魔大陸第13魔王領っ!?
ソドムとゴモラ。
この度、めでたく城壁都市の名前が、めでたくない感じに決まった。キリスト教徒でない日本人でも、多くの人が知っている背徳の都。神の怒りを買って滅んだとされる、とっても縁起の悪い町だ。真大陸側がソドム、魔大陸側がゴモラだ。
さて、コションの元支配地域のゴタゴタはこれでよしっと。
しかし、曲がりなりにも魔大陸北部の大部分を支配下に置いちゃったわけだし、ただ黙ってるってのもあまりよろしくないよなぁ。
エレファン、タイル、オール以外の魔王との軋轢も怖い。えーと、あと何人いるんだっけ?まぁいっか。
とりあえず、町の住民や他の地域の人達にも、僕がここら辺一帯の領主だと宣言しておかなきゃな。
「あーあー、マイクテスマイクテス」
まぁ、各町に設置されたスピーカー使って、楽しちゃうんだけどね。
「とうきょうとっきょきょきゃこく。
こんにちは、魔王のアムドゥスキアスです。
さて、皆さん新しい生活を始めたばかりで、お忙しい中申し訳ないのですが、しばし耳を傾けてもらえると嬉しいです。
僕こと、第13魔王アムドゥスキアスは、この度魔王コションの支配地域を譲り受け、皆さんの生活を守る支配者となりました。集団生活において、最も必要なのは秩序です。
僕はこれから、皆さんに多くのルールを強いることでしょう。鬱陶しく感じる方もいるでしょうが、全ては皆さんの安寧を守るためであります。どうしても守れない、という方は町を出ていってもらって構いません。僕は無法な真似を許したりはしませんから。
さて、皆さんの中には既に知っている方もいらっしゃるでしょうが、僕はダンジョンを経営しております。ここでは、僕から皆さんに多くのマジックアイテムを供給しています。ただし、安易にお金を求めて中に入ることはお奨めできません。ダンジョンは、一歩間違えれば命を落とす危険もあるのです。腕に覚えのある方のみ、お入りください。ダンジョンの必需品については、城壁都市、ゴモラへお越しの際に店員にお聞きください。怠ると、2度とダンジョンから出てこれなくなるので注意してください。
あ、それと、時空間魔法の転移を使える方で、僕の部下になりたい方は、各町の代官までどうぞ。厚待遇を約束しますよ。
では、少々長くなりましたが、これをもって第13魔王領、発足宣言とさせていただきます。長々と失礼しました。
みんなー!!じゃんじゃん働いて、じゃんじゃん稼ごう!!」
プツッとマイクを切り、背伸び。うーん今日も働いたぁ。
『宣言というより、ただのセールストークでしたね』
「え?」
アンドレに指摘され、思い返してみれば………確かに。
『あなたらしいと言えばあなたらしいので、まぁ、いいのではないですか』
「まぁね。今からやり直しってのも格好つかないし」
『転移対策、思い付きましたか?』
「………」
全然。
『今回ばかりは、マスターにも良案がありませんか』
「うん………」
沈鬱な声のアンドレと、項垂れる僕。
転移の対策って言われても、転移の指輪が同じ時空間魔法を使っているので、安易に対策を講じると指輪まで使えなくなってしまう。かといって、転移の指輪だけが使える、なんて都合のいい対策は思い付かないし、指輪が使えなくなったらダンジョンの普及は絶望的だ。
「どうしよっか………」
『救いなのは、人間側で転移を使える術師が圧倒的に少ない事ですね。軍勢が攻めてきた際には、例え1人2人転移が使えたとしても、役にはたちません』
「そう考えると、無理に対策を考える必要性も感じないんだよな。そんな事を言い出したら、そもそもあの指輪って僕が造ったものなんだし」
転移を使われる事で起こるデメリットは、1つは荒稼ぎが出来るということだ。指輪の需要は、どんどん高くなる。冒険者、商人、消費者、全ての人が欲するのだから当たり前だ。
だが、これは僕にとってたいした問題ではない。
2つ目は、不慮の強制転移による、リセットが出来ないことにある。ダンジョンのトラップは、進めば進むほど凶悪さを増す。転移の指輪を消費しきってしまった状態で城壁都市に強制転移させられれば、その人はまた1からダンジョンを進まなければならない。
だが、転移を使えればそんな心配はなくなる。強制転移させられても、またダンジョンの深い場所に戻れるのだ。
だが、これもそこまで大きい問題ではない。そもそも、リセットされたからといって、その人がまたダンジョンを進めば同じ所までは辿り着けるはずなのだ。
そして3つ目。
僕を殺しに来る輩が、転移を使って攻略を簡略化する可能性だ。足止め用のトラップや、分断工作なんかがあまり意味のない罠になってしまう。
だが、そんな生温いトラップはダンジョンの序盤しかないし、地下迷宮の強制転移を使った分断トラップであれば効果は大だ。パーティーメンバー全員が転移持ちとかでなければ。
そして、天空迷宮で転移を使える利点は少ない。確かに、何度でも挑戦できるというのは驚異だが、あそこは即死トラップの巣窟だ。強制転移が発動する前に死んでしまえば、転移もクソもない。何度も繰り返すようなら、いつかは死んでしまう。
ではなぜ僕は、こんなにも悩んでいるのだろう。
『さしあたっては、魔大陸では転移の使える人員を広く募集することにしたのですね?』
「ああ、うん。味方にしちゃえば、なんの問題もないしね。その人も安全にダンジョンでアルバイトをしつつ、人員の輸送なんかを担当してもらおうかなって」
『すっかり大規模雇用主ですね。あまり規模を大きくしすぎない方がいいですよ、あなたはバカなんですから』
「直球だなっ!!なんか、アンドレに小言を言われるのも、久しぶりな気がするよ。これは僕が成長したってことかな?」
『あなたは、おだてれば樹にも天にも登っていくと思っていましたが、まさかおだててもいないのにイカロスの真似事を始めるとは思いませんでした。豚を通り越して豚野郎とでも呼んでほしいんですか?』
「おいおい、久しぶりなんだからもうちょっとソフトに頼むぜ、アンドレさん………」
『嫌ですねえ、私は充分ソフトに接していますよ。ただ、あなたが私の存在を隠そうとして、あまり人前で話さないよう言うから、今この時に今まで言えなかった分も喋っているだけです』
「えっと………、ごめんなさい」
とりあえず謝っておく。謝罪というのは、ある意味最強の遁走術なのだ。
『わかればいいのです。では豚野郎?』
「その呼称を認めた覚えはないぞ!?」
『全く、謝ったかと思えばすぐに態度を豹変させるんですね、あなたは。もうあなたの謝罪なんて、土下座でもしなければ信用もできないということですね。口から生まれてきた、2枚も3枚も舌のある、口八丁手八丁の嘘つき魔王が言うことなんて、欠片も信用ができませんから』
「僕の謝罪遁走術を封じただとっ!?」
『ふっ、あなたごときの思惑を見抜けずして、どうしてダンジョンの魔王が務まりましょうか?』
「遂に自分から言い出しちゃったよっ!!
そりゃあ今まで散々自虐的に、お前はダンジョンの支配者だ、真の魔王だなんて言ってきたけど、本当に僕のポジションを奪いに来たよこの子!!」
『冗談です。この程度の軽口にいちいち狼狽えないでください』
「軽くない!!お前の軽口は絶対に軽くない!!ウェイトリフティングで言えば105kg超級だよ!!」
『女性の体重に言及するとは、相変わらすデリカシーのないクズですねぇ』
「クズって言ったよ!?最早完全に形骸化した主従だけど、それでもクズは言い過ぎだろ!?」
『豚野郎とクズ野郎、どちらがいいですか?』
「究極の二択すぎる!!」
『豚野郎を選べばクズ野郎と、クズ野郎を選べば豚野郎と呼びます。それを考慮して呼ばれたくない方を選択すれば、私はあなたをクソ野郎と呼びます』
「どれも嫌だよ!!」
それからしばらく、僕はアンドレのストレス発散に付き合い、心に深い傷を負ったのだった。




