんか、ここでシュタールと別れてまた一人で街を徘徊する気にもならず、僕とシュタールはそのまま宿に併設された食堂に入る事にした。


 「僕は『アメスピの香草焼き』と、『野菜シチュー』で」


 「俺は『七星豚のジンジャアソテー』と『チェリーサラダ』あと『ホープの活け作り』と『気まぐれカーバンクル』で」


 頼みすぎじゃね?食べれんの、それ?


 あ、そうだ。


 「ついでだから、ちょっとこれ試飲してくれよ」


 僕はそう言って、鎖袋から小瓶を取り出す。


 「これは?」


 「酒。ちょっとした伝手で商う事になったんだけど、僕に酒の味はわかんないし、出来ればあまり口にしたくない。だからお前に味を確かめてみてもらおうと思って」


 「ふーん」


 リリパットが作った華蜜酒だ。大層美味しいらしいので真大陸側でも売ろうと思うのだが、もしかすれば魔族と人間では大きな味覚のズレがあるのかもしれない。城壁都市も、ソドムとゴモラで食の形態は大きく違うのだから。


 ソドムは魚が、ゴモラは肉がメインディッシュだ。


 だからここでシュタールに実験台になってもらうのだ。


 「ま、別にいいぜ?高級酒?」


 「まぁ、かなり値は張る」


 「やりぃ!」


 シュタールが店員にグラスを持ってくるように頼み、僕は一応2人分水を頼んでおく。


 「お、花の香りだな」


 「『華蜜酒』っていうんだ。文字通りだろ?」


 「ぐぁ!!甘ったりぃー!!」


 花の蜜から出来てるからね。


 「水で割って飲め」


 「おう!」


 僕がテーブルの上のグラスをシュタールに寄せる。オールは原液で飲んでたけど、やっぱり酒としては甘すぎるのだろう。


 「お、丁度良くなった。でもやっぱり甘いな。俺は好みじゃねえけど、女が好きそうな味だ。まぁ、高級酒らしい口当たりの良さは確かに秀逸かもな」


 「へぇ。参考にするよ。それ、飲まないならアニーさん達に届けてやれば?」


 「だな。薄める前は酒精も強かったけど、一回水入れちまうと酒精まで薄まるのが勿体ない。ただ、飲みやすいからガブ飲みしたら、あっという間にへべれけだろうな。薄めたって酒精の量は変わんねーんだから」


 「成る程。貴族の婦人向けに売り出すか。あとは、女を落とすのに使える酒として密かに宣伝するのも悪くない」



 「っていうか、結局商売の話してんじゃねーか。お前、ホントに仕事だけで人生を浪費しちまうぞ?」


 「ハンっ!バカな。僕ほど人生を謳歌している者など、この世界全てを見渡しても他にいない!」


 何をバカな事を言っているのやら。僕の回りには、既に多くの女の子がいるのだぞ?勝ち組なんて言葉じゃ生ぬるい。優勝組だ。


 「お前、何か趣味とかねーの?」


 「趣味は奇剣のコレクションだ」


 「いや、そーじゃなくてさ。遊んだり、何かうさを晴らす方法とかあんの?」


 「おい、人をつまんない人間みたいに言うな」


 「いや、だって俺、お前の仕事してる姿しか見た事ねーもん」


 「それは―――」


 頬杖をつくシュタールに、何か反論の言葉を代えそうと思ったが、タイミング悪くそこで料理が届いてしまった。


 アメスピという魚を、香草と一緒にオーブンで焼き上げたものと、ポトフに近い野菜のゴロゴロ入ったシチューと、白飯が僕の前。

 ズヴェーリ帝国で一度食べた事のある七星豚を各種調味料で味付けしたソテー(見た目と香りは完全にしょうが焼き)と、果物を使ったサラダ、ホープという鯛のような魚の刺身と、カーバンクルの何かを何かしたもの、それにやっぱり白飯がついてシュタールの前に並んでいる。


 「いただきます」


 僕が手を合わせて料理に手をつけると、シュタールもその大量の料理の処理に当たる。


 「むぁー、まふぃふぇほほのほうりふぁ」


 「口に物を入れて喋るな」


 僕が行儀の悪いシュタールに注意すると、しばらく料理を咀嚼して飲み込んでから、シュタールが再び話し始めた。


 「んぐ。いやー、マジでここの料理はバラエティーに富んでていいな。これだけ色んな国の料理が食べられるのは、俺はここ以外に知らねえな」


 僕にはわからなかったが、シュタールが頼んだのはそれぞれどこかの国の郷土料理のような物のようだ。たぶん、元奴隷の住人達がそれぞれ故郷の味を伝えたのだろう。


 それが今や、この街の特色として活きているのだから、人間って逞しいよね。







 「ぬぁあああ!!また負けた!!」


 料理を平らげた僕とシュタールは、暇潰しがてらダンジョンで手に入る玩具で遊んでいた。


 「あのな、オセロは単純なゲームだけど、なにも考えずただ駒を置いたって勝てないんだぞ?」


 「俺だって考えてんだよ!アレだろ!?角取れば勝てんだろ!?」


 「さっき、4つ中3つ角取って負けたろ、お前」


 あれはその方が僕の駒が増えるから、わざと取らせたんだけどね。


 「むぁあああ!!次!次は違うヤツでやろう!!出来ればボードゲーム以外で!!」


 「別にいいけど………」







 「花見酒5文、タネ1文、カス1文。上がり」


 「ぬぁあああ!!あとちょっとで赤タンだったのにっ!!俺の青タンとタン3文が!!」


 花札はかなり運に左右されるとはいえ、それでもやっぱり自分に有利に進めるには頭を使わないといけない。相手の取った札、自分の持ち札、場にある札、それ等をちゃんと考えて札を出していかないと、今のシュタールのようになる。


 「カス1文。上がり」


 「ちょぉお!!俺の三光がぁ!!」


 「文句言うくらいなら、役が出来た時に上がっとけ」


 「だって、手持ちにまだ20文の札が………」


 ま、その気持ちはわかるけど。

 つーかアレだな。このアホの勝てるゲームなんてじゃんけんくらいなもんだ。


 「雨四光!こいこい!!」


 「タネ2文、カス1文。上がり」


 「ぬがぁぁぁあああ!!」


 っていうかコイツの引きはおかしい。




 じゃんけんだったら全敗もありうるかもな………。






 僕は、もしこれが実戦だったらミンチになるくらいシュタールをボコボコにして、宿を出た。シュタールとは食堂で別れたので、今は1人である。


 もう夜遅いな。久しぶりに地球の遊びをしたからか、完膚なきまでにシュタールにボロ勝ちしたからか、今はだいぶ気分がいい。


 よっし!明日も頑張ろうっ!!





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