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 後門の狼っ!?

 「母上」


 僕とオールが不毛なやり取りを繰り広げていると、背後から鈴を鳴らしたような声がかけられた。


 時刻は既に天辺を回ったかという頃。パイモンとバルムさんはまだ起きているけど、マルコとミュルは既に就寝中だ。自分達の席で丸くなって寝ている。


 「なんじゃレライエ、貴様も我とキアスの楽しい時間を妨げるか?」


 いや、別に楽しくねえよ。


 僕らの後ろに音もなく控えていたのは、先程オールの第一子として紹介された、大和撫子だった。


 夜桜を思わせる薄紫色の髪、立派でありながら決して周囲を威圧しない巻き角、やや面長の顔に切れ長の目、微笑みを絶やさず、常に穏やかに湾曲する唇。オールも着ている和服のような装束も相まって、本当に大和撫子を連想させる涼しげな美女だ。


 「いいえ、そのような僭越な腹積もりなど微塵もございません。


 母上、人の心とは頑ななものにございます。

 1度『こう』と決めてしまったものを、他人が言ったからとて易々と変えれるようなものではございません。

 今ここで無理に押せば、アムドゥスキアス様のお心は、ますます固く、意固地になってゆきましょう。


 しかし母上?


 人の心とは、それでいて移ろい易きものにございます。

 時間をかけ、時の間に間に経験した出来事から、真反対の考えになることも珍しくはございません。

 現に母上は、今まで伴侶を欲しなかったにも関わらず、今日アムドゥスキアス様に出会って初めてそれを求めました。


 例え今拒絶されようとも、明日なら、来月なら、来年ならアムドゥスキアス様のお心も変わるやも知れません。

 ここは戦略的一時撤退も視野に入れるべきかと。


 差し出がましい言だということは重々承知しておりますが、母上におかれては聞き入れるだけの度量があると思い、妾は進言いたします」


 正座し、深々と頭を下げるのも、いちいち様になっている。柔らかな花の花弁を思わせる所作もたおやかで、とても女性らしい姿だ。


 「君、レライエっていうの?」


 「はい。レライエでございます。どうぞお見知りおき賜りますよう、お願い申し上げます」


 穏やかな表情でこちらにも頭を下げるレライエさん。

 レライエ、偶然にも知っている名前だった。


 「レライエよ、我とキアスの関係は今も良好である。今さら時間をおく必要は、あまり感じられるのだが?」


 ほぉー、そいつは初耳だ。どこかに別のキアスさんでもいるのかね。

 良好な関係ってのは、無理矢理押し倒したり、しつこく子作りをせがみ、あまつさえ金品でそれを強いるような関係ではないはずだ。


 「勿論良好な関係でございます。


 あくまで2人の支配者としてのご関係であれば、でございますが。




 母上、畏れながら母上は男女の機微というものに、あまりにも無知でございます。

 アムドゥスキアス様が良き魔王である、という母上の言は、ここにいる皆が首を縦に振るところでございます。いきなり押し倒し、唇や操を奪おうとする母上の暴挙を見逃し、なお我らとの関係を欲するは、偏に支配者としての義務からでしょう。我らも、アムドゥスキアス様が造られる武具を手に入れる事ができる機会を、母上の軽挙からみすみす逃す事にならず、安堵の息を吐いております。


 しかし母上、事男女の縁としては最悪の出会いの部類、と言って過言ではございません。

 畏れ多くも畏こくも、アムドゥスキアス様は男性でございます。どこの世に、無理矢理手籠めにされて喜ぶ男性がおりましょうか?

 よしんばそんな嗜好の持ち主が居たとしても、それはアムドゥスキアス様には当てはまらない事でございましょう。現に母上の、野生の獣のような直接的な求婚も拒絶されているではありませんか」


 「話が長いな」


 呟いた僕の言葉に、オールが苦笑して答える。


 「すまんな、何事も堅苦しい娘なのだ。

 してレライエ、貴様は結局何が言いたい?」


 「これは、長々と失礼いたしました。せっかくの酒宴の席を、妾のつまらぬ進言などに費やしてしまい、申し訳なく思います。


 妾が何を言いたいかと申しますと、今回の一件、妾をアムドゥスキアス様の元へと派遣し、母上とアムドゥスキアス様とのかすがいになりとう存じます、というものです」


 「貴様が我とキアスを取り持つと?」


 「はい。

 ただ、僅か半年しか彼の地に留まれないのでは、あまりに短こうございます。

 故に、妾はあちらに常に留まる大使を努めたく思います。さすれば交代の際も、円滑な引き継ぎが可能かと。ややもすれば、お手付きにしていただける可能性もございます」


 いや、しないしない。


 ただ、引き継ぎについては賛成だな。確かにそこは考えてなかった。


 「むぅ………。確かに良い案かもしれんのぅ………。

 娘の後、という事にはいささか釈然とせんが、この際構わぬ。レライエ、善きにはからえ」


 「畏まりました」


 成る程。

 序盤にある程度相手を煙に巻き、話の結論を伏せる。その上で分かりやすい結論を最後に述べて、相手に納得させたのか。まるで推理小説のような手法だ。

 なにより、あのオールを言葉だけで大人しくさせるその話術、中々侮れん。


 僕が舌を巻く思いでレライエに感心していると、レライエはこちらに向き直り、改めて三つ指をついて頭を下げた。


 「アムドゥスキアス様、かような次第と相成りました。精一杯職務に励み、お役にたてるよう努める所存にございます。

 どうぞ末長く、幾久しくご寵愛を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます」




 あぁ………、なんかこの人からもオールと同じ肉食動物の臭いがする………。





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