魔王が勇者を助けるわけないじゃん!!いやいや。ないない。絶対無いって!!そう思うでしょっ!?
助けに行くわけ無いじゃん!
僕は魔王で、シュタールは勇者なんだよ?
だいたい、今僕ってば超忙しいの。新しく作った町の管理やら、法の整備やら、治安維持の方法やら、色々やらなきゃならないことが山積してんのよ。
そりゃあ、転移の指輪の代金は惜しいよ?でもだからって、一々アドルヴェルド聖教国っていう敵地のど真ん中に、勇者を助けに行くなんて真似、いくらなんでもしないって。
あー忙しい忙しい。
「お呼びですか、キアス様?」
「お、来たなレライエ」
相変わらずおしとやかそうなレライエが、城壁都市ゴモラにある僕の執務室に入ってきた。
「呼び出したのは他でもない。一応、法律の草案は完成したから、あとは幹部連中や君の部下達にも確認してもらって、瑕疵や抜け道がないか確認してほしい」
「もう少々時間がかかるものとばかり思っておりましたが、流石はキアス様ですね。ロロイ殿達も呼び寄せて、早速検討に移りたいと思います」
「うん。あ、あとこれ、アカディメイアの教育マニュアル。あそこの代官に渡しといて」
「なんと、こんな資料まで作っておいででしたか。休養はきちんととっていますか?」
「アハハ。実は4日ほど徹夜しちゃったよ。まぁ眠いけど、僕は魔王だから寝なくてもなんとかなるしね」
「いけません。いかに魔王といえど、疲労は溜まります。これからは、もう少し我々を頼っていただきとうございます」
「形無しだなぁ。わかったよ。あのさ、早速で悪いんだけど、1つお願いしていい?」
言質をとったので、これ幸いと前々から考えていた案を実行する。
「悪いんだけどレライエ、君にソドムの直轄管理をしてもらいたい。僕も口出しするけど、基本は全部君に任せる。あ、ついでに僕の仲間にならない?」
僕の最終奥義、『全部丸投げ』だ。レライエはかなり優秀な人材だ。書類仕事や、ある程度の経済観念もある。しばらくは僕が手を出す必要もあるだろうが、経験を積めば街の管理を任せるにはうってつけなのだ。だが、だからといって無警戒に重用するのは得策ではない。僕はまだ、彼女に全幅の信頼を置いたわけではないのだから。故に、仲間にしてしまって、裏切りの対策をとるのだ。まぁ、心配しすぎだとは思うけどね。
「え、あの………、お話が見えないのですが………。妾は、今でもキアス様の臣下のつもりですが………」
いきなりだったからか、レライエも戸惑っている。まぁ、『仲間にならない?』って、ここまでいいように雑用を押し付けていた身としては今さらな発言だし、僕の召喚を知らなければ意味不明な発言だよな。
「僕はちょっと特殊な召喚術を利用して、今まで仲間を増やしてきたんだ。
これを使って仲間にしちゃうと、その人は僕を害する事が出来なくなる。おまけに、隠れて裏切ろうとしても苦痛が体を苛んで結構辛いらしいよ。勿論、そんな扱いを受ける謂れはない、って言うならやんないけど。どうする?」
「そういう事でしたか。そんな事ならば、わざわざお尋ねにならなくても答えは決まっております。是非とも妾をあなた様の真の配下として迎え入れていただきとう存じます」
二つ返事だ。カッケー。僕だったらあんな事言われたら絶対受け入れない。いくら信用してる相手でも、メッチャ怖いじゃん。
「そう。よかった。改めて、これからもよろしくね、レライエ」
「はい。この身、朽ち果てるまであなたへの忠義を誓い、永久に寄り添うともがらたらんと」
難しい言葉で誤魔化そうとしてるけど、『永久に寄り添う』ってあたりがオールの娘らしいよね。
さて、後は同じようにソドム側にも法を敷いて、あっちもあっちで統治する人を決めないと。せっかく人はいるんだし、どうせなら議会政治を取り入れようか。
選挙で代表を選んで、その代表の人達に管理してもらおう。ああ勿論、医療、教育、商業にはあまり手出しはさせない。利権や思想が絡むと、政治なんてあっという間に馬鹿のおもちゃ箱になっちゃうからね。あくまでも立法組織、それもあまり力をつけすぎない程度の組織が望ましい。となると司法組織も必要で、行政は僕が行うから………。なんだかややこしいな。これも誰かに丸投げしたくなってきた。
とはいえ、議会制民主主義は僕にとっても馴染み深い政治体制だ。学校の卒業生が集まれば、行政組織も代行させることができるかもしれない。いわゆる官僚制ってやつだ。
立法組織との癒着が恐いけど、そんなに大きな街じゃないし、隠れてコソコソ悪巧みするにも大きな金の流れがあれば、皆気付く。法律も、汚職や不正にはかなり厳しい罰を用意しよう。選挙管理は、外部組織としてゴーロト・ラビリーントの住人を起用し、ここでも不正に眼を光らせる人間が必要だな。まぁ、そこら辺はコーロンさんに任せよう。
ちょっと先の話になるけどね。
えっと………、次の案件は………。あ、ダンジョンの管理についてだな。転移対策はやっぱりなんかしら用意しておかなきゃな。いざとなってから慌てても遅い。
となると、例の『魔法は使えないけどマジックアイテムは使える術式』ってのが気になるか。うん。あまり内政ばかりに気を取られて、外部の動きに疎くなるのも良くないよな。ここらで目下の仮想敵対国としてアドルヴェルドに潜入するのも悪くない。
シュタールの事なんかどうでもいいけど、あくまで術式のため、ひいては僕の保身のため、アドルヴェルドにある件の牢屋を視察に行こう。
べ、別に、この為に徹夜で仕事を終わらせたとかじゃねーし、あまつさえ、あいつ等の事が心配だったとか、そういう事じゃねぇ。断じて違う!!
これはあくまでも魔王として、ダンジョンマスターとして必要な行為であり、正当な潜入だ。
ついでに借金の取り立てもするし、頼まれれば、まぁ助けてやらんこともない。だが、勘違いしないでほしい。僕は決してあんな奴等に気を許したとか、そういう理由で遙々聖教国まで出向くわけではないのである。
というわけで、僕は再びあの聖地(笑)に足を踏み入れる事となった。どうせだから、例の指輪の稼働実験も行ってしまおう。
さぁ、面白くなってきやがった!