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 光の勇者の受難・1

 全くわけがわからねぇ。


 俺がキアスに教えられてダンジョンに潜っている間に、枢機卿の1人が殺されたらしい。でも、それが俺の仕業なわけがねーだろ!!


 俺はアムハムラ王国にいたんだぞ?時間的に無理があんだろ!!


 でも、アムハムラ王に言えば馬車に乗って1日で来れるだとか、そもそもアニーの転移なら一瞬だとか言われて、捕まっちまった………。俺とアルトリア、ミレとレイラに別れて、俺達は今牢屋にいる。


 この部屋は、魔法が使えないよう、天井や壁に術式が刻まれている。おかげでぶっ壊して出ることもできねー。つーか、俺の長剣とマン・ゴーシュは無事だろうなっ!?勝手にベタベタ触るんじゃねーぞ!!


 ああ、くそっ!


 こんな事なら、いつも通り教会の命令なんて無視すりゃよかったぜ。別に俺、勇者なんて肩書きに愛着も未練もねーし、剥奪されたって一向に構わねーんだって。仲間さえ巻き込まなければ。


 つーかやっぱり、絶対、ずぅぇぇぇえったい!!アイツのせいだっつの!!


 俺は壁にもたれ掛かって、あの日の情景を思い出す。







 「やぁアニー、元気そうだな」


 「師匠、ご無沙汰しております」


 アヴィ教の総本山、アドルヴェルド聖教国の聖都アラトで、俺達は懐かしい顔と再会していた。


 サージュ・エール・ソルシェール。


 アニーの師匠だ。


 「シュタール、お前は相変わらずバカそうだね。アニーに迷惑ばかりかけているんじゃないかい?」


 「アンタは相変わらずちっこいな」


 「うるさいわい!!」


 サージュは、どこからどう見ても7、8歳くらいの子供にしか見えない。


 萌木色のショートボブの頭に、山高帽子。ドレスのようにふんわりとした印象の、漆黒のマント。一見すると全身真っ黒なのに、所々にアクセントのようにあるハートや星形の装飾品は、彼女の子供っぽさを足し算ではなく掛け算していた。

 身長は、だいたいウェパルちゃんと同じくらいかな。ウェパルちゃん、元気かなぁ………、あの子痩せすぎていてちょっと心配になるんだよなぁ………。


 「全く。ウチの弟子に苦労ばっかかけて。アニー、もし嫌になったらいつでも帰っておいで」


 「はい、考えておきます」


 苦笑しながら答えるアニーに、俺は心の中で苦い顔をした。

 おいおい、アニーが抜けたら俺たちどうなるんだよ?収拾つかねぇぞ?


 「今日は仲間は一緒じゃないのか?」


 「うん。なんか知らんけど、いきなし呼び出されてねー。

 教会のお偉いさんが死んだんだってね? それにビビっちゃった他のお偉いさんが、護衛の意味で呼んだのかもね」


 「あー、そりゃありそうだ」


 「師匠、それより仲間を紹介しよう」


 そういえば、アニーはともかく他の連中とは初対面だったな。


 「師匠、こっちが私の仲間、アルトリア、ミレ、レイラだ。3人とも、こちらが私の魔法の師であるサージュ・エール・ソルシェール殿だ。歴史上3本の指に入るとまで言われた魔法使いであり、風の勇者だ」


 「よろしくねー。つーかみんな可愛いっ!!シュタールには勿体ないわね。よし、全員ウチんちで保護しよう!」


 「相変わらずだなぁ、アンタは」


 このサージュ、可愛いものにとことん目がない。家も胸焼けしそうな少女趣味丸出しだし、仲間も可愛らしい少女やドワーフが多い。


 「謳歌してこその生!好きな事もやらずに死んだら、なんの為に生まれてきたのかわからないじゃないか!!」


 そう高らかに言い放つサージュに、俺は苦笑を返すことしかできない。全くもって同意見であり、さらに付け加えるならやりたくない事はテコでもやらないのが俺だ。


 「お前と一緒にされちゃあ、ウチも形無しだよ………。お前の自由奔放振りは色々耳にするからねぇ」


 「いやいや、アンタほどじゃねぇって」


 そんなやり取りをしていたら、アイツが現れたのだ。


 「おやおや?これは珍しい!まさかこんな所で勇者のお2人と出会すとは。そして私が加われば、世にも珍しい勇者3人の井戸端会議ですね」


 うわ………っ。


 会いたくねぇ奴に会っちまった。


 見ればサージュも隠すことなく渋面を作っている。やっぱりサージュも、このいけ好かねぇ男の事、嫌いなんだな。


 「お久しぶりですサージュ、アニー。そして光の勇者、シュタール殿。

 そちらの3人は初めてですね?私はエヘクトル・フエゴ・デプレダドル。しがないただの火の勇者です。今後ともどうぞお見知り置きのほどを」


 そう言って深々と頭を下げるエヘクトル。

 顔面には張り付けたような嘘臭い笑顔を浮かべ、やたらと芝居がかった仕草で話すこの男。


 赤みがかったオレンジの長髪と、甘いマスク。白銀のプレートメイルに腰の剣。純白のマントを着け、どこからどう見てもアヴィ教の聖騎士だ。それもそのはず、こいつは正真正銘のアヴィ教の聖騎士で、確か第2隊の隊長。ついでに教会の幹部でもある。

 つまり生粋のアヴィ教徒なのだ。


 なぜ俺が、こんな奴の事をここまで知っているのかと言えば、俺も一応アヴィ教に属しているので、なんやかんやと協会に顔を出さなければならない場合が多い。(結構サボるけど。)そんな時、こいつは一々長ったらしく、嫌みったらしく教会の有りがたさや、俺に信仰心が足りないだとかほざきやがるのだ。


 そもそも、俺はアヴィ教徒じゃねえし、勇者なんてのもなりたくてなったわけじゃねぇ!!


 なのにコイツは、勇者としての義務だとか、魔族を殺す方法だとかを会う度に長々と話すのだ。これでこいつに好印象を持っていたら、俺はアルトリア並みの変態だ。


 「しかし、先ほど井戸端会議とは言いましたが、こうしてせっかく会ったのです。どこかで腰を落ち着けて話しませんか? 丁度教会の会議室をとっているんです。実は客人との会談がありましてね。そこにご案内しましょう。


 ああ、大丈夫ですよ。客というのは、もう1人の勇者ですから。少々話したい事があって呼んだのですが、丁度いいので皆さんで話し合いましょう!」







 これが、俺達の受難の始まりだと、この時の俺は知るよしもなかった。





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