光の勇者の受難・4
その時だった。
激しい音と共に大会議室の扉が開き、大勢の聖騎士が室内に雪崩れ込んできたのだ。その数、約30。
「お静かに!お静かに願います!!」
隊長らしき男が、場を制するように大音声で指示を出す。
だが、その指示に従おうとする者は少ない。
「ミレ、アルトリア、アニー、レイラ、全員固まれ。サージュ、アニーと一緒に後衛に回ってくれ」
「おやおやシュタール、君はいつからウチに指図できるほど偉くなったんだい?」
「お前は後衛専門だろうが!!仲間もいないんだから、前衛は俺らに任せとけって!」
「仕方ないなぁ、君にウチを守る栄誉でも与えるとするかね」
「何様だお前は!?」
そんな気の抜けたやり取りをしつつも、俺たちは戦闘体勢を固めつつある。
片や、相手の聖騎士は周囲を取り囲むばかりで仕掛けてくる気配はない。
「アーダル隊長、これは一体なんの騒ぎですか?」
唯一現状を静観していたエヘクトルの野郎が、相も変わらぬムカつく笑顔でその隊長に声をかける。
「失礼、エヘクトル隊長。少々勇者殿の手を煩わせる義がございまして、こうして突然の来訪と相成りました。皆様どうかお許しいただきたい」
「俺に?」
ここには3人も他に勇者がいるのだが、こいつら教会関係者が『勇者』と言えば、それは大抵俺の事だ。
「シュタール・ゲレティヒカイト殿、ユヒタリット枢機卿暗殺事件について窺いたき事があります。どうか、ご同行願えないでしょうか?」
「枢機卿暗殺についてなんて、俺はなんも知らねぇぞ?何を聞くってんだ?」
「ユヒタリット枢機卿は、生前最後に貴方を呼び立てております。如何な用件のお話があったのか、是非ともお聞きしたく」
「知らねぇし。つーかユヒタリットって誰?」
「詳しくは騎士団の詰め所にて………」
おいおい。なんか、かなりヤベェ雰囲気じゃねぇか、コレ?
「わりぃけど、俺はこれから予定があるし、アンタ等のお役に立つような話なんて持ってねぇ」
「調べてみねばわかりますまい。ささ、どうかご同行を」
話聞く気ねー。こりゃぁ、いっちょド派手にばっくれないといけないかな。
「なッ!?………離して………っ!!」
そんな風に聖騎士に意識を割きすぎたのがマズかった。エヘクトルが片腕を捻り上げるようにミレを取り押さえたのだ。エヘクトルも聖騎士。この場合警戒して然るべきだったのに、忘れていた。
「そういうことであれば、私もただ見ているだけ、というわけにはいきますまい。安心してください、我々は常に公平正大な聖騎士です。もし、本当にあなた達が無実であれば、すぐに済みます」
ケッ、何が公平正大だ。お前らはお前らの神が正しいと言えば、悪だって肯定しちまうだろうが。
「………シュタール、ごめん………」
「謝るんじゃねぇよ、ミレ。そいつの相手は俺がすべきだった、ごめんな」
そう言って、俺、レイラ、アルトリア、アニーは両手を挙げた。
「………不穏だな………。私はしばらくこの国に近付くのは止そう。風、光、そして火、皆壮健でな」
そう言ってアオは、連れと共に窓から飛び出していった。
「ウチは関係ないのよね?」
「はっ」
「あそ。じゃあ、その公明正大な捜査とやらの結果を楽しみにしときましょ」
おいおい、それだけかよ。
「もしもの場合は、ウチにも考えがあるよって、てんごばかり言いよったらホンマ、教会潰すで?」
あ、最後にちゃんと釘は刺した。相変わらず、地だと訛りがある言葉使いだな。サージュはそれだけ言うと、ドアから大会議室を後にした。
「では行きましょうか。シュタール殿?」
「だから、『殿』付けて呼ぶなっつの」
そうして俺達の状況は今に至るわけだ。どうやらアニーは聴取の際に転移を使って脱出したようだが、この後どうするつもりなのかは分からない。
つーか、あれよあれよと言う間にいつしか大犯罪者に仕立てあげられてんだけど?
「どーすりゃいいんだっつの!」
「あまり気に病んでも仕方ありませんわ。教会内部の権力闘争か、はたまた外部からの教会勢力の衰退を狙った犯行かはわかりませんが、巻き込まれた以上どうにもなりません。サージュ様と、アニーに期待するしか………」
「アニーはともかく、サージュに期待するのは止せ。アイツは気に入らない事があれば、力ずくだろうと無理やり解決しなけりゃ気の済まない奴だ。マジで教会潰れんぞ?」
ああ、クソッ!!
油断さえしなけりゃ、今頃ダンジョンに潜ってがっぽり稼いでる筈だったのに!!
「師匠を悪し様に言われるのは、弟子としてあまり気分の良いものではないな」
「アニー!」
嬉しそうなアルトリアの声に、俺も顔を上げればそこには、いつも通り仏頂面のアニーがいた。
「助けに来た。とっととここを出よう」