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 光の勇者の受難・2

 「そもそも、勇者とはなんであるか。


 それは、魔王に対抗すべく神が授けた寵児です。我々にも親はいます。しかし、皆さん生まれてからの年数はそれぞれ違えど、20代の最も活動的だった姿のまま生きています。

 なぜか?

 魔王がそうだからです。精強で、飢えず、病まず、成長せず、それ故に衰えない魔王。千年以上前の文献に、第1魔王の記述があったことからも、これは確実な事なのでしょう。

 魔王という世界のイレギュラーに対し、神の御子たる人間を守るため、我々は生まれたのです。


 ならばなぜ、勇者である我々は、今なお魔王討伐に動けないのでしょうか?


 1つは世界情勢という要因があります。


 30年前に世界全土で発生した食料危機。あれを再び起こすわけにはいかないのです。他にも様々な要因はありますが、一番の理由はやはり食料です。


 2つめは、我らを頼る人々の声を無下にできない、という理由があります。


 真大陸全土で発生する魔物被害、軍隊の手にも余るような魔物を我らが倒さなければ、むこの民が命を落としてしまいます。


 そして3つめ。


 これは最近出てきた問題なのですが、どうも魔王に対する危機意識の欠如した者が増え始めているらしいのです。


 由々しき事態、と言う他ありません。


 意識が低い、ということは対策を怠る、ということにも繋がります。しかも、よりにもよって『魔王の血涙』に魔王が生まれたこの時代にです!!


 意識改革、いえ、意識の改善が必要でしょう!


 我々が率先して魔王の危険性を説き、魔王のおぞましさを伝え、魔王に対する危機意識を民間レベルまで浸透させなければいけません!!


 まずは、前述の第13魔王からです。奴は『魔王の血涙』に城壁を造り、魔大陸侵攻を阻む意図が窺えます。こんな物を放置すれば、魔大陸から魔王が攻めてきても、反撃に転じる事が出来ません。

 それだけでなく、第13魔王は、あろうことか奴隷をさらい、人間である奴隷達を配下として取り込んだようなのです。これは、真大陸の生産力を落とし、さらには攻め込まれても奴隷達を盾にして魔族側の被害を減らすためだと考えられます。


 以上の事から、我々は目下の目標として第13魔王の討伐に乗り出すべきだと考えます。


 いかがですか?」


 いかがですか?


 じゃねえよ!! 話が長え!!


 エヘクトルの言う会議とは、どうやら独演会の事だったらしい。勘弁してくれ。意味もない、思想ばかりの混じった話しに、一体どんな有用性を見出だせばいいんだっつの!?


 場所はアラトにある大聖堂の中にある、大会議室だ。この人数の会議に、こんな広い部屋は必要ねえ筈だ。無駄もいいところだ。

 大会議室には俺、俺の仲間達、サージュ、エヘクトル、そして水の勇者とその隣に1人の男。全部で9人か。


 「質問、いい?」


 サージュが律儀に手を挙げてエヘクトルに聞く。


 「どうぞ」


 「まず、偏見のない純粋な第13魔王に関する情報が欲しいね。君の意見には明らかな偏向を感じるよ。

 ウチの聞いた話では、北側の各国の王と、ズヴェーリ帝国皇帝、リュシュカ・バルドラの天帝が第13魔王と直接言葉を交わしたって聞いたけど?」


 サージュの言葉に、エヘクトルの眉根が一瞬動く。だけど瞬きする間にそれは消え、すぐさまあの胡散臭い笑顔に戻った。


 「ええ。私もそのように聞いております」


 「今挙げた各国って、どれも未だに魔大陸侵攻には反対、ないしは慎重論の国だったと思うけど? 直接会った彼らが魔大陸侵攻に否定的な現状は、第13魔王の危険度はそれほど高くないっていう、何よりの証拠なんじゃないかな?」


 いいぞサージュ。そのままこのアホを、ベコベコになるまで凹ましたれ!!


 「確かに。

 しかし、北側各国は30年………、いえ、飢饉が起こったのは20年前ですか。その飢饉の記憶が根強く残っています。第13魔王の危険性を如実にでも感じなければ、そうそう魔大陸侵攻に賛成したりはしないでしょう。

 ズヴェーリ帝国はもっと深刻です。なんでも第13魔王が造った町があるそうで、そこと『魔王の血涙』とを転移陣で繋いでしまったそうなのです。これでは、いざという時、魔大陸側からの侵攻に晒されかねません。さらに、その町を造るのに際し必要な金銭を、貴族数人から脅し取ったという話も聞きました。なぜか本人達は自ら出資したと述べているようですが、恐らく魔王に脅されたなんて口外すれば、面子が立たないという事でしょう。もしかすれば、口外すれば殺すとまで脅されているのかもしれません」


 「また憶測ばかりが混じったね。情報ってのは、見聞きした物をそのまま伝えてこそ、なんだよ。憶測や偏見なんて余計な物が混じれば、それは情報ではなくただの噂だ」


 「失礼。確かにその通りかと。


 しかし―――」


 「ちょっと待って、君のその噂話の続きがまだじゃない? 北側各国、ズヴェーリ帝国の君が持つ見解はわかった。でもリュシュカ・バルドラについての考察は聞いてないよ?

 話題を変える前に、その辺りの事も聞きたいな?」


 「………………」


 おっとぉ、今度はゆうに3秒は眉根にシワができてたな。いい気味だぜ。


 「………天帝のお考えは、私にはよくわかりません。ですが、あれだけの軍事力を持つ、魔大陸からも離れたリュシュカ・バルドラであれば、さっきも話した危機意識の欠如は如実かと」


 「ようは、それも推測だと。

 ねぇ、ウチ等を動かすのに、そんなスッカスカの弁舌しかないようなら、とっとと帰って経典でも読んでなよ。ウチ等はさ、別に君のようなアヴィ教徒でもなければ、魔王と見れば戦いたがるバトルジャンキーでもないんだよ。

 手の届く範囲の人達を守って、頼られれば力を貸して、そうやって生きていくただの人でしかないんさ。


 それとも君は、ただちょっと戦闘技能が高いだけで、人間以上の何かにでもなった気でいるのかい?」


 容赦ねぇなぁ。まぁ、意見には概ね同意だけどよ。そんな大層な存在なら、魔王とかより、まずはあの飢饉を何とかしてみせろってんだ。


 そこで、今まで沈黙を保っていた水の勇者が、静かに話し始めた。


 「確かに、風の言うことにも一理ある。だが、火の言うことを全て無下にして第13魔王への対策を疎かにするのは、あまり得策ではないと思う」


 っていうか、まだこの話続けんの? いい加減眠くなってきたんだけど。





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