やっぱり魔王っ!?
【レッドキャップ】22匹
レッドキャップが、さらに増えていた。
確かにアンドレの言う通り、すぐに対処した方が良さそうだ。
パイモンが言うには、このレッドキャップは近隣から流入しているらしい。このまま放置すれば、ゴブリンの集落なんかにも、多大な被害が出るらしい。
残念ながら、既にオーク達が襲われ、多くの被害が出たらしい。
だから少なかったのか。
因みに、ゴブリンやオークは魔族、レッドキャップは魔物らしい。正直、パイモンに教えられなければ、「やっぱり初戦はゴブリンかスライムだよねっ!!」と、意気揚々と虐殺に出向くところだった。
あ、スライムは魔物らしい。本当に違いがわからん。
今のところレッドキャップは固まって行動しているが、バラけられたら厄介だ。
「確認、レッドキャップ」
上空から俯瞰するように、レッドキャップの集団が見えた。
レッドキャップは、ネズミと犬を足して、そこに悪意を掛けたような、醜悪な容姿をしていた。身長は150そこそこだろうか。体に比べて、顔が超デカイ。
真っ赤なタテガミは、どこかモヒカンっぽいし、興奮しているのか、荒く息を吐くその姿は、その内「ヒャッハァァァ!!」とか言い出しそうだ。
辛うじて2本足で立ってはいるが、獣の特性が色濃く、どう考えても4足歩行の方が早そうだ。
生物の位置は、スマホに白い点で表示されている。だからわざわざ確認する必要はないのだが、やっぱりこれがダンジョンマスターとしての初仕事かと思うと、自分の目で見ておきたかったのだ。
「『作製』からダンジョンを造って、と。罠は落とし穴でいいか。あ、こんな広さは要らないな。高さ2m、幅7m、長さ500m、こんな感じか」
レッドキャップの群れをギリギリ納められるような、狭い回廊ができた。材質はただの石。内部は暗いだろうから、松明もつけてやる。壁の両脇に10m置きに、合わせて100個。実を言えば、これは親切でも何でもないのだが。
「よし、できた」
『脱出可能でないとセーブできませんからね』
「おっと、出口を作るの忘れてた。ついでに入り口も」
高さ1m程の小さな出入り口を、回廊の両端に造り上げる。
「これでいいかな。………………うん、よし!セーブっと」
視界に写るレッドキャップが、にわかに慌て出す。
そりゃそうだ。だだっ広い平原を歩いていたら、急に狭苦しい回廊に押し込まれたのだから。
瞬時に全ての松明が灯り、石の回廊を煌々と照らし出す。
「こいつ等って馬鹿なの?」
灯りが点いた途端、レッドキャップ達は三々五々に走り出した。
警戒もなにもない。
「魔物はほとんど知性がありませんから」
パイモンが言うことは直ぐに証明された。
1個目の落とし穴に、レッドキャップの半数が落ちてしまったのだ。
後ろにあった入り口に気付いた者もいない。
まぁ、1度入ると侵入者が脱出するか死なないと、絶対に開かないんだけど。
これじゃあ、色々と考えて造っていた僕がバカみたいじゃないか。
落とし穴といっても、ただの穴ではない。足を踏み入れると、床が傾斜し、入り口側に頑張れば登れる急な坂道が出来上がる。出口側は勿論絶壁だ。
構造上、数人で乗らなければ発動しない、という弱点も用意してある。
レッドキャップ達は、皆必死になって坂を駆け上がっている。やっぱり4足歩行の方が早そうだ。
因みに、落とし穴の幅は4m。深さと長さは10m程なので、迂回も可能である。
運良く迂回できたレッドキャップが、次の落とし穴に落ちた。
そう、この回廊は一本道に見えて、激しく蛇行しないと進めない構造なのだ。
ボッチは素通りできる。
『マスター、このトラップは確かに足止めには有効ですが、排除が全然出来ていません。危険度が低すぎませんか?』
『危険度』とはダンジョンの難易度のようなものだ。命の危険がないフロアは危険度が低く、凶悪なトラップがあるフロアは危険度が高くなる。
危険度が高い程、維持にコストがかかり、低い程コストが安い。
ダンジョンの維持には、エネルギーが必要である。
エネルギーを補充する方法は2つ。僕が魔力を注ぐか、ダンジョン内で死んだ生物や魔物、その他微少な有機物からでも吸収される。
危険度は全部で10段階。1〜10まであるが、この回廊の危険度は3。
恐らく、トラップの数やその性質で危険度を定めているのだろうが、
甘い。
僕がそんなぬるゲー造るわけないだろ?
このトラップは、将来ダンジョンを大きくしていく上で、中盤に配置する予定の凶悪仕様なんだぞ?
下手をすれば、ボッチしか攻略できない程に凶悪なのだ。
『っ!マスター、レッドキャップの数が減り始めました』
うん、そろそろか。
視界の奥でも、何体かのレッドキャップが倒れ出した。
他のレッドキャップも激しく息を吐きながら、苦しそうに立っている。
それと同時に、松明が消えてゆく。
高さも、幅も、長さもそれ程無いこの回廊で、100本もの松明を燃やし続ければ、自然と酸素が足りなくなる。おまけに、ここのトラップは足止めのために有るものばかりで、1度嵌まれば激しい運動が必要となる。
つまり、この回廊は無酸素トラップのフロアなのだ。
「しかし、こんな馬鹿なレッドキャップに、半分以上進まれちゃったな。よし。幅を5mにして、松明の間隔も5m置きにしよう」
勿論落とし穴の幅も狭くしておく。攻略できないとセーブできないからね。
「ってセーブできないし………」
やっぱり松明が倍、というのは多すぎたようだ。
松明を元の数に戻す。
おっと。気付けばレッドキャップが全滅してる。
まあ、1度酸素が無くなれば、何匹いようと関係ないしね。
さて、ダンジョンマスターとしての初仕事はこんなもんだが、どうだったかな?




