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 なんか手懐けられてるんですけどっ!?

 「おい、キアス………、なんかやりすぎじゃねぇ?」


 立て続けに起こる振動と轟音に、若干ひきつった表情のシュタールが聞いてくる。


 「いや、僕もここまで派手にやれとは言ってない。何より、どんどん近付いてきてるし、これは僕の仲間の仕業じゃないぞっ!?」


 マルコとミュルには、あまり怪我人が出ないように暴れてから、とっととダンジョンに逃げるよう言っておいた筈だ。この音は、今や完全にこっちに迫ってきている。どうしよう?スッゲー逃げたいけど、逃走経路から音がしてるんだよね。


 「とにかく、ここで騒がれるのは本当にマズい。予定を変更して、とっととズラかんぞ!準備しろ!」


 「「「はいっ!!」」」


 なんかパイモンの声が三重になって聞こえた気がするけど、今は無視だ。守衛室の扉をそっと開いて外を窺う。慌ただしく信徒の人達が駆けているが、皆顔には恐怖を浮かべて右往左往してんな。


 「よくわかんねーけど好都合だ。ここから離れたら指輪も使えるから、それで城壁都市まで逃げんぞ?」


 「それも俺へのツケかよ………」


 「嫌ならアニーさんの転移を使え」


 「お、その手があったな!!アニー、頼むぞ!」


 「………」


 「アニー、おいアニー!」

 「ん?すまないシュタール。聞いていなかった」


 「頼むぜアニー。今結構正念場なんだぜ?」


 「ヘマしたら置いてくかんな?」


 「ほら、キアスもこー言ってんだ。気合い入れろよ!!」


 「あ、ああ。すまない」


 「まぁ、アニーさんがヘマしたら、僕は助けるけどね」


 「酷くないっ!?」


 「そしてその為に必要な諸経費は、全部お前持ちだ」


 「尚更酷くないっ!?」


 当たり前だろうが。僕が、最初は敵として現れておきながら最後は命を懸けて主人公のために時間稼ぎをするようなMっパゲに見えるか?

 どちらかと言えば、これから世界のためにラスボスと戦う主人公に、定価でアイテムを売り付けるようなゲームの中の商人でありたい。


 つーか、やっぱり音が近付いてんな。こりゃ、本当にとっとと逃げないと巻き込まれそうだ。


 「ちょっと待て!」


 何だよシュタール!?マジ音近いんだから、モタモタしてらんねーぞ!?

 唇の前に1本の指を立てて、静かにするようにジェスチャーで指示をするシュタールにしたがって耳をそばだてる。


 『ウチの可愛い弟子はどこやっ!?あんのアホの奴隷になんぞされて堪るかい!!』


 『お待ちください、勇者様!!』


 『おどれ等にとってウチは勇者ちゃうやろうが!!四の五の抜かさんと、とっととウチの弟子とシュタールんとこの可愛子ちゃん、耳揃えて連れてこいや!!』


 『彼女等は罪人です!!』


 『やかましいわど阿呆!!んな戯言信じとんのは、アヴィ教のアホだけや!いいからそこどきい、まだ死にとう無いやろっ!?』


 『こ、この先は許可された者以外………』


 『なら、しゃーないな。そんな扉守って死ぬんがおどれの正義なら、ウチはそれを止めんよ?そんなんよー止めれんわ。


 でもな?


 それがおどれの正義なら、残念ながらウチの正義とかち合うねん。どっちが正しいかちゃう。どっちが強いかでしか決めれん人間の業が、正義や。

 せやから、ウチはお前を殺してでもウチの正義を押し通す。


 もう一度聞くで?ホンマにその扉守るんが、おどれの正義でいいんやな?』


 『ひぃぃぃ!!』


 なんかヤクザみたいな追い込み方してる奴がいるなぁ。怖いよ。魔王より怖い。


 「関わり合いになりたくない声が聞こえたな。やっぱりとっととフケようぜ?」


 「いや………、今の知り合いの声だ………。悪りぃけど、ちょっと合流してくんね?」


 えぇえ。ヤだよ。だって怖いじゃん。どうやら勇者の1人みたいだし、僕としては会いたく無い。


 「頼むよ………。場合によっちゃ、あいつが俺達の代わりに捕まりかねねー」


 「僕が見ず知らずの他人のために、リスクを犯すような博愛主義者に見えんのか?」


 「アニーの師匠なんだよ」


 「………」


 クソッ。無駄なリスクだ。


 目的地を変え、音のする方に進もうとしたら、轟音と共に扉が吹っ飛んできた。


 危なっ!!パイモンとフルフル、そしてなぜかアルトリアさんとレイラが僕を庇うように立ち、粉塵の奥に居るソレを警戒する。


 「ありゃ?なんや、ウチが手ェ出す前に逃げ出しとるやないか?骨折り損のくたびれ儲けっちゅーんは、こういう時に使う言葉やな。あっはっはっは!」


 淡い黄緑色の髪の毛の少女がそこにいた。魔女っ子っぽい、デフォルメされ過ぎたローブを着て、昂然とこちらに笑顔を向ける少女。その大きな碧眼を楽しそうに歪ませて、笑う少女。コレがさっきの南にいるらしい帝王みたいな口調の源?普通に可愛らしい、ただの少女に見える。


 でも、粉塵がおさまり、少女の背後に広がる惨状を目の当たりにして同じ感想を抱けるほど、僕の危機意識は欠落していない。


 なんだこの、凄惨な風景。ボロボロになった壁、床、天井。そこに無造作に打ち捨てられて転がる人達。中には聖騎士の鎧を身に着けている奴までいるぞ!?


 「師匠、全部倒した」


 「ししょ、みんな寝てる。死んでない」


 「おぉ!マルちゃんとミュルちゃんはお利口さんやなぁ。後で飴ちゃんあげるさかい、ウチのお家まで行こうなぁ?」


 「うん!」


 「あ、ました」


 っていうか、なんでマルコとミュルがこの人と一緒にいんの!?


 「マルコ、ミュル、僕の指示では2人はとっくに城壁都市まで行ってる筈だけど?」


 「あ………」


 「うぅ………、忘れた。ミュル、悪い子?」


 『忘れてた』が正解な。


 「なんや、見慣れん子ぉがおると思えば、マルちゃんとミュルちゃんの知り合いかいな。あんま叱らんといてな、この子等ウチを手伝ってくれたんやさかい」


 「はぁ………。まぁ、コイツらにお目付け役も付けず単独で動かした、僕のミスなので怒りはしませんけどね。ほら、マルコ、ミュル、怒んないからこっちおいで。それと、知らない人に付いてっちゃいけません!この人はいい人みたいだけど、世の中どんな人がいるかわからないんだから」



 「はい………。マスタ、ごめんなさい………」


 「ました、ごめんなさい。でもミュル、頑張った。頭、撫でる」


 うーん、最近ちょっとミュルを甘やかしすぎたな。『撫でて』が正しいんだけど、やたらと偉そうに命令された気がする。


 「なぁなぁ、あの子誰やねん?ごっつ可愛いな!おどれの知り合いなんやろ?」


 「知り合いっつーか、ダチだな。ただの商人なんだけど、俺達が捕まってるのを知って助けに来てくれたんだよ」


 「いい子やねっ!!ごっさ可愛いしっ!!マルちゃんとミュルちゃんにお兄さんぶっとる感じも堪らんっ!!飴ちゃんあげたら付いてくるやろか?」


 「発言が犯罪者だぞ?

 まぁ、アイツを釣ろうと思ったら天帝金貨が必要だろうな」


 「なんやえろう高いんやね」


 「ああ、あんなナリして凄腕の商人だからな。俺達もアイツにはいつもむしり取られてる」


 「ほぇ〜。可愛い顔してしっかり者なんやねぇ」


 なんか勇者2人がのんびり話してるけど、今は脱出優先だっつの!!


 「シュタール!!いい加減ここから出なくちゃまた牢生活だぞっ!!」


 「おっと、そうだった」


 僕が駆け出すのに合わせて、他の人も駆け出す。


 「元気ええね。君、シュタールの友達なんやろ?ウチとも仲ようしたってな?」


 聞き取れないほどじゃないけど、訛りがあるなこの人。まぁ、いくら訛ってても僕はなんとなく聞き取れるんだけど。


 「おっと、しもた。


 ウチはサージュっていうんだ。君は、キアス君?でよかったかな?」


 「ええ。商人のキアスです。シュタール達とは多少縁があって、今回はこうして助けに来ました」


 「堅いけど、大人ぶって喋っとるのも可愛いなあ。なぁ、お姉さんがいいモンやるさかい、ちょっとついてきてんか?」


 「そういう事を言う人に付いて行っちゃいけないと、祖母が遺言で言っていたので申し訳ありません。


 それと、またお国言葉が出てますよ?」


 「おっとっと。

 いやぁ、興奮しちゃうとどうにも方言がでちゃってね。にしても君可愛いねぇ。どうだい?ちょっとその辺でお茶しない?」


 「今逃走の真っ最中ですけどっ!?」


 それに発言がおっさん臭いよ、この人!!


 「なつく犬より、自由気ままな猫を追いかけたい性分なので」


 「ほんならウチなんか猫っぽいよ。魚好きだし!」


 「積極的な女はもう腹一杯です!!」


 「プレイボーイさんやなぁ。それもそれでエエかもなぁ」


 「シュタールさぁん!?この子ちょっとどうにかしてくんない!?」




 当然、サージュさんは城壁都市にもついてきた。


 勇者2人目………。





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