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 誤算、打算、杜撰っ!?

 『おぉー!!成功だ!!』


 『やはり転移の指輪は、時空間魔法の転移と同じ魔法だな』


 『これで指輪は節約できんな!!アタシもこれで金が貯めれんぜ!!』


 『………ダンジョン攻略も捗る………』


 『お手柄ですね、アニー』




 ぬぁぁぁあああ!!


 まさかアニーさん、転移まで使えたとは!!時空間魔法が使えるのはわかってたけど、転移は使えないと思い込んでいた!!トリシャも転移魔法使える人はいないって言ってたし!!


 よく考えたら、アドルヴェルドで会ってから、アムハムラの事件に間に合った時点で気づくべきだった。


 マズい。非っ常にっ、マズい!!


 これじゃシュタール達に全く足枷がなくなってしまう。

 地下迷宮はともかく、天空迷宮に宝箱はない。だから、もし侵入しても1回で踏破できなければまた下からやり直さないといけない。指輪の予備を大量に持っていれば別だけど、それもとっとと売った方が得なのだ。そのために、指輪の価値を高くするようにダンジョンを造ったのだから。


 だが、アニーさんさえいれば、このパーティーに指輪は必要ない。売られるのはまだしも、難関である天空迷宮を小刻みに進まれたら、いずれは僕の元まで辿り着くぞ!?


 今回は実験さえすめば、勇者一行を追い出す算段はあった。しかし、転移が使えるならすぐ戻ってくることも、さらには城壁都市に戻ってこなくてもダンジョン攻略を進められる。


 もちろん致死性の高いトラップばかりの天空迷宮に、彼らが挑戦するかどうかはわからない。

 だけど、彼らは勇者パーティーだ。

 僕という魔王の命を狙って、天空迷宮に進まないとも限らないのだ。




 なんてこった。


 やっぱり、宣伝のためとはいえ、勇者をダンジョンに呼ぶべきではなかったか。いや、遅かれ早かれいずれ彼らはダンジョンには来ただろうから今さらか。


 だがどうしよう………。僕が魔王だと彼らに知られた時、彼らはいったいどんな顔をするんだ?いや、それよりも、彼らがあの天空迷宮で命を落としたら、その時僕は平然としていられるのか?


 誰かが僕のせいで死んでなお、シュタールや他の人達に今まで通り笑えるのか?


 クソッ!

 らしくない事を考えた。もし彼らが、僕を殺しに来たら、その時は僕だって彼らを殺すつもりで当たらねばならない。僕は既に多くの人の生活を担ってしまっているのだから、易々と死んでやる事なんてできないんだ。


 つまらなくなってきやがった。




 「もしもし、アムハムラ王ですかぁ〜?」


 とりあえず、今回勇者を追い返す準備をしておこう。地下迷宮の実験とか言ってられるか。


 『できればこちらの都合を考慮して、夜にでも使ってくれんか、このイヤリング』


 「すみません、ちょっとイレギュラーがあって今すぐ確認しておきたい事が………」


 『ほぅ………』


 それだけで、僕がわりと切羽詰まっていることは理解してくれたようだ。話が早くて助かる。


 「その後アヴィ教からは?」


 『主に聖人の称号授与と、事件の詳しい話を聞かれただけだな。あっちでも枢機卿の1人が暗殺され、しかも其奴が例の聖騎士と密文のやり取りをしておった記録が残っていた。こいつが黒幕で間違いないな。危うくこちらに、暗殺の嫌疑がかかるところであった。貴殿ではないよな?』


 「いえ、完全に寝耳に水ですね」


 『ならばいい。その枢機卿が魔大陸侵攻派の重要人物でな、今あちらは大混乱のようだぞ。

 悪い事は言わんから、しばらくアドルヴェルドには関わらん方がいい。これは北側にある各国の、暗黙の総意でもある』


 「ふふふ。まぁ、僕もしばらく彼らに用はありませんので。魔大陸の方で手一杯なんですよ」


 『世界を股にかけるものは多忙だな。同情する』


 「どうも。

 それで、勇者については何かありますか?」


 『おおっ、そうだった!!

 アドルヴェルドへの召喚要請が2つも来ておる。1つは事件についての聴取、もう1つは………、死んだ枢機卿からの出頭要請だな。こちらはよくわからん』


 「了解。それさえ聞ければ重畳です」


 いつでも勇者を追っ払える。


 『新しい産業については聞かんのか?』


 「聞く必要がありますか?」


 『いや、無いな』


 「ええ。失敗する要素がありませんから」


 『ある程度は軌道に乗った。内陸では、やはり海の魚は珍しいらしく、飛ぶように売れている』


 「漁師にもお金が入って、アムハムラも富む。いい事づくめじゃないですか」


 『それが、そうもいかん………』


 「?」


 なんだろう。結構完璧な商売だと思っていたのに、何か問題でも起きたのだろうか?


 『間抜けな王が、関税を求め始めおった。しかも、その輸送元の国ならともかく、通過点にある国々までもな』


 「あぁ………」


 関税は最初から考えていた問題点だった。地球なら、空は空港、海は港と関所があるけど、僕の造った馬車はどこでも離着陸ができる。大きな着陸施設が要らないので、必然取り締まりも難しい。


 ならば関税を完全に無視するかと聞かれれば、アムハムラにとっては外聞がよろしくない。関税を用いない方が流通の活発化に繋がって得なのだが、そうはいかない事情のある国もある。

 だが、通過点にある国が関税だと?馬鹿か?


 『こちらもこちらで頭が痛いよ』


 「心中お察しします」


 確かに、陸路であれば取れた関税が、空路では無視される。アムハムラと目的地の間にあった国にとっては損だろう。だが、そもそも通行するだけで税金を取るというのは、つまりはただ搾取しているだけだ。陸路なら、その金で治安維持を行う事も可能だろう。その対価として通行税を取るのもわかる。だが、空路の通行税までどうして求める?

 悔しかったら空に関所を作れ。


 『他は概ね良好だな。

 北側の各国は、既にこの件についてはなにも言わん。文句を言うだけ無駄だからの』


 「物流の強化、この波に乗り遅れた国はいずれ零落するでしょうね」


 『ああ。

 アムハムラの空の運輸に税をかけないと確約したのは、北側の各国、ズヴェーリ帝国、リュシュカ・バルドラ、それとアドルヴェルドもだな。他にも様々な国がこの産業に食いついた。利益を考えれば当然か』


 「当然です」


 今、関税について文句を言っている国も、やがてはこの波に乗るべく、慌ててアムハムラ王に頭を下げることだろう。通行税について文句を言っている国は………。大欲は無欲に似たりという諺をノートに10回書いて憶えなさい。


 『そんなところかの』


 「ありがとうございました。突然連絡して申し訳ありませんでした」


 『なんのなんの。ではな』


 そう言ってアムハムラ王は通信を切った。


 はぁ………。


 シュタール達どうすっかなぁ………。





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