ご褒美と急報っ!?
「キアス様、お呼びですか?」
パイモンは所々土で汚れた格好で、リビングに入ってきた。あーあ、掃除を任せてるオーク達に怒られるぞ。怖いんだから、あのおばさん達。
「畑仕事?」
「はい!気候がいいお陰か、オークやゴブリン達も驚くほど育成がいいみたいです。夏野菜はそろそろ収穫ですね。秋にはお米が収穫できますし、楽しみですね!!」
楽しそうだなぁ。パイモンが抱えているトラウマも、皆と暮らす内にあまり見られなくなってきたし、いい感じだ。
「呼び出したのは他でもない、こないだのフンババの件のご褒美、まだ渡してなかったろ?」
「あ!はい!!」
いいお返事です。
オールやら町やらで延び延びになってしまっていたけど、ちゃんと忘れてなかったんだよ。あの旅ではパイモンには助けられっぱなしだったし、そのお礼も兼ねて、ちょっといい物を用意したんだ。
「ちょっと調節に苦労したけど、とりあえずは完成したから渡すね。あ、不便があったら言ってね。すぐ直すから」
僕はそう言って、小さな箱をパイモンに手渡す。ビロード張りとはいかなかったけど、まぁ、それなりに高級感ある感じの箱にしたし、様にはなってると思う。
「これは………、指輪ですか?」
「そう。
機能的に普段から身に付けるものが良かったから、邪魔にならない指輪にしたんだ。アンクレットとどちらにしようか迷ったんだけど、結局指輪にした」
「えっと………、どういった物なのでしょう?」
フフフ。それを説明するには、まずは僕の持つ古代魔法について説明せねばなるまい。
僕の持つ古代魔法の内、今までよく使っていたのは言わずもがなの重力魔法。それと目立たないが、マイクやスピーカー、通信イヤリングなんかに使われる念話魔法。使い勝手はいいんだけど、直接的な戦闘能力が皆無なんだよな。
他にも、呪術と召喚魔法があるけど、こっちは本当に使い道がない。召喚はスマホでできるし、呪術なんて怖いものに手を出すつもりはない。人を呪わば穴2つなのだ。
でも、よく考えたら、僕が呪術持ちだったからマルコやミュルが生まれたのかな?だとしたら、今一度呪術の使用について考えてみても………。でもやっぱり怖いな。
「そして最後の1つが幻術。この指輪にはその古代魔法の幻術が付与されているんだ!!」
「幻術………、ですか?」
いやいや、反応が悪いのもわかるよ?幻術に関しては、光魔法なんかでそれっぽいものもある。光の屈折を利用した、科学的な幻術が。恐らく、この世界の魔法使いは、これを手探りで完成させたのだろう。素直に尊敬するよ。
だが、これはそんな生易しい物ではないのだ。
さっき光魔法の幻術を科学的って言ったけど、それと比べれば僕の持つ幻術は魔法的とでも言おうか。いや、どっちも魔法なんだけど。
無いものを有るように見せ、有るものを無いように見せ、触れ、触れず、無限の夢現を再現し、この世にあらざる理も顕現させ得る古代魔法。
まぁ、何を言っているのかわからないよね。僕もよくわからない。
「ま、論より証拠。まずはやってみてごらん。転移の指輪やイヤリングを使うようにすれば、使えるから」
「はぁ………」
生返事を返すパイモン。この指輪の有用性がわかっていないな。
指輪が一瞬キラリと輝き、パイモンの姿が陽炎のように揺らめいたかと思うと、そこにはパイモンのような人がいた。よっし!成功。
この幻術、結構いいスキルなんだけど、作る幻を事前にかなり作り込まないといけないんだよな。でないと、ゲームのグラフィクみたいになって現実ではかなり違和感が出る。
「あ、あの………?」
事態がわかっていないパイモンが声をかけてくる。フフフ。驚くぞ?
僕は無言で、リビングの壁の一部、鏡になっている一画を指差す。
パイモンはつられてそちらを見て、
「え?」
呆気にとられたように固まった。
そこには、いつも通りの僕と、浅黒い肌にアッシュグレーの短髪、金色の瞳にツルッとしたおでこ、凛々しい表情で立っているパイモンのような人間の姿があった。
「人間の姿になってる………?」
「そう。これで真大陸に行くときもパイモンを連れていける」
「あ、成る程!!」
ようやく僕の意図を察したパイモンが、声をあげる。
「それだけじゃないぞ?変身のバリエーションも今の女性タイプと男性タイプの2つがあるから、変装にも役立つ。因みに僕の分も造った。おそろいだな」
「キアス様とお揃いですかっ!?」
まず食いつくのはそこかよ。あ、パイモン、左手の薬指に指輪つけてんじゃん。こっちにキリスト教はないから、別に他意あっての事じゃないんだろうけど、僕も薬指ってのはなんかなぁ………。右手の薬指にしとこ。
「ありがとうございます、キアス様。大切にしますね!」
うん、パイモンの純真な笑顔が見れただけで、僕は満足だよ。
喜ぶパイモンを見ながら癒されていたら、ポケットの中のイヤリングから唐突に声が鳴り響いた。
『キアス殿、アニトレントだ!少し時間をいただけないだろうかっ!?』
アニーさん?なんだかかなり焦ってるようだけど、何かあったのかな?
イヤリングを付け、応答する。
「はい、キアスです。アニーさん、何かあったんですか?」
『ああ、詳しくは城壁都市で話すが、とりあえずはさわりだけでも聞いてくれ!』
いつになく強い語調のアニーさんが続けた言葉は、僕をゆうに1分は唖然とさせた。
『シュタールがアヴィ教に拘禁された!!』