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 世界は常に流動してるんですよ、アヴィ教さんっ!?

 それから一週間。世界は目まぐるしく変化していった。


 まずはアムハムラ王国。アムハムラの運送業、通称『王国空運』は瞬く間にそのシェアを広げ、今や真大陸最大の業績を叩き出すまでに至った。

 これには、いち早くその有用性を理解した商業組合の助力も大きかった。それまであった商業組合アムハムラ支部を、本部より大きな建物に変えて、より多く、より早く物流を管理する組織にしてしまった。この王国空運に早くから順応した国は、その分物流の活発化に繋がり、大きな利益をあげているらしい。アムハムラ王国の国民も、細々と営んでいた漁業が商売として成立し、魚を売ったお金で新鮮な野菜類を購入したりと、栄養面でも充実し、例年より病にかかる人間が少なくなったようだ。僕としても、今回この産業を起こした第一の目標は、アムハムラ王国民の健康状態の改善にあったので、その点は胸を撫で下ろす思いである。


 そうそう、そういえば僕がアムハムラ王に会いに行く道程で立ち寄った村々で、ちょっと恥ずかしい噂話が流れているそうだ。


 『オンディーヌ様は、アムハムラ王に聖剣を授ける道中、病に苦しむ村人に聖水を分け与え、その苦しみを癒し、病を治した』


 というものだ。


 なんでも、アムハムラ王を助けたオンディーヌの噂は、その服装や馬車、牽引するモーモに至るまで流れていたらしく、時期を同じくして起こった出来事と混同されてしまったのだ。お陰で、オンディーヌの髪の色は水色か黒かで、ちょっとした論争が起こるほどだとか。この国発祥のオンディーヌ教とか、マジでやめてくれよ?




 アムハムラ王国の発展を機に、ソドムにも多くの人が流入し始めた。交通の便が悪いので、想定していたよりかなり少なかったのは計算違いだったが、それでも充分な人数の商人と冒険者がソドムを拠点にし始めた。今現在、ダンジョンのアイテムは玩具に特需が発生し、その他のマジックアイテムもジワジワと真大陸に浸透し始めている。

 玩具は、真大陸の貴族に大流行し始め、それを真似た物まで出回り始めたので特需は持ってあと半月かそこらだろう。僕はもう儲けるだけ儲けたので手を引くことにする。これからはどんどん値が下がり、終いには値崩れを起こすはずだ。


 とりあえず、真大陸と『魔王の血涙』を繋ぐ橋を作った方がいいな。軍隊に利用されないような細工もしよう。




 魔大陸側は想定通りだ。あまり目立った混乱もなく、ダンジョン、町ともに順調である。ただ、真大陸と違って、魔族は魔物の肉を平気で食べる風習があり、倒した魔物の肉がゴモラの主食になってしまい、死骸から再回収される筈のエネルギーが減ってしまった。真大陸では、カーバンクルのような特殊な例を除いて、魔物を食すのは冒険者くらいのものだったからウッカリしていた。まぁ、食した残骸の骨なんかはちゃんとダンジョンに吸収されているし、排泄物や生活ゴミからも吸収できるので、結構な量のエネルギーは補充できているのだから、これで文句をつけるのは贅沢というものだ。

 治安の悪化を心配していたバベルだったが、人員を多数配置した事により、思った程治安の悪化はない。この度自警団を、まんまだが『治安維持部隊』と呼称を変え、正式に僕の配下の部隊として活動させ始めたのも大きかったのかもしれない。

 アカディメイアの教師達は、それぞれ独学に近い形で勉学に勤しみ、得た知識を生徒に伝えているようだ。やっぱり魔族にはおバカさんが多いので、彼らも四苦八苦しているようだが、そこそこ優秀なのもいるようで、半年後には使い物になる生徒を卒業させると豪語された。

 半年やそこらで魔族のおバカさんがまともになんのかね?


 アレクサンドリアは平穏なものだ。農業、漁業に活発に取り組み、少量ながらもマジックアイテムも普及している。通貨の感覚には不馴れなようだったが、それでもゴモラ、アカディメイア、バベルとの交易を繰り返しながら徐々に浸透し始めている。


 ただ、


 問題が全くないわけじゃない。まず、治安維持部隊に組み込んだコションの元部下の連中がアホすぎる。治安維持を任せたのに、そいつ等のせいで治安が悪化しては、本末転倒なのだ。というわけで、治安維持部隊には厳密な服務規程を設け、それを遵守させることにした。破れば放棄したコションの元支配地域の復旧と開墾に努めてもらう。この命令を発した直後から、逆にビクビクと怯えるように働き始めたコションの元部下共。ホンットに扱いづらい!


 次に、オールだ。


 何で遠ざけた筈のオールがここで出てくるのかといえば、あのアホ、レライエから一向に色好い報告が来ない事に痺れを切らしたのか、さらに自分の娘をこっちに送ってきやがったのだ。『娘には武器を造ってやる必要はない。ただ、気に入った者が居れば、直ぐ様手を出せ』そんな文をもらった。当然、その場で破り捨てたが、新たに訪れた11人の女の子達の処遇も考えなきゃ。

 つーかこれ、いつまでも続かないよな!?勘弁してくれよ。アイツの子供はあと280人もいるんだぞ!?男も混じっていたから、全部送ってくるわけはないと思うけど。無いよなっ!?僕にBLの趣味は無いぞっ!?


 魔大陸の方の問題はこんな所か。




 さて、アヴィ教である。

 あれからアヴィ教は、大方の予想通り迷走し始めた。教皇からの命令も無視して、その下の者がいがみ合い、対外的にはシュタールを魔王の一味として指名手配し、一度沈静化した魔大陸侵攻を再び声高に叫び始めた。

 しかし、教会上層部が混乱する下について魔大陸侵攻など御免と、それに呼応する国々は少なく、さらには北の各国を中心にアヴィ教離れが深刻化し始めたのだ。

 いち早くアヴィ教と縁を切ったのは、言うまでもなくアムハムラ王国である。本当に言うまでもない。

 それに他の北の3国も同調し、ネージュ女王国、トルトカ共和国、ガオシャン皇国はアヴィ教にサヨナラを告げたようだ。


 実はこの3国には、これからやってもらいたい事もあるので、こうしてアヴィ教の影響力が無くなったことは喜ばしい。


 北方4国まで糾弾し、もう既に信徒ではない各国に破門状を叩きつけたアヴィ教は、最早それどころでは無いと僕は思っている。


 というのも、宗派が細分化し始めたのだ。分かりやすく言うと、カソリックとプロテスタントのようなものだ。いや、それよりはグノーシス派やカタリ派なんかが近いか。大々的にそれまでの宗派の別派閥を名乗るのではなく、あくまでも教義に対しての個々人の認識の違いが表面化したのだ。


 混ぜるな危険、な宗教ではあるが、仏教と神道のようにその教義や神が混同されることは多々ある。ソロモンの悪魔、バアルも元々は神として崇められバアル・ゼブル(崇高なるバアル)と呼ばれていたものが、他宗教に否定的なキリスト教の聖書がバアル・ゼブブ(蝿のバアル)と呼称した事から、ベルゼブブという悪魔として聖書では定着するようになった。

 元々は、エジプトのセトと混同される嵐と豊穣を司る神様が、キリスト教の台頭により蝿の王、さらには糞山の王とまで貶められたのだ。


 閑話休題。


 そのように、他宗派の教義や神様、精霊などが影響を与え、または教義の矛盾点や曖昧な部分を独自に解釈していた者達が、台頭し始めたのだ。

 ぶっちゃけ、今までも小規模にこんな事はあったのだろうが、中心であるアドルヴェルド聖教国がぐらついたせいで周知となるまでに問題が大きくなったのだろう。下手をすれば宗教紛争にまで発展しかねないいざこざだが、それは真大陸の人間で何とかしてほしい。僕には関係ないし、巻き込まないでね。


 真大陸におけるアヴィ教は、今や完全に腫れ物扱い。大きくその影響力を失ってしまった。




 そうそう、勇者の件だ。

 アヴィ教所属だったシュタールは、当然ながらアヴィ教を離れた。今はアムハムラ王国を拠点にしている、というのが対外的な公然の秘密であり、さらにその真実は城壁都市ソドムに入り浸っている。まぁ、アニーさんという、スパイを放っているので問題はないだろう。ちゃんと忠告はしたしね。


 次にサージュさんだが、彼女も教会勢力とは距離を置くようだ。元々、アドルヴェルドに拠点はなく、天帝国の近くの小国でひっそりと生活していたそうなので、そちらに戻って今まで通りひっそりと暮らすらしい。そのままひっそりと暮らし続けてくれる事を切に願ってやまない。


 アオという勇者の消息は不明。取り纏め役だった教会がいまやガタガタなのでシュタールやサージュさんにも、今どこにいるかはわからないらしい。残る1人の勇者も消息不明らしいし、こんなんで魔大陸から攻め込まれたら大変だね。まぁやんないけど。


 さて、最後にあの変態勇者である。奴は、




 まだ牢から出れていないらしい。




 無駄に頑丈に作ったんだねー。





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