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 光の勇者の受難・3

 水の勇者。


 呼び名は水を意味する真大陸共通言語のアオ。本当の名を知る者はおらず、また、詳しい出時を知る者もいない。謎に包まれた女だ。


 「確かに、我々はアヴィ教徒ではない。だが、等しく人々を守るべき力を授かっているのも事実だ。故にこそ、火の言うように対策は練っておかねばなるまい。いざという時にあわてて準備するのでは遅いと思うが?」


 ブルネットと、黒い瞳。スラッとした細身の体に、不釣り合いな長剣を携え、アオは凜然とそう言った。


 「まぁ、確かにね」


 サージュは肩を竦めてそれを肯定する。


 「シュタール」


 「ん?」


 アニーが声を潜めて話しかけてきた。別に普通に話しかければいいのに。


 「そろそろ我々の持つ情報も開示しろ」


 「情報?」


 何かあったっけ?


 「このバカ!城壁都市及びダンジョンの情報だ。あの城壁都市に住まう住人の情報も含め、開示するなら今をもって他にないだろう!?」


 「住人の情報?」


 「ああ、もう!本当に間抜けだな!今の話を聞くに、あの都市で暮らす住民の多くが元奴隷だということくらい、すぐに察せ!」


 おお!成る程な!


 そういう事か。へぇ、あの人達って元奴隷だったんだ。通りで人種も年齢もバラバラだったわけだ。


 「どうしました、シュタール殿?」


 「その俺だけに『殿』付けて喋んの、やめろ。


 追加情報、ってわけでもねーんだけどさ、俺達こないだまでその第………何番目だっけ?」


 「13」


 サンキューアニー。


 「第13魔王のダンジョンに行ってきたんだよ。確かに結構デカかったし、あそこを軍隊で落とすのは、多分無理だな」


 「それは、どういうことですか?」


 エヘクトルが笑顔のまま、俺の言葉を促してくる。


 「まず、城壁を崩す意味がねえ。城壁には開け放たれた入り口があり、そこから侵入が可能だった。んで、侵入すると町へ行くかダンジョンに行くかしかできねえ。町には結構な数の住人が住んでてな、たぶんお前が言ってた、さらわれた奴隷達だろうぜ。みんな結構楽しそうにしてたぜ? んで、ダンジョンにも潜ってみたんだが、ありゃあ軍隊でどうこうできる場所じゃねーんだ。つーか、俺達も死にかけたし。序盤、中盤はなんとかなっても、後半からはマジできつい。俺達もまだあそこをくまなく探索したわけじゃねえけど、普通の兵士だったら瞬殺されかねねえ強力な魔物の巣窟なんだよ」


 トラップも強力だ。あの転移とか、どうすりゃいいんだって話だ。


 「あ、そーだ。サージュ、術師向けの武器手に入れたんだけど、買わねえ?」


 「武器?」


 サージュは近接戦闘はあまり得意ではない。だが、魔法との親和性が強いミスリルのメイスなら、喉から手が出る程欲しいだろう。


 「ほれ」


 俺が手渡したメイスを、重そうに両手で受けとるサージュ。その重量にしかめた顔が、瞬く間に驚きに変わる。


 「これ、ミスリルじゃないの!しかも、伝達率がいいから、不純物の無い純粋な総ミスリルよっ!?どうしたのよ、コレ!?」


 「魔王のダンジョンで拾ったんだ。あそこには、色んな物が落ちてんだよ。他にも、マジックアイテムがこんだけ」


 鎖袋から、転移の指輪やイヤリングを取り出す。


 「他の細々とした物は売っちまったから、今はこんだけしかねーけど、あそこに潜れば今なら中盤辺りまででも大儲けできるみたいだぞ」


 「光の、それはつまり第13魔王から奪ってきた、ということか?」


 アオが無表情で聞いてくるのに、俺は苦笑を返す。


 「んな勇ましい事じゃねーんだよ。あそこの魔王、何を考えてんのか、こういった品をダンジョンを通してばら蒔くつもりらしい。


 ダンジョンに潜る奴等に対して、過保護なくらいに配慮してんだ。まぁ、でなけりゃ俺や仲間は死んでたかもしんねーけど」


 「シュタール達が死んでたかもしれないって………。確かに一般の兵士には過酷そうね」


 「ああ。だが、奴隷の件といい、アイテムといい、よくわからない魔王だな」


 サージュとアオが首を捻ると、互いに頷き合った。


 「ウチは、やっぱり放置しといた方がいいと思うわ。でも、アオちゃんが言ったように、何があってもいいように準備だけは整えておいた方がいいわね」


 「私もそれがいいと思う。なんとなれば、第13魔王に敵対さえしなければ、有用なマジックアイテムを真大陸に普及させる事ができ、人々も豊かになる。警戒はしつつも、現状を維持する事が今は最も有効に思う」


 うっし。じゃあこれからも俺達はあそこで荒稼ぎをしよう。


 だがここで、待ったを唱える奴がいた。当然、エヘクトルである。


 「ちょっと待ってください!」


 結論が出かかっている現状に慌てたのか、ややうすっぺらい笑顔の仮面も剥がれかかっている。


 「魔族の作った物に、人間の生活を託すおつもりですか、あなた達はっ!?」


 「誰が作ろうと、技術は技術よ? 私たちは、別にそういった忌避感はないわ。君と違って」


 「火の、私も風に同意見だ。別に私達は第13魔王を受け入れると言ったわけでも、彼は安全だと太鼓判を押したわけでもない。

 ただ、警戒しつつも利用できるなら利用しようと言っているのだ」


 「それが第13魔王の策略なのかもしれないじゃないですか!?

 もし、そのマジックアイテムに何かしらの仕掛けでもしてあれば、真大陸に浸透してからでは遅いんですよっ!? 徹底的に調査をして、なんらかの痕跡がないか調べる必要があります!!」


 そう言って、俺の出したマジックアイテムを勝手に取り上げようとするエヘクトル。ふざけんなよ!? この指輪一個手に入れるのに、どんだけ苦労すると思ってんだっ!? 欲しいなら自分でダンジョンに潜れ!!


 「おっとぉ。事魔王関係の調査なんて、教会に任せてたらろくな事がないよ。これはウチが調べよう」


 「そういう事なら私も。風ほど魔法に精通してはいないが、意見は多い方がいいだろう?」


 「残りの3つは、教会で念入りに調べさせてもらいます!!」


 いや、何でみんな持ってく感じになってんの? これ、俺達のなんだけどっ!?





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― 新着の感想 ―
[気になる点] また、詳しい【出時】を知る者もいない。 ではなくて、【出自】です。
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