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 異世界初のっ!?

 「しかし、定期的に上級の魔物が出るのは大変そうですね?」


 気まずくも、礼を言いながらグリフォンが回収してくれた荷物を袋に入れて、僕らは再び会談に戻った。

 そうでもしなければ、ちょっといたたまれない。


 「いや、そうでもない。大抵は、こことは見当違いの方向に流れていく。今回はやや里に近い所で生まれたので戦闘は不可避だったが、戦闘にまでなるのは年に数回、といった所だ」


 ふぅん。月1で生まれるとはいっても、その都度戦ってるわけじゃないんだ。まぁ、当然か。


 「グリフォンの強さであれば、敵でないようには思うのですが」


 「あくまで油断せず、群れで襲いかかれば、我らでも上級の魔物をほふれる力はある。


 だが、毒や疫病を撒き散らす魔物もたまに現れるからな。その対処は厄介だ」


 「ああ、確かに」


 毒なら致死率の高い物以外なら、対処はまだ可能だ。だが、疫病ともなれば話は別だろう。最悪、彼ら自身の手で仲間を処分しなくてはならない。幸いと言ってはなんだが、ここには感染を拡大させるような流通がないのが唯一の救いか。


 「なんとなれば、僕は疫病に強い抗生物質を持っていますが、いくらかお譲りしましょうか?」


 「なっ!?


 どんな疫病に効く薬なのだ!?是非とも分けていただきたい!!」


 ちょっとビビった。やたら食いつくシルドさん。まぁ、病気ってのは厄介だからな。


 「い、一応、感染症全般に効果のある物です。あ、でも臨床実験がまだなので、お譲りできるのは少し先になりますよ?」


 「いや、悪いが今すぐ譲ってはくれまいか?実験が必要というなら、ここの患者を使ってくれて構わない」


 どうやら病人がいるらしい。そういう事情なら、譲るのはやぶさかじゃない。ただ、本当に役に立つのか、病気が治るのかはあまり自信がないんだよなぁ。


 このペニシリン。







 ペニシリンは、20世紀最大の発明とも呼ばれる世界初の抗生物質だ。原料は青カビ。細菌を駆逐し、感染症全般に効果がある。


 日本で普及したのはなんと戦後だというのだから、この世界ではオーバーテクノロジーもいいところだ。

 アムハムラで経口補水液を人々に与えて思った事は、やはりこの世界は病気が多いという事だ。だが、僕に医学知識はないし、治療薬の開発なんてできない。そう思っていたら、ふと思い出したのだ。


 掃除もしない汚い研究室で、たまたま発見されたペニシリンの存在を。


 そこからは錬金術、調合技術をフルに使い、とりあえずペニシリン1号を作り上げたわけだが、残念ながらというか、幸運なことにというか、僕のダンジョンには病人がいなかった。


 アムハムラまで実験をしに行くわけにはいかないし、もっと言えば僕の拙い知識を元にしたこの薬が、本当にこっちの世界で役立つのかもわからない。一応実験で、殺菌作用が高いことは証明されているのだが、やはり臨床実験もなしに患者に投与するのはいかがなものか。


 本当なら梅毒にでもかかったエロ男を実験台にしようと思っていたんだけどな。







 使用上の注意をよく読み、用法容量を守って正しくお使いいただくよう注意し、僕はペニシリン1号をグリフォン達に手渡した。


 隔離している患者達に、これから届けるそうだ。


 「すまんな魔王殿。無理を言った」


 「いえ、慣れてますから」


 「経過報告はどうするのだ?まさか一両日中に病が全快するわけでもあるまい?こちらとしては一向に構わんが、その間ここにとどまるのは、貴殿の目的にも合うまい?」


 確かにな………。問題はいまだ健在であり、解決手段は1つもない。まぁ、ないわけじゃないんだけど、どれもこれも物騒な話になりそうで嫌だ。


 「報告はこのイヤリングを通してしてください」


 「貴殿は様々な魔道具を持っているのだな。了承した。


 して、この後はどうするのだ?」


 「いい人材を確保できそうな場所へ行きます。まぁ、アテはないので1度拠点に戻りますが」


 「ふむ………」


 そこで考え込むように、一度黙るシルドさん。こちらを品定めするように数秒眺めてから、再び話し始めた。


 「魔王殿、我と多少懇意にしていた魔王がいるのだが、その者に会ってはみぬか?

 貴殿には世話になった。それをこのまま帰したとあっては、グリフォンの沽券に関わる。配下を増やせるかはわからぬが、我の紹介であれば会うことは可能だぞ?」


 魔王か………。なんだったら別に、統治そのものを魔王に任せちゃってもいいんだけど………。でもなぁ………。付け上がられても困るし、調子に乗って戦とかもっと困る。


 だけど、既に魔王の部下になってる者をヘッドハンティングするのはいいな。多分、部下を譲ってくれるのは間違いないな。


 スパイとしてか、伏兵としてか、はたまた暗殺者として寄越すかはわからないが、まず間違いなく人員は貸してくれるだろう。


 まぁ、この際それでもいいか。だって雇ってもダンジョンに呼ぶつもり無いし。


 「我の紹介であれば、無下に扱われることもあるまい。もし、貴殿が望むなら付き添いもつけよう」


 「そうですね………。ではお願いします」


 真摯にこちらに提案してくるシルドさんに、僕は笑顔で頷いた。


 そんな風に了承したのが間違いだった。




 僕はこの選択を、この後何度も悔やむことになる。





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