刀の国日本!!さぁ、お待たせしました、和製刀剣の登場っ!?
さて、昨晩アニーさんが帰ってから、前々から用意した物を引っ張り出してきた。ようやくこれを渡せる。
僕の技術と知識の粋を結集して、さらに研鑽に研鑽を重ね造り上げた至高の美術品。
剣と供に歴史を刻んだと言っても過言ではない国、ジャパン!!そう!今回の剣は日本製なのだ!!
「お呼びですか、キアス様?」
トリシャが魔王の間に入って来るのを確認して、僕はそれを取り出した。
刃渡り100㎝弱、赤みがかった金色の刀身に、鍔の無い拵え。そして―――
「また、不思議な形状の剣ですね」
左右3つづつあしらわれた枝刃。
そう!七支刀である!!
ホントは中国が原産とか言われてるけど、日本神道の儀礼用として使われてるから日本製!!
え?刀?僕がそんなマジョリティな武器、造るわけ無いじゃん!!
いいよねー七支刀。日本では石上神宮に保管されていて、刀身に文字が刻まれているけど、大半が判別不能、いつ、どこで、誰が造ったのかが判然としない謎の多い代物なのだ。いや、歴史的にたぶん大陸から渡ったものだと言われてるけどね。
でも!!
中国や朝鮮半島で七支刀が出土した事はなく、日本でしかその存在を確認できない幻の刀剣と言い換えてもいい剣なのだ。別名六叉の鉾。和製奇剣といえば、やっぱりこれだ!!
本来は儀礼用の祭具なのだけど、僕はこれを見た時にピンと来たね。この枝刃、どう見てもソードブレイカーじゃん!!
まぁ、本来の七支刀がただの儀礼用だったところで構わない。僕が造ったのは完璧実用刀なのだから。
「キアス様は本当に不可思議な形の剣がお好きですね」
やや苦笑しているトリシャ。呆れてるのかもしれないが、趣味なので許してほしい。
「トリシャ、君にこの七支刀をあげようと思って呼んだんだ」
刀身はオリハルコン。スサノオノミコトが持っていた草薙の剣もヒヒイロカネ製だったそうだし、そういう意味ではこの七支刀だって見劣りはしないぞ。
鍔はないけど、柄は日本刀と同じような物にした。いや、ホラ、僕の持つ溢れんばかりのサムライ魂が、ここは譲れないって言ってね。まぁ、本家本元の七支刀は鍔も鞘も見つかっていないので、どっちにしろ刀身以外はオリジナルで造らないといけなかったんだけど。
「え、でもこれって………」
「まぁ、武器の要らないフルフルは別にしても、パイモンに新しい武器を造ったのに、トリシャに渡さないわけにはいかないだろ?」
正真正銘オリハルコンの長剣。値段にしたら本気で国が買える値段になるだろう。正直、そこに美術的な値段も含めてほしい。ああ、七支刀カッコいい………。
「し、しかし………」
「もしかして、剣自体が気に入らない?」
なおも言い淀むトリシャに、不安になって尋ねる。
「い、いえっ!!決してそのような事はっ!!」
「でもやっぱり僕の趣味全開だし、普通の剣の方が………」
「何を仰っているのですか、キアス様!!素晴らしい刀剣です!!形状も含めて、実に美しいです!!」
「じゃ、もらってくれるよね?」
「なんかズルいですよ、キアス様!!私は今まで、大してキアス様のお役に立てていませんし、こんな高価なものやっぱりいただけませんよ!!」
やっぱり素材がオリハルコンだと、普通は遠慮しちゃうんだね。シュタールなんかグイグイ来るのに。
「そっかぁー………。せっかくトリシャのために造ったんだけどなぁ………。この剣は他の人にはあげたくないし、このままずっと倉庫で埃を被って過ごすんだね。可哀想だなぁ………。勿体ないなぁ………」
そういえば石上神宮でも、七支刀は長い年月忘れ去られてたんだったか………。
僕は万感の思いを込めて七支刀を眺める。
傑作なんだけどなぁ。ソードブレイカーとしての枝刃は、オリハルコン以外では絶対にまともに機能しないし、両刃なので斬撃にだって使える。むしろ、フランベルジェのような一薙ぎで複数の裂傷を作ることも可能だし、鎌のように引っ掛けて切るという用途もあり、直剣なので突きにも使える。
あぁ、カッコいいのになぁ。
「わ、わかりましたっ!!いただきます!!
謹んでその剣を賜りますからっ!どうかそんなお顔をなさらないでください!!」
「えっ?ホント?よかったぁ」
「キアス様、台詞が棒読みです………」
「ソンナコトナイヨ」
「やっぱりズルいですよぅ………。父の持つ剣より、明らかに上等な品じゃないですか………」
あ、気にしてたのはそこか。確かに、トリシャとしてはアムハムラ王より上等な剣は持てないよな。仮にもあっちはオンディーヌからの賜り物だし。
「それなら、普段はこのレッグホルダーに入れとけばいいよ。普段は今まで通り、僕のあげたファルシオンを提げてさ、いざという時には七支刀を抜けばいい」
七支刀をレッグホルダーに収めて、僕はそれをトリシャに手渡す。
「こんな、国宝級の品、傷でも付いたらと気が気じゃなくてとても使えませんよ」
「バカだなぁ。こんな剣なんかより、トリシャが傷つく方がよっぽど大問題じゃないか。いいかい?危なくなったら、絶対にこれを抜いて身を守るんだよ?」
「はい………。………………やっぱりズルいです………」
頬を染めるトリシャが、レッグホルダーを受け取りながら顔をうつ向け、ボソボソと何か言っていたが、残念ながら聞き取れなかった。
やっぱり、そんなに嫌だったのだろうか?