変革の種っ!?
「チッ。シュタール達、無酸素回廊で躓いたな。まぁ、あれは難易度高いから仕方ないんだけど。
はぁ………、最悪だぁ〜………」
せっかく、以前実験しようとして役立たずだったバカの代わりに、地下迷宮のモニターになってもらおうと思ったのにっ!!
しかも指輪のマーキング忘れるとか、素人かっ!?
いや、このダンジョンの独自ルールだから、まぁ仕方ないんだけど………。
「なんじゃキアス、難しそうな顔をしおってからに?」
「何か至らぬところがあったでしょうか?」
ああ、いやなんでもないなんでもない。
オールとレライエには全くもって関係ない話だ。
「人員の選出に半月もかかったの」
「少しでも長くキアス様と一緒にいたいのではないかと、要らぬ娘心でございます」
「いや、希望者が多すぎて選抜しなきゃなんなかっただけだから」
まぁ、皆大好きオリハルコンのせいだね。
ただまぁ、とりあえず元コションの支配地域は、これでなんとかなるかな。オールの部下の中でも、有能な奴を選んだし。
今日でこの、オールの居城ともおさらばか。ようやく枕を高くして寝れる。
『キアス殿、聞こえるか?』
お、シルドさんだ。ペニシリンの経過報告かな。
「はい、もしもしキアスです」
『おぉ!やはり相手の顔も見えぬのに、会話ができるというのは不思議な感覚だな。
おっと、経過報告だったな。キアス殿いただいた『ぺにしりん』なる薬の効果は絶大だな。既に全快した者も多く、残りも栄養状態が良くなれば起き上がれるだろう。本当に助かった。
改めて礼を言おう』
「お、シルドの声ではないか?」
『む、その声はオールか。という事はキアス殿と貴様は、良好な関係が築けたということだな』
「良好も良好よ!十月十日の後には、貴様にキアスと我の子を見せに行ってやろう!!」
「なにとんでもない大ボラ吹いてやがんだ、この変態!!シルドさん、コイツがこんな変態だったなら、会う前にちゃんと変態だと教えておいてくださいよ!!この変態のせいで、僕はこの半月ろくに寝れてないんですからね!!ああ!!決して、子作りに励んでいたわけじゃありませんよ!!夜這いに来るこの変態を警戒していただけです!!」
『す、すまぬ………』
「えぇい!変態変態言うでないわ!!」
荒ぶる龍にも、僕は全く怯みはしない。なぜならコイツは、龍である前に変態だから。
「シルドさん、副作用はないはずですが、一応これからも経過報告をお願いします」
『うむ。了解した。
では』
そう言って、シルドさんからの通信は途絶えた。
とりあえず、ペニシリンの臨床実験の第一段階はこれでよし、と。あとは人間や魔族に試してみてから、大量生産と普及をさせなきゃな。まぁ、それは僕1人じゃ無理だし、城壁都市の皆に手伝ってもらおう。
「さて、準備もできたし、僕らはもう行くよ」
「もう行ってしまうのか?」
龍の姿でそんな情けない声を出すなよ。
宮殿の前に出揃った僕らは、見送りのオールやその部下の人達に手を振って馬車に乗り込む。
「また遊びに来るのだぞ。なんとなれば、レライエに仕事を全部任せて遊びに来い」
「はいはい。んじゃ、みんなまたねー」
馬車には、パイモン、マルコ、ミュル、バルムさん、レライエ、オールの部下が5人と、今までにない満員御礼だ。
「きちんとベルトしろよー。でないと外に投げ出されるからなー」
幌付き馬車なので滅多にないだろうけど。でも、危ない真似はさせない方がいいだろう。彼らは借り物なんだから。
「んじゃしゅっぱーつ!」
空を駆け上がっていく馬車。その新鮮な光景に、オールの部下達はソワソワと落ち着きなく見入っていた。恐怖と好奇心、それが彼らにそんな行動をとらせたのだろう。
「んで、パイモンはなぜに御者台に?」
御者台の僕のとなりには、パイモンが当然のように腰を落ち着けていた。
「え、あ、いえ!私も操縦を覚えようかと!いつまでもキアス様に御者をさせるわけにはいきませんから!」
パイモンの感覚だと、御者を僕にやらせたくないってことか。いや、わかるよ。わかるけどさ。
若葉マークの運転する空飛ぶ馬車にのるのは、僕としては遠慮したいな。
「で、レライエさんは?」
反対側は、レライエが陣取っている。馬車で飛ぶのは初めてだろうに、落ち着いた様子でこちらに微笑んでいる。
「あな悲しや。妾もキアス様に呼び捨てで呼ばれとう存じます。しかし、新参の妾がキアス様に信頼を賜れるのは、いつになることやら………」
ホント、仰々しい話し方だ。
道中ずっとこれで話されたら、肩が凝っちゃうよ。
そんな暢気な独白は、アンドレの言葉に遮られた。
『マスター、大変です』
どうしたのだろう。言葉にやや焦りの色を感じる。
『勇者一行が困惑の迷宮に転移しました。
当然、指輪を使わずに』
はぁぁぁあああっ!?