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 困惑の迷宮

 「ようやく信頼の迷宮の出口か」


 私が安堵の息を吐きながら、その大きな門を見上げる。ここまで、本当に色々あった。命の危険はないものの、足止め、分断、不和工作のトラップの数々に、ここにたどり着くだけで2週間もかかったのだ。


 「あー、マジベッドで寝てーな」


 確かに。


 シュタールの嘆きに、レイラやミレも頷き、アルトリアも肯定的に微笑んでいる。


 「ならば1度戻るか?」


 私の問いに、頷く者は1人もいない。


 当然だ。

 この信頼の迷宮で得た戦利品は、食料13日分、玩具17個、マジックアイテム4つという、中々頭の痛くなる成果だ。

 マジックアイテムは、鎖袋、転移の指輪、携帯式の暖房と、概算ではあるがだいたい白金貨7枚といったところ。あまりに少ない。


 おまけに、普通は転移の指輪を使って戻らなければ、再びこの信頼の迷宮の入り口から再出発になる。転移の指輪は1つ。現状で引き返すなどあり得ない選択なのだ。


 「本当にこんな場所で金稼げんのかよ?」


 レイラがぼやくのも仕方がない。だが、


 「ウェパルが言っていただろう。ここまでは初心者用、ここから先の困惑の迷宮こそが本番だと。

 つまり、ここからなら高値のマジックアイテムも手に入るということだ」


 「マジで頼むぜ。アタシはこの後、キアスさんから例の圏を買おうと思ってんだからよぉ」


 今使っているトンファーでも、充分な武器だと思うのだが、レイラはそうは思っていないらしい。ただ単に、珍しい打撃武器だから欲しい、という事もないではないのだろうが。


 「この先次第だな。だが、キアス殿という結果が出ているのだ。我々はあれを踏襲すればいい」


 「ま、ここまではあの貧弱そうなキアスさんでも、来れるだろうけどさ。でもよぉ、なぁんか腑に落ちねぇよな。あの人が何ヵ月もこんな場所に籠って、お宝集めるか?そんな事より商売してた方が、よっぽど金を稼げると思うんだけどな」


 確かに。

 あれ?確かにそうだ。キアス殿なら、2週間もかければ白金貨を倍も稼ぎそうなものだ。いや、あくまで私たちの私見だし、白金貨14枚を2週間で稼ぐような商人は、既に凄腕を通り越して商売の天才だ。

 だが、キアス殿であれば………。

 そんなキアス殿が、わざわざここに籠ってみみっちくマジックアイテム集め?確かに違和感がある。そんなものは冒険者でも雇ってやらせれば、その間に商売もできるのに。


 あ、いや、そうか。


 「レイラ、我々がここに訪れたのはなぜだ?」


 「はぁ?何言ってんだアニー?金を稼ぐために決まってんだろうが」


 「そうだ。だが、なぜここでなら金を稼げると思った?」


 「んなもん………あ」


 「そうだ。キアス殿の持つ、潤沢なマジックアイテムを見たからだ。

 ここに来れば、誰でもあれだけの量のマジックアイテムを取って来れると、そう思わされたのだ」


 だが、現実は2週間もぐってこの様。いや、普通に考えれば白金貨7枚というのは大金だ。たった2週間、この程度の障害を乗り越えるだけで稼いだのなら上々の成果なのだ。


 だが、思っていたより易い道程ではないようだ。


 「………扉に、文字がある………」


 それまでただ黙っていたミレが、扉を指差して言った。

 扉の文字、これは重要なヒントであったり、ただの気まぐれで書いたような無意味な物であったりするが、一応憶えておくことにしよう。


 扉を軽く押すと、後は独りでに大きな門が開いていく。


 「なんだよ、また迷路かよぉ」


 「情けない声を出すな」


 シュタールのぼやきを無視して、我々は奥の道へと進む。


 願わくは、この困惑の迷宮が、宝の山でありますように。







 「くっそ!」


 宝箱を開けたレイラが、悪態をつく。


 開けた瞬間毒霧が宝箱から立ち込めたのだ。


 「レイラ、離れろ!」


 軽い風魔法で霧を散らしながら、私はレイラに指示を出す。困惑の迷宮に入ってからは、トラップの凶悪さが増し、方向感覚も不思議と上手く働かない。まっすぐ天空の城を目指しているはずが、気付けばその城に背を向けて進んでいる始末なのだ。


 「………レイラ………毒は………?」


 「大丈夫、吸っちゃいねぇ」


 全く、レイラも迂闊だが、それを注意しなかった私達もまた迂闊だった。宝箱にトラップを仕掛けるとは、中々狡猾な真似をする。少々気を抜きすぎていたのかもしれないな。前の信頼の迷宮と同じような心構えでいたら、命取りになるやも知れん。改めて気合いを入れ直さねば。


 「お、宝箱に何か入ってるぜ。ってなんだよ、ただの剣じゃねえか」


 そう言って、レイラが宝箱から短剣を取り出す。


 「………そこそこいい短剣………。………僕はハラディがあるから要らないけど………」


 「だが、金貨5枚くらいの価値はあるだろう。中々良い物が出てくるようになったな」


 そこらの冒険者なら、涎を垂らして飛び付く出来だ。まぁ、我々には必要ないが。


 「お、向こうに階段があるぜ。もしかしてここが出口かもな」


 シュタールが、一見ただの行き止まりに見える道に、下り階段を見つけた。天空の城に向かう道の途中が地下への階段、というのはなんともここに居る魔王らしいひねくれ具合ではないか?

 あながち間違いではないかもしれない。


 我らは、慎重にその階段を降りることにした。


 一段一段慎重に階段を下り、最後の段を降りた時、それは起きた。




 ガコン。




 と我々が降りた階段下の地面が沈み、背後から轟音が聞こえ始めた。


 「なッ!?」


 階段の上部から大きな石の玉が転がり落ちてきていた。





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