表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/488

 怠惰の代償

 「どういう事だ!?」


 俺は酒の入っていた杯を部下に向かって投げつけた。部下は怯えたように身をすくませて、顔面で杯を受けた。


 「なぜ我が領地から住民が消えたっ!?」


 「で、ですから、第13魔王様の領地に流れていったと」


 「そんな事を聞いておるのではないわ!!」


 クソッ、第13魔王め。新参の癖に生意気な真似をする。コションが死に、俺にもようやく運が向いてきたと思えばこれだ。全くツイていない。


 「とにかく、住民を連れ返せ!!あれは俺の領民だ。勝手に奪う事は罷りならん、とな!!」


 「そ、それは………」


 ふん。わかっている。そんな要求に応じるわけなどない。

 だがそれなら、それを口実に戦端を開くまでだ。他の代官の領地も似たり寄ったりだろう。奴等の兵力も合わせれば、彼の町を奪うことも可能なはずだ。そうなれば、あの3つの町は俺達の物だ。

 あの荘厳な3つの町に比べたら、こんな町など獣の巣だ。あの町を俺が支配すれば、今より贅沢な暮らしができることは間違いない。


 「他の代官にも伝え、同じ行動をとらせろ」


 聞けば、あの町には第13魔王の部下は数える程しかいないらしい。住民は数万にも及ぶだろうが、戦えぬ者など数にも入らん。今なら一気に、数で押しきれる。


 そうすれば俺は………。


 「ふひひひ。あんな町を作っておきながら、それを奪われる第13魔王の泣きっ面が目に浮かぶようだ」


 部下が部屋を出ていき、部屋には俺だけになった。クソッ。女も出ていっちまったから、する事がないな。

 酒でも飲むか。


 杯は空だった。







 第13魔王からの返事はなかった。それどころか、使いに出した部下までもが戻らなかった。


 殺されたか?まぁいい。これを機に挙兵し、我々は町へと攻め込む。


 兵の数は800。思った以上に少ない。だが、数人の代官を殺せば町が手に入るのだ。これで充分である。


 「奪われた住民を取り返すのだ!!行くぞ!!」


 俺は激を飛ばし、部隊を率いて進む。

 他の代官達も士気は高い。当然か。このままでは明日食う飯にも困りそうな有り様なのだ。片やあの町を奪えば明日からは左団扇。士気も上がるというものだ。


 天に向かって屹立する、黄金の塔が見えてきた。あの輝き、もしや本物の金なのではないか?だとすれば、第13魔王の財源は計り知れないな。金さえ積めば、俺だって仕官してやったものを、出し惜しむからこうして奪われるのだ。バカめっ!!


 塔に近付いていくと、正面に人垣が見えてきた。


 ハッ!ハハハハ!!まさかあれが迎撃部隊ではあるまいな!?


 精々100人しかいないではないか!!


 「我等は、奪われた領民を取り戻しに罷り越した!!そなた等に正義があるのなら、道を譲り我が軍門に下れ!!」


 進軍の足を止めず、先頭に立った俺が口上を述べる。相手は、曲がりなりにもコションを殺した魔王の部下。できるだけ兵力は温存しておきたい。


 だが、そんな俺の思惑は打ち破られた。




 その部隊があげ始めた失笑によって。




 「何がおかしい!?」


 俺は、思わず足を止め問いただしてしまった。つられて全部隊の足も止まる。


 「おかしいですよ。これがおかしくないわけがありません」


 ゆっくりと前に出たのは、第13魔王の元へと送った部下だった。


 「奪われた?何をもってそう仰っているのか、甚だ見当もつきませんよ。

 住民はあなたの統治に耐えられず、自ら去ったのです。それを理解もせず、ただ自分が享楽を貪るためにしか物事を考えない貴方達を見て、我々は離反したのです。


 ホラ、どこに奪われた住民がいますか?」


 嘲弄するように言う裏切り者に、俺は剣を抜く。


 「者共!!あれに見えるは裏切り者達だ!!1人残らず切り捨てよ!!」


 俺の命令が、高らかに天空にこだまして、辺りは静寂に包まれた。


 「な、何をしている!!相手は小勢だぞ!?攻めろ!!」


 再び命令するも、閧の声は上がらず、ただただ静寂が場を包んだ。他の代官達も慌てて部下に命令を出すが、動き出す者はいない。


 「愚か者が。兵はとうに貴様等など見限っておる。彼らがここまで来たのは、各町の自警団の募集に応じたからだ」


 空から降ってくる声に顔を上げれば、一頭のグリフォンが降り立つところだった。


 「バルム………」


 「久しいな」


 バルムは短くそう返すと、それだけでこちらから視線を外し、俺の後ろに並ぶ兵達に向かって、咆哮をあげた。


 途端に兵達は鎧を脱ぎ捨て、槍を捨て、敵陣に向かって歩き出した。


 「やめよ!!貴様等、反逆者は死罪だぞ!!今ここで処刑するぞ!!」


 俺が言っても、兵達は歩みを止めない。


 「こんのぉ!!―――ぐっ!?」


 近くにいた兵に斬りかかろうとしたら、突然体の動きが止まり、俺の意思では指1本動かなくなった。


 「自らの過ちを認め、再び野の流浪となりて、心身を鍛えよ。命までは取らぬ。それが我が君のご意志であり、かつての仲間へのせめてもの慈悲である」


 「ロ、ロロイ………」


 百目鬼の瞳術か!!


 「うぐぅ………っ!!」


 バタバタと代官達が倒れる。俺も体が痺れている感覚があるが、瞳術で縛られているので、倒れることもできない。


 「あ、あのっ!ごめんなさい。でも、あの、あの、ごめんなさい!!」


 アルルの毒か………っ!!

 こんな人波の中で、姿も見せず俺達だけを麻痺させるとは、性格でコションに嫌遠されなければ、幹部にもなれた器というのは本当だったようだな。


 やがて、兵達は全てロロイ達の元へ行き、残ったのは大量の武具と、俺達代官だけだった。


 「貴様等!!この裏切り者がっ!!」


 「確かに、我等は裏切り者だ」


 バルムがこちらに見向きもせずに立ち去りながら、そう告げた。


 「ですが、裏切られるだけの業を積んだものに、それを詰る資格などありません」


 ロロイも振り返り、この場を後にする。

 瞳術が解け、俺は地に伏した。


 「あ、あの、毒はあと30分もすれば抜けます。その、あの、これから頑張ってくださいねっ!!」


 そう言ってアルルも去る。




 残ったものは、何もない。

 ただ静寂に身を伏せ、去っていく900の軍勢を見送ることしかできなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ