半地下迷宮
「くっそぉぉぉ!!こんなんアリかよっ!?」
「1人乗ったくらいでは発動しないトラップだなっ!慎重に進んでいたつもりだったが、迂闊だった!!」
「………僕だけなら絶対発動しなかった………」
「アタシだって、体重的にはミレと合わせて1人分てトコだぞっ!?」
「あらぁ〜、それは暗に私が重いということかしらぁ、レイラちゃん?」
巨大な石球に追われ、一本道をひた走る。とはいえ、私とアルトリアはそれぞれシュタールとレイラに担がれてだ。
こんな速さで迫る石球から逃げおおせる脚力など、私たち2人にはないのだ。
「魔法をぶつけても一向に減速しないぞ!?」
「キアス様から貰った九節鞭でも傷一つ付きませんわ」
もちろん我々も、ただ担がれていたわけじゃない。様々な方法を駆使し、なんとか石球を止めようとしたが、あまり芳しい成果はなかった。
「横道がある!!飛び込むぞ!!」
了承もなく、一気に横道に飛び込むシュタール。投げ出された私は、強かに尻餅をついてしまった。
ミレやレイラも飛び込んできて、その背後を石球が轟音と共に通過していった。
「ビビったぁ〜。まさかここでこんなトラップがあるとはな」
「ああ、わりと有名なトラップだが、それを多人数でないと発動しないようにさせたのが巧妙だな」
「………発見が遅れる………」
「つーか、一度落ちてきた石ってどうなんだ?落ちたままなのか?」
「それよりレイラちゃん、私はさっきの発言について聞きたいことがあるのですが?」
各々安心したのか、少し口が軽い。まぁ、生きた心地がしなかったし、仕方のないことか。
「お、宝箱あんじゃん!」
ここは一本道の横に、ぽつんとある小部屋のような空間だった。その奥に宝箱がある事を、シュタールがいち早く発見した。
「不用意に触れるなよ?きちんとトラップの有無を確認しろ」
「わーぁってるよ!ミレ、手伝ってくれ」
「………ん………」
ミレがいれば安心か。宝箱に向かう2人を意識から外し、ようやく一息吐く。困惑の迷宮に入ってから、明らかにトラップの危険度が上がってるな。その分宝箱の中身の価値も上がっているのは嬉しいのだが、ここから先は油断はできないな。
まぁ、ようやく冒険者らしくなってきたということだな。ここを生き残れないなら、それはひょっ子だという事だ。信頼の迷宮から出直すしかないな。
そう考えるとこのダンジョン、冒険者の育成にとても良さそうだな。
「よし!指輪だ!」
宝箱からは2つ目の転移の指輪が出てきた。最低でもあと3つ。予備も考えれば、あと5つは欲しい。
汎用性も、需要も高いこの指輪は、ダンジョンには必需品だ。つまり、その価値は高い。外でも、指輪があれば1度マーキングした場所には瞬時に移動が可能だ。この指輪を欲しがる人間は多いだろう。
転移の指輪。
これは鎖袋に並ぶ、このダンジョンの目玉になるな。
しかも希少価値が高い。いい値がつきそうだ。
「おい、何か聞こえねーか?」
アルトリアに小言を言われていたレイラが、呟く。さっきの一本道から何かが振動するような音が聞こえ始めた。
「っ!?おいっ!!急いで戻れ!!」
通路から顔を出し、奥を確認したレイラが焦ったようにそう言うと、アルトリアを抱えて走り始めた。何事かと思った私たちではあるが、それでも走り出す。 シュタールの小脇に抱えられるのは女としては不本意だが、今はそんな事を言っている場合ではない。小部屋から出た私が、シュタールに抱えられたまま通路の奥を見てみれば、例の石球がゆっくりと地面とともにせり上がっていく。
確かにマズい!!
あれはあの石球が、再び階段の上へ持ち上げられているに違いない。そうなればここから出れなくなるぞ!!
急げ!!
「はぁ………、はぁ………」
息が上がっているシュタール、レイラ、ミレに、私とアルトリアでそれぞれ水筒を渡す。
なんとか階段を登りきり、ようやく一息吐けた。
「こ、これからは、階段には気を付けような………」
レイラが息も絶え絶えに言う。
確かに、階段で下ると危険なトラップがあるのかもしれない。
「だがな、もしかすればこういった難関のトラップの先にこそ、価値のあるマジックアイテムが用意されているのかもしれないぞ。
信頼の迷宮でも、その傾向があった」
落とし穴に取り残され、分断されたあのトラップ。仲間を助け、なおかつあの隠し扉を見つけた道に、鎖袋があったのだから。
「守銭奴………」
「よし!斥候はレイラに任せよう!」
「うわぁぁぁ、嘘嘘、マジ無理だって!皆死ぬぞ!?」
「冗談だ。お前に我々の命運を託すわけにいくか」
これからも積極的に、宝箱を探していかなくてはならないが、それも慎重に、注意深く進まなくてはな。
まぁ、まだまだ我々にとっては温いトラップではある。冒険者にとっても、まだまだ序の口レベルといったところか。
「まさか、我々が死にかけるとはな………」
「………あのトラップ………、………回避の仕方が全然わからない………」
我々が今いるのは城壁都市の飲食店である。
情けない限りで面映ゆいが、とあるトラップに引っ掛かり、腕輪で戻ってきたのだ。
「つーか意味わかんねーな。何で急に息苦しくなったんだ?」
レイラがぼやくのも無理はない。
あのトラップ、仕組みが全くわからない。連続する落とし穴はわかる。回避には、正しい道を進むか、1人で進しかないだろう。だが、呼吸ができなくなる仕組みを理解もせずに再挑戦など命取りだ。
首を絞められたわけでもないのに、なぜ呼吸ができなくなったのか?
もしや何かの呪いかもしれないな。
「つーか、1人で走り抜ければいいんじゃね?」
何も考えていないような、バカな案を述べるシュタール。愚かな。
それよりも問題は………。
「どうしましょうねぇ………、指輪のマーキングはまだしていませんでしたし、また信頼の迷宮から始めますか?」
アルトリアの言葉に、頷く者は1人もいなかった………。