魔王達の饗宴っ!?
「カカカ。童のようなナリをして、酒もたしなめぬか」
「うるさいなぁ。いいじゃん別に」
「良い良い。ほれ、ちこうよれ」
「やだよ、つか酒癖悪いなー」
僕ら2人を上座に据えて始まった酒宴は、かしましくも和やかに進んでいた。
酒宴、といっても僕らの中で酒を飲めるのはバルムさんだけであり、僕も含めて他の皆が飲んでいないのに、バルムさんが酒を飲むわけもない。忘れちゃいけない。僕ら5人の内3人は0歳なのだ。
「いや楽しい。これだけ楽しいのはいつぶりだ?」
「知らんし。ってかオールさんは―――」
「堅いのう。オールと呼んで良いと言うてるだろうに」
「いや、僕は親しい者以外を呼び捨てでは呼ばない主義なんだよ」
コーロンさん以外。
「カカカ。面白い男じゃ。我がここまで気を許せば、大抵はこれ幸いと近寄ってきたり、増長するものなのだがな」
「生憎、僕はオールさんと懇意にするつもりはあっても、利用するつもりはないんだよ」
「カカカ。良き男じゃ。ほんに良き男じゃ。
ほれキアス、我の子供達を紹介してやろうぞ」
そう言って長い尻尾を、酒宴の下座へ向けるオールさん。上座寄りの席は部下が大半を占めており、入り口に近い方に尻尾が伸びてゆく。
「あれが我の第一子、今は亡き第3魔王の遺児じゃ」
「へぇ、アンタと第3魔王ってそういう仲だったんだ」
っていうか美人だなー。頭の両脇から巻き角が生えていて、髪は紫。切れ長の目を伏せてこちらに会釈をする様は、大和撫子を思わせるおしとやかそうな女の子だ。
「カカカ。そんなわけなかろう。あんな馬鹿、我の好みではないわ。
次に第二子じゃ」
「は?」
「第二子は大海にたまたま見つけた、セイレーンなる女に身籠らせた子での。歌声は天上の楽園を思わせる優美さよ」
「い、いや、あれ?」
「次に少し前に滅んでしまったが、牛頭という古今無双の怪力を誇る種がおっての、そこのオスに種をもらって作った子じゃ。ああ、同じく古今無双の健脚を誇った馬頭の子は第三十二子じゃな。こちらももう滅んでしまった」
「はぁ!?おい、ちょっとタンマ!色々おかしいだろその話!?」
「なんじゃ、まだ紹介の途中であろう」
「いや、32人も紹介されてたら、料理も冷めちゃうよ。ってか子沢山も程々にしろや」
「我の子供は全部で292人おるぞ?」
「それ全部紹介するつもりだったのっ!?朝になっちゃうよっ!?」
「朝どころか、宴は3日3晩に決まっておろう」
「決まってねえよ、このウワバミ!!
いやいや、それより子供の話だって」
僕は一旦深呼吸をして落ち着いてから、一番気になっている事を聞く。
「っていうかアンタって、男?女?」
声は太い。だが、声帯が大きいと声は太くなるらしいし、これだけ大きな体なら女性でも声は太くなるか。でも、頬も唇もないのに喋るって、もうそれは声帯を使わずに喋っている可能性も………。
「カカカ。雌雄など、我の前では意味を為さん。
そも、この体では同じ龍種としか子を成せんではないか。それではつまらんであろう?」
「いやいやいや。そういう問題じゃないでしょ!?」
「子を成すときは、子を成すための姿になる。ならばわざわざ性に縛られる必要もあるまいて」
おいおい、なんなんだよこの人。魔王だ。夜の魔王だ。しかも両刀使いの。
「強い種、賢い種、ありとあらゆる種の子を生んだ我であるが、魔王との子は1人だけだな。
エレファンとタイルには断られてしもうたし、閨で命を狙われる趣味もない。他にも我の命に興味を持たぬ魔王もいるのだが、そういった輩は子を成すことにも興味を示さん。困ったもんじゃ」
なんつー肉食系。つか292人の子供って、お盛ん過ぎだろ。
「あと、近頃の魔王は小物が多くていかんの。ちょっと我を見れば怯えおって。あれでは伽もままならんて」
縮み上がっちゃいそうだもんねー。よくわかる。僕もここまでの肉食系相手だとちょっとヒく。
「趣味は子作りかよ………。とんでもねえな」
「カカカ。言い得て妙よな。確かに子を成すのは楽しいぞ。なんならキアスも、我と子を成してみるか?」
「勘弁してくれ………」
「そう邪険にせんでもよかろうて。ほれほれ、我が手取り足取り指南してやるぞ?」
「絡み付くな!ってか、アンタの胴体太いから、僕としてはそのまま潰されちゃいそうで、気が気じゃないよ!」
「むぅ………。そうすげなくされると、少し傷つくの。そうじゃ、貴様に合わせた姿ならどうじゃ?」
そう言うと、オールさんの体が見る見る小さくなっていき、最後には小さな金髪の幼女になった。
「どうじゃ?これならそそるかの?」
一気に可愛らしい声になるオールさん。性別不明すぎる。
「僕はロリコンじゃない。好みは身長170cm以上の凛々しいお姉さんタイプだ。次点は160㎝くらいのおっとりお姉さんタイプ」
「なんじゃ、好みがあるならはよう言え。今すぐ―――」
「つかまず服を着ろ!」
「のぅ〜キアスぅ〜、子を成さんかぁ〜」
あー、もう。この人マジで酒癖悪い。
和服のような衣装に身を包んだ、輝くような金髪のお姉さんが、僕にしなだれかかってくる。やたらと着崩した服装や、艶っぽい表情、しなをつくるにも流石は百戦錬磨、一々男心をくすぐる。だが、ここで欲望に負けるわけにはいかない。負ければ292児の父。0歳の僕にはハードルが高すぎる。
「のぅ〜なんなら我の鱗の1枚や2枚くれてやるから〜」
「金品で行為を強要するのって、最低だと思います」
「堅いぞ。堅すぎる。
我を抱けて、なおかつ我の鱗も手に入るとなれば、普通は食いつくぞ?」
「悪いけど、そこまで物入りじゃないんだよ」
まったく、絡み酒ってのは本当にタチが悪いな。
「むぅ、つれないのう。
しかし、オリハルコンが要らないとは珍しい輩よな」
「別に要らないわけじゃないさ。もう持ってるから、わざわざもらう必要も無いってだけで」
「ほぅ。オリハルコンを持っておるとな。カカカ。それでは貴様も狙われる身ではないか。我が閨に匿ってやらんでもないぞ?」
「一々そっちに話を進めないと気が済まないのか、このエロ魔王」
「いやいや、貴様は魔大陸におけるオリハルコンの価値、というものをまるでわかっておらん。
魔族は、程度の差はあれ力こそを信奉する者共。そしてオリハルコンは王者の証。その価値は、真大陸の人間共がお飾りにしているオリハルコンとは雲泥ぞ?」
まぁ、ナイフ一本で戦争が起こったらしいしね。
僕はレッグホルダーからハルペーを抜く。
場は一瞬沈黙に支配された後、緊張が走る。オールさんの部下達は警戒も露にこっちを見ているし、僕の陣営も各自すぐ動けるよう、武器に手を伸ばしている。パイモンがいつになく険しい表情をしてるな。大丈夫だよ、荒事にするつもりはないから。
「………見事じゃ………」
蕩然とそれだけ言ったオールさんが、不用意に刃に触れようとする。
「おっと、これは正真正銘のオリハルコン製だから、流石のアンタでも怪我すんぞ」
「す、すまん………。ついの………」
謝りながらも、目はハルペーに釘付けだ。
「なんなら、アンタの持つオリハルコンも加工してやるぞ?もちろん対価はもらうけど」
「………つまり、これは貴様が造ったと?」
「ああ、僕の造った剣の中でも傑作中の傑作で―――」
それ以上のハルペー自慢は、続けられなかった。なぜなら、
「―――なっ、おいっ、コラ」
「決めたぞ、子を成すだけでは足らん。貴様は我の物にする」
オールさんに完全に押し倒されてしまっていたから。
っていうか、これってマジで貞操の危機っ!?