3大魔王
キアス様に怒られた………。
確かにキアス様にもらった服やマジックアイテムを置いてきたのは、ちょっと反省しています。
でも、ちゃんと後で取ってくるつもりだったんです。捨てたんじゃないんです。キアス様からもらった物を捨てるなんてあり得ません!
とはいえ、確かに失敗でした。こういうのを功を焦った、というのでしょう。これからは戒めようと思います。
グリフォンの長との会談を終えたキアス様は、予定を変えて別の魔王様に会う事にしたそうです。ご褒美はちょっとお預け………。
でも今日はキアス様に喜んでもらえたから、とても嬉しい。だからしばらくは我慢できます。
ご褒美って何かなぁ………。
あ、いえ、我慢できます。我慢します。
しかし、相変わらずキアス様はすごいなぁ。
私は最初、グリフォンの協力は無理だと思いました。最初のあのグリフォンもですが、この里のグリフォンは皆、我々を見下したような目で見ます。キアス様を待っている間に何頭ものグリフォンを見ました。でも皆が皆、こちらに蔑んだ視線を向けていました。あの視線は辛い。まるでオーガの里にいた時のようでした。
でも、あの魔物を倒したあたりからだろうか、グリフォンが我々を見る目に変化がありました。ほとんどは今まで通り、こちらに侮蔑の視線を送ってきましたが、中には暖かい視線をくれる者もいて、それは私達があの魔物を倒した事に対する感謝だと思うと、少し誇らしくもなります。戦士長だというグリフォンには、直接頭を下げられました。グリフォンは誇り高く、何者にも頭を下げたりしないと思っていた私は、とても驚きました。まさか、グリフォンのそれも戦士長に、私が頭を下げられて感謝される日が来ようとは。キアス様の仲間になってから、驚きが絶えません。
でも、キアス様の凄さはこんなものじゃないんです。
会談の後、私たちの元に戻ってきたキアス様に、最初に我々に敵意を向けたグリフォンが駆けてきて、深々と頭を下げたのです。なんでも、彼の弟は以前の魔物との戦闘で病をもらい隔離されているのだとか。病に苦しむそのグリフォンにキアス様が薬を与えたそうです。
最初の敵意が嘘のように、彼は何度も頭を下げ、何度も何度も礼と謝罪を繰り返した。キアス様が困ったような顔でこちらに助けを求めてきましたが、それくらいは我慢してもらいます。彼はキアス様の素晴らしさに気付き、心を入れ替えるいい機会になったのですから。
何て言っていられない事態になりました。
次々と押し寄せるグリフォンが、一言でもキアス様に感謝を述べようと黒山の人だかりになってしまいました。本当にキアス様の他者を魅了する才だけは、手に負えません。
這う這うの体というか、まぁ、馬車にバルムを繋いで空を飛んで逃げたのですが、空を飛べるグリフォンはそれでも追ってきました。ようやく里から離れた辺りで追ってくるグリフォンもいなくなり、私たちは次の目的地に向かう事になりました。
最初にこの里を訪れた時が嘘のように、名残惜しまれての別れとなりました。
でもあの様子なら、キアス様の配下になってくれるグリフォンもいたように思うのは、私の勘違いでしょうか?
「そういえばキアス様、目的地は何処になったのですか?」
急いで馬車に乗った私は、迂闊にもキアス様から離れた荷台に座ってしまいました。マルコもミュルも飛行中はあまり構ってもらえないからか、既に安らかな寝息をたてています。空を飛んでいるというのに、この2人は最初からこんな感じでした。私は最初にこの馬車を見たときは、跳び跳ねて驚いたというのに。
「えっと、東南にあるガロって街だって。そこの魔王にシルドさんが紹介状を用意してくれた」
「東南ですか。では進路はこのままでいいですね」
「うん」
だから今キアス様の相手をしているのはバルムだ。まさか大声で雑談を始めるわけにもいかないし、本当にしくじりました。
「そういえば」
ここぞとばかりにバルムはよく喋ります。私もお喋りしたい。
「どの魔王様とお会いになられるのですか?東南だと………」
そういえば………。ここから東南だと………。
「えーと、第4魔王のオール・ザハブ・フリソスって奴。知ってる?」
「「3大魔王の1人ではないですかっ!?」」
私とバルムの叫びが見事にハモりました。
3大魔王。
原初の魔王とも呼ばれるエレファン様と、人間から魔王になった稀有な魔王タイル様。そして、もうお一方がオール様。
その全身がオリハルコンで出来ていて、『黄金の魔王』とも呼ばれる魔王様だ。他の魔王様に命を狙われ続けても、それを物ともしない圧倒的な防御力を誇り、一説ではエレファン様の一撃をも耐えるのだとか。
他の魔王を退け続けるということは、それだけの実力があるという事。しかも、その方に魔王であるキアス様が会う。普通なら、警戒されて会談などできないのですが、シルド様の紹介があるので恐らくは大丈夫なのでしょう。オール様とキアス様が会う。なぜか嫌な予感がします。これからは一時たりともキアス様から離れないようにしましょう。
こ、これは私情ではないですよっ!護衛としてですからねっ!?




