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 アドルヴェルド聖教国の惨状っ!?

 ひでぇな………。


 アドルヴェルドに潜入した僕の感想は、その一言に尽きた。いや、他になんと言うべきか。


 一見して、町は平時と変わらぬ喧騒に包まれている。威勢よく商品を売る商人。商人から物を買う人々。商人に物を売る行商人。様々な人が行き交い、様々な行動をする。


 だが、この国は今、水面下ではボロボロに崩れ始めている。


 勘のいい商人は既にこの国を後にしているようだ。以前シュタールと初めて会った商会も、今はもぬけの殻だ。


 死んだ枢機卿とやらは、どうやらかなりの権勢を得る人物だったらしい。教会内部の人事、経理に深く関わり、さらには一大派閥を取り仕切る大物だったようだ。

 そんな人物が急に消えれば、組織がぐらつくのは当然とも言える。だが、問題はその枢機卿が手を染めていた汚職の数々にあるようだ。教会内部は、いまやその汚職の証拠や噂の根絶に躍起にならざるを得ない状況にあるようだ。

 下手をすれば、信者が大量に教会を去る可能性も出てきたからである。


 だが、そんな一大事においても纏まりきれないのが思想組織というものだ。これ幸いと、死んだ枢機卿の敵対派閥が権益を得ようと奔走し、そうはされまいと枢機卿の派閥が次代のトップを決めて纏まろうとするも、そのトップ争いで派閥がいくつにも割れ、今や教会として機能を保てない程まで屋台骨にはヒビも亀裂も入っている。


 そんな、心底下らないゴタゴタの1つが、火の勇者による勇者の座簒奪行動だ。

 火の勇者が、教会から認められている勇者の座にある、光の勇者(笑)のシュタールを罠に嵌めてその地位を奪おうとしているらしい。おまけに、教会内部としてもそれに乗じて枢機卿の問題を全てシュタールにおっ被せる気でいる。


 『勇者による枢機卿暗殺事件!!続々と浮上する汚職の数々!?彼は本当に勇者だったのか!?』


 ワイドショー風に言えば、こんな感じでお茶を濁すつもりだろう。何せ、教会所属とはいえシュタールはアヴィ教の信者ではない。

 非難は全てシュタールに向く。




 とでも思っているなら本当にお笑い草だ。WWWだ。


 信用や信頼というのは一朝一夕で築けるようなものじゃない。しかし、失う時は一瞬で失うものだ。


 シュタールはこれまで、真大陸の様々な国、多くの人を助けてきた。そんなシュタールを、こんな無理矢理犯罪者に仕立てあげてトカゲの尻尾にするには、教会の信用は高くはない。折しも、一国の王族の命を聖騎士が狙った直後の話である。

 勿論、火の勇者だってそれまで得てきた信用はあっただろう。だが、今回の件でそれも完全に失墜してしまったようだ。繰り返すが、信用を失うのは一瞬なのだ。


 情報に精通する真大陸各国は、既にこの件に関して抗議を寄せているようだし、巷間に流れた噂話程度の情報でも、民衆がデモを起こす事態にまでなっているようだ。一番抗議活動が活発なのは言わずもがなだがアムハムラ王国である。シュタールが飢饉の際に、空回りながらも尽力した話や、前回の王襲撃の際の助太刀、さらにはそれまでのアヴィ教の信用が無かったことも相まって、アムハムラ王も抗議活動の沈静化に辟易としているようだ。ご愁傷さま。


 他にも、北側を中心にアヴィ教離れが進んでいるようだ。これも日頃の行いのせいだな。


 なんと言うか、ただ信仰に胡座をかいてきただけの輩が、その信仰をかさにきてやりたい放題やろうとするも、既に色々やりたい放題やらかしたせいで、全然かさにきれてない様、というのは滑稽を通り越してシラケるものがあるな。




 なぜ僕が、こんな裏まで含めた事情に精通しているかと言えば、


 「キアス様、司祭長との面会の約束を取り付けてきましたっ!!」


 今とっても楽しそうに僕に話しかけてくるトリシャから聞いたのだ。今や情報大国と言っても過言ではないアムハムラ王国、王女兼騎士団長。情報源としては、これ以上ないうってつけなのだ。


 「ありがとう。もう一度手順をおさらいしよう。

 まず、トリシャの護衛として僕たちが教会内部に潜入する。変装できる僕、パイモン、フルフルがシュタール達の元まで行く。そこである程度騒ぎを大きくするから、トリシャ達はそのタイミングで教会を出てくれ。見られてもいいけど、できればあまり人気の無い場所でダンジョンまで転移してくれ。いいかい?」


 「了解しました!」


 何が楽しいのか、やたらと張り切るトリシャに若干ヒきつつ、僕は仲間達を見回す。


 パイモン。フルフル。トリシャ。マルコ。ミュル。ウェパル。


 「言っとくけど、シュタールなんて別にどうでもいいからね。目下最大の敵対組織であるアヴィ教会を、この機にガタガタにしてしまおう!というのが今回の目的だぞ!

 いざとなったら、あんな奴見捨てていいからな!!」


 僕の言った事を理解しているのかいないのか、曖昧な返事を返すみんなに、僕は高らかに宣言する。




 「さて、一丁ド派手に教会の犬どもを欺いてやろうぜ!!」




 今度は勢いよく返事が返ってきた。





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