湯煙は女の子とっ!?
アムドゥスキアス 《レベル1》
まおう ダンジョンマスター
たいりょく 100010/100010
まりょく 10002/10002
けいけんち 22/100
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経験値が増えていた。
「って少なすぎるだろ!?」
レッドキャップ1匹で、経験値1かよ。
いや、実際手を下したわけじゃないし、あの経験を数値化すれば、やっぱりこんなもんなんだろうけど。
でもなぁ………。最初の草原にいるスライムだって、もうちょっと美味しい経験値を落としてくれるだろうに。
『マスター、例の無酸素回廊は、今後ダンジョンの、どのあたりに設置する予定ですか?』
「ああ、アレな。出来れば中盤かな。そこまでは数人で協力しなければ、達成困難な迷宮にして、あの回廊で一網打尽、って感じ?」
『そうですか。私見では、終盤の入り口あたりでも効果の高そうなトラップだと思いますが、マスターに考えがあるのならば、それが良いでしょう』
僕たちがどこでこんな会話をしているかと言えば、勿論脱衣所である。
因みに、脱衣所は男女別。風呂は同じだけどね。ぐふふふ………。
実験は、思いの外簡単に終わった。『カスタム』の『制作』に『属性付与』の項目があり、付与する属性のレベルや強弱なんかも、簡単に調節することができた。
ただ、風呂の危険度が3になった。
維持の面では問題ないが、あの無酸素回廊と、この風呂が同じ危険度だと思うと、どうにも釈然としない。
因みに、さっきから完全に仲間外れになってしまっていたパイモンには、ご飯の準備を頼んでいた。
なんでも、いくらか食料に持ち合わせがあるらしく、それを提供してくれるらしい。飲料水もあるらしいので、それももらう。今日は食事は諦めていたので、かなり嬉しい誤算だ。
食料か………。やっぱりなんとかしないとな。っていうか、本来は水の次に気にしないといけない事柄だ。
畑や牧場を作ってもいいが、すぐに収穫できるわけではない。生き物を扱うわけだし、スマホでちょちょいとはいかない。
「よし!明日からがんばろう!」
『典型的な怠け者の発言ですね』
えー………、僕今日は結構働いたよ。今日生まれたにしては、本当頑張ったと思うよ?
外はもう、漆黒の夜空に覆われ、青みがかった月が昇っている。
なぜわかるかって?
実は、雑用担当に雇えないかと思ってオークの動向を確認しているのだ。
まぁ、勧誘するにしても明日からだが。
総勢11匹のオーク達は、レッドキャップに滅ぼされた村の生き残りだろうか。皆簡素ながら武装をしている。
天辺を向いた鼻の横から、立派な牙が反り上がっている。額から顎周りにかけてフッサフサの体毛に覆われていて、すごく猪っぽい。身長は120cmくらいしかないが、体は少し毛深いだけで人間と然程変わらない。顔は猪だけど。
こうしてみると、パイモンはかなり人間に近いな。身長は190cmくらいはあるけど、それくらいなら人間離れしているわけではない。顔立ちもイケメンだし、角がなければ人間で通るのではないだろうか。
服を脱ぎ終わり、いざ風呂へ!!
あ、パイモンは仲間外れじゃないよ。食事の準備が終わったら、入ってこいって言ってある。
モワッと、風呂特有の暖気と湿気が俺を出迎えた。
コレだよコレ!!
これこそが待ち望んでいた光景だよっ!!
湯煙漂う大浴場。お湯の揺れる浴槽。水滴したたるシャワーに蛇口。純白の壁と、真ん中に設置された洗い場の鏡。浴槽の奥に鎮座している金のライオンが、今にも雄叫びをあげるように口を開いているかと思えば、その視線の先、入り口の上部から天井まで、雄大な富士山が描かれている。
どこからか『カポーン』と音がしそうな光景だ。
我ながら見事だと言わざるを得ない。
『………満足しましたか?』
軽い石の桶に入ってるアンドレが、やや呆れながら聞いてくる。
「………………最っっっ高だなっ!!」
今日は色々な物を造ったが、これ以上の傑作はないと断言できる。もしかしたら、この先も生まれるかどうか。
『そうですか………。明日から、ちゃんと仕事をしてくれるのであれば、ここで口を挟んだりは、控えましょう』
アンドレの中の僕って、本当評価が低いよな。これでも結構頑張ってる方だと思うけど。
「はぁ〜。極楽極楽」
湯船に浸かりながら、僕は口からこぼれる言葉が、浴室に反響するのを聞く。
『普段から腑抜けた顔が、お風呂に入ると余計に軟弱になりますね』
アンドレはうるさい。折角アンドレ用に、風呂の脇に机まで造ってあげたと言うのに。
『しかし、ゴツくはありませんが、引き締まった体が………。細くてなまっちょろい手足もコレはコレで………。何より、童顔の少年が一糸纏わず………』
「なぜだろう?すごく寒気がするぞ?」
『うふふふふ。眼福眼福』
「キャー!お巡りさんここに変態スマホが居ますよー!」
『良いではないか、良いではないか』
「お前、明日からは外な!!」
『断固抗議します』
「うるせぇ。覗き魔と入浴する趣味はない!!」
『ストライキを起こします。具体的には召喚を行う時は、男性しか呼び出せない抗議活動をします』
「勘弁してください………」
『もしくは、あなたの感覚では女性に思えない、人外ばかりを呼びます』
「マジ勘弁してください」
『では明日からも、私同行と言うことで』
「………はい」
癒されない。せっかく造った風呂だと言うのに、全然癒されない。
『しかし、それほど女性が欲しいのですか?』
「イヤらしい言い方すんな。僕はこの風呂に女の子と入るのが夢なんだ」
『十二分にイヤらしいですよ、ソレ』
「うるせぃ、覗き魔」
カラカラカラ………。
静かに扉が開いて、パイモンが入ってきた。
「し、失礼します………」
やや筋肉質だが、ほっそりと伸びる腕。
すらりとした足は、長く、細い。
腹筋が露な腹部は、しかし腰回りが急激にくびれ、艶かしい曲線が脚部に繋がっている。
そして、その上部。
大きくせり上がった胸筋は、簡素な布を巻いていたときとは違い、今は僕の目の前にさらされている。
その胸筋、いや―――
『早速夢が叶って良かったですね』
―――おっぱいは、紛れもなくパイモンのおっぱいだった。




