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 勇者(笑)達っ!?

 「そうです、僕が第13魔王、アムドゥスキアスです」


 僕がそう言うと、痛いほどの沈黙がこの場に降り注いだ。


 「ま、魔王だとっ!? バカを言え! 貴様のような貧弱そうな魔王などっとべるちぇ!!」


 火の勇者さんの言葉を最後まで聞く事はできなかった。兵士に変装したパイモンが、後ろから蹴り飛ばしたからだ。


 「キアス様への悪口雑言は聞き捨てなりませんよ、この小物!!」


 「パイモン、丁度いいからこいつら全部牢の中に放り込んじゃって」


 「はいっ!」


 壁に激突してフラフラしているド変態勇者に、パイモンは無造作に近づいてその胸ぐらをつかむ。


 「は、放しなさいっ!」

 「私に命令して良いのは、ありとあらゆる状況においてキアス様のみです。弁えなさい!」


 そう言ってやっぱり無造作に牢に投げ込むパイモン。あーあ。頭から落ちたよ。まぁ、腐っても勇者だし、あんなんじゃ死なないよね。


 「ゆ、勇者様っ!?う、うわぁぁぁ!!魔王だぁ!!魔王が現れたぞ!!」


 ド変態勇者の情けない幕切れに、一緒に来ていた術師達が泡を食って逃げ出そうとし始めた。だが無駄だ。


 「フルフル」


 「了解なのー」


 アホめ。お前らに逃げられたら応援を呼ばれかねねぇだろうが。


 フルフルが水の腕で拘束した術師達を、パイモンと協力してレイラとミレが捕まっていた牢にぶちこむ。


 「鍵閉めてっと。パイモン、この鍵ぶっ壊しといて」


 僕が地面に予備も含めて3つの鍵を捨てると、それをパイモンが神鉄鞭で叩き潰す。あーあ、これでコイツ等は牢を壊さなくちゃ出れなくなっちゃった。


 しかも魔法無しでな!


 「さ、とっととこんな胸クソ悪いとこ出ようぜ。もうちょっとすれば、僕の手の者が騒ぎを起こすはずだから、それに乗じて逃げよう」


 「い、いや、お前それよりさっきのは何なんだよっ!?」


 こんな場合だというのに、一々そんな所に引っ掛かるなよ。シュタールを無視して廊下を進み、扉の奥にある守衛の詰め所までいく。こっちはあらかじめ、無人にしておいた。上手い事、僕とパイモンが変装してもいい感じの兵士がいて良かった。幻術って、あくまでも幻術だから、下手に体に合わない大きさにすると、色々不具合が出るんだよな。あちこちぶつけたり、目の前の物にぶつかったり。まぁ、小さい兵士も僕より大きかったんだけどね。


 「おい!無視すんなって!」


 尚も駆け寄ってきて詰問するシュタールに、僕は心底鬱陶しく感じながらも答えてやる。


 「なんだよ? さっきからうるさいな」


 「お前、さっき第13魔王ってっ!!」


 「ああ、アレ?何お前、アレ信じたの?」


 「え?………………………………………………………ああっ!!なんだ嘘かよっ!!ビックリさせやがって!!」


 「ま、アレのお陰で皆いい感じに隙だらけだったからね」


 「ああ。見事なハッタリだったぜ!俺も一瞬騙されちまったからな!!」


 別に嘘だとは言ってないけどな。


 「随分長い一瞬もあったものだな」


 「うっせ。ああぁー。しかし助かったぁ。お前が来てくれなかったら、マジで魔王に助けを求めに行くところだったぜ」


 来んな来んな。アレって仲間にしないといけないんだっつの。お前を仲間になんかしねーよ。美女である他のメンバーなら考えないでもないけどな。


 「まぁ、今回アニーさんが失敗したのって、魔王のせいでもあるみたいだし、助けを求めたら助けてくれたんじゃねーの」


 いやー、マジでびっくらこいたもんね。僕が造ったマジックアイテムって、正式にはマジックアイテムじゃないんだね。


 「あ?どういう事だよ?」


 「あそこで拾えるマジックアイテムって、人間が作るマジックアイテムとは根本的に違うんだよ。

 普通は、さっき見た術式みたいにきちんとした魔方陣を用意して、そこに魔力を流す事によって発動するのが普通のマジックアイテムなんだよね。

 でも、ダンジョンのマジックアイテムにはそれがないんだ。魔法を付与して道具の中の魔力を使ってそれを発現させるから、あの発動阻害の術式にも引っ掛かる」


 いやー、ビビったビビった。こりゃ、一度ちゃんとしたマジックアイテムの作り方を学んでおいた方がいいかもしれない。でないと、もし今回のシュタールみたいな状況に僕が置かれた時、本気で困るからね。


 「よくわかんね」


 「わかれ。また今回みたいな事になったらどうすんだ? 言っとくが、今回僕がお前を助けたのは特例中の特例だ。アテにされても困るからなっ!!」


 「わかってるって。いや、なんか困った事があったら俺に言えよ? 何でも力になるから!」


 別にいいっす。バカに頼らなきゃならない程、困ってませんから。猫の手を借りたいほど忙しいけど、バカの手は願い下げなんで。




 「しかし遅いな………」


 何やってんだ、マルコとミュルは?


 手筈通りなら、そろそろ騒ぎが起こってもいい頃合いなのに。


 「あ………、あの、キアスさん………」


 名前を呼ばれてみてみれば、レイラがモジモジとこちらを見ていた。


 「助けてくれて………、ありがと」


 言葉少なにそう言うと、小さな体をさらに縮こまらせる。

 レイラは小さいから、そうやってるとミュルが頭撫でて欲しがってる時と被るな。

 僕は、ミュルにやるようにガシガシとちょっと強めにレイラの頭を撫でる。


 「フフ。中々カッコ良かったでしょ、僕?」


 「っ、はいっ!!」


 いや、そんな力一杯頷かなくても。ただの軽口だよ。

 「アタシもう、マジでダメかと思ったッス!そんな時、颯爽と現れたキアスさんが、あっという間にあの野郎をいてこまして、マジカッコ良かったッス!!」


 あー、なんか更にレイラのキャラが崩壊してきたな。最初はコーロンさんみたいな蓮っ葉な感じだったのに、これじゃチンピラBみたいな話し方だ。


 「あぁ、クソッ!今までまともな話し方とかした事なかったから、なんか変な感じだぜ。キアスさんの前なのに恥ずかしい!!


 『クソッ』って全然上品じゃねーな。『う○こ』?全然上品じゃねー!!」


 大丈夫だよ。お前今、ヒロインとして史上稀に見る暴言はいたし、今さら言葉遣いなんかで品位は落ちないから。落ちようがないから。


 「落ち着きなさいレイラちゃん。キアス様の前なのですから、まずはそのご尊顔を堪能なさい。この、一見天使かと見紛う愛らしい外見で、先程のエヘクトルへの無慈悲な鉄槌。思い出しただけでゾクゾクしますよねっ!? ねっ!?」


 「ああ、そうだな!! マジゾクゾクするくれーカッコ良かったッス!!」


 やべー。アルトリアさんはこの前からヤバかったけど、なんか本当にヤバイ人になってる………。レイラも乗るなって。この人のゾクゾクって、絶対お前の言うゾクゾクとは違うから。


 「あまり迷惑をおかけしてはいけませんよ。お声をかけるタイミングを計り、その時が来たらお淑やかに、かつアグレッシブに。例え卑下されても、それを喜びに変えなさい。その時、あなたは確実にキアス様のお心に留まっているのですから!!」


 「おぉ! そう考えると、確かに卑下されるのも悪くねぇな!!


 じゃあキアスさん! アタシ、バカッスけどキアスさんの事大好きッス!!」


 え、あ、え? なんか話についてけてないんだけど、何? 今僕告白されたの?

 僕今、人生で初めて告白されたの?


 「ダメだアルトリア。全然卑下してくれてねー」


 「いえ………、充分お心を独占していますね。きぃっ! レイラちゃん!もっとバカっぽく、蔑んでもらえるような告白をしなさい!!」


 「えー、だって嫌われたくねーし」


 「そんな事ではダメです!! 嫌われても、卑下されても、蔑まれてもなおお慕いする! それこそが真の敬慕ではなくって!?」


 「嫌われる必要も、卑下される必要も、軽蔑される必要もあんまり感じねーな。どんな風に思われてても、アタシはキアスさんが好きだ!!」


 「ならば貴女は今日から私のライバルという事になりますね。いいでしょう!! どちらがキアス様のお心を射止めるか、正々堂々勝負して差し上げます! よろしいですね、レイラ?」


 「ああ!! ぜってー負けねーぞ!! アルトリア!!」


 君たち、今の状況わかってる? 完全に僕ら蚊帳の外なんですけど、今ってプリズン○レイク並の大脱出の真っ最中なんだよ?


 ズゥゥゥン。


 お、始まったか。


 階下から響き渡る振動を感じ、教会内が慌ただしくなってきた。

 よしよし。陽動は成功のようだな。これに乗じて―――




 ズゥゥゥン。ズゥゥゥン!ズゥゥゥン!!ズゥゥゥン!!!ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!


 あれ? なんか中々振動が止まないんだけど?


 っていうかコレ、近づいてきてないっ!?





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