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 城壁都市

 俺たちがその街に着いたのは、キアスと別れてから8日も経ってからだった。


 なんかアムハムラ王が歓迎と感謝の晩餐をするとかで、1日王都に釘付けだった上、運悪く馬じゃなくモーモしか借りられなかったからだ。なんでも、アムハムラ王が馬を買い漁っているらしい。この国に限って、戦争を始めるわけはねーし、よくわからん。




 しかも、モーモと馬車で旅をしてたら、やたらと声をかけられて困った。


 なんでも、モーモを連れた商人が色んな村で不思議な水を病人に与えてたんだとか。その水を飲んだ病人は症状も緩和し、同じく商人のくれた野菜や果物を食べ、快方に向かっているんだとか。


 しかも、代金は再び村を訪れた時に貰うと言って、未だに戻ってこないんだと。それって、完全に代金受けとるつもりねーじゃん。


 世の中には殊勝な事をする商人がいるもんだ。どっかの守銭奴商人にも見習ってほしいぜ。




 そんなわけで、やたらと時間を食った旅路だったが、なんか良い話も聞けたし順調と言って良いな。


 なぜかどこかから、『早く来いこの脳たりん』と急かされていた気もするが、それもこの3日無いし、気のせいだったみたいだな。


 「しかしデッケーなぁ!」


 どこまで続いてるのか、巨大な城壁は地平の果てまで延び、見上げる程に聳え立っている。


 「これが魔王の仕業らしい。完全に真大陸側からの侵入を拒むように、『魔王の血涙』の端から端まで延びているようだ」


 アムハムラで仕入れた情報を、アニーが教えてくれた。


 「他にも、魔王と直接言葉を交わしたトリシャ姫の言葉を伝え聞けば、同じ物が魔大陸側にもあり、両大陸は今や完全に分断されているそうだ。


 なんでも第13魔王は真大陸と魔大陸の争いを止めるのが目的だとか。

 まぁ、これに関しては全く疑わずに信じるわけにはいかない話だな」


 「なんだよー、結構良い奴じゃん第13魔王」


 「だから信じるな!


 油断させて不意を打つ作戦だったらどうするのだ?」


 難しく考えすぎだってアニーは。キアスだってあの城壁の中の街に住んでんだし、きっと良い奴なんだって第13魔王。だったら俺も戦わなくて良いし、真大陸も安全。良い事ずくめじゃん。


 「っていうかさみー!!おい、シュタール、とっととその街とやらに行ってキアスさんに会ってこよーぜ」


 レイラは手甲も脚甲も金属製だからな。ズボンの上から着けてるとはいえ、季節が悪ければ凍傷になりかねねー装備だ。


 「………お腹空いた………」


 街かぁ。久しぶりに、ちゃんとした飯が食えるのかな。




 「なんという事でしょうっ!!」


 1人絶叫しているのはアルトリアだ。

 なんでもキアスは今ここに居なくて、しばらくは戻らないんだとか。全く、人を呼んどいて何をやってんだアイツは。


 なぜかキアスと会うのを楽しみにしていたアルトリアは、地面に膝を着いて項垂れていた。「私の事なんて………」「それはそれで………あぁ」という独り言が聞こえてきたが気にしない。


 にしても、意外と人が多いな。


 皆、キアスと同じ服を着ているのも気になるが、それ以上にこんな多種族が一緒に暮らす街ってのは聞いたことがないな。何で魔王の街に、こんなに人が多いんだ?


 「あれ?お客さん冒険者?


 おぉ、お客第1号だ!うんと安くしとくぜ!!」


 「なにっ!?客だと!?

 お客さん、ウチの商品買ってかないかっ!?ダンジョン入るなら買っておいた方がいいぜ!!」


 「ダンジョン探索の食料はウチで買ってきな!!オマケするぜ!!」


 「おにーさん、ウチで泊まってかない?チッ、女連れじゃん。まぁいいや、ウチは安くて、広くて、快適な宿だよ。


 ホント、採算とれるのかなー、この宿」


 しかもやたらと活気がある。


 ドワーフのアイテムショップや、人間の八百屋、エルフの宿屋など、本当に色んな人種がいる。


 この飯屋も、獣人が経営してるみたいだし。本当に不思議な街だ。


 「あ」


 「ん?」


 俺はそこで、期せずして顔見知りを見つけた。


 「おぉ!ウェパルちゃんじゃん!」


 「ど、どうも………」


 相変わらず気の弱そうなウェパルちゃんは、オドオドした様子で頭を下げた。


 「あら、シュタールさん、それはダメよ?」


 「こんな小せえ子供をナンパとは、見下げ果てた野郎だな!」


 「………ロリコン………」


 おいやめろ。マジ違うから。アニー、お前は事情がわかってるだろ?助けてくれ!


 「こっちに来いウェパル。そんな奴に近づいては危険だ」


 何でだぁぁぁあああ!!




 落ち着いたところで、ウェパルちゃんにキアスの行方を聞いたが、どうにも要領を得なかった。もしかしたらウェパルちゃんも知らないのか?


 「ぇあ、シュ、シュタールさん達は、この街に何をしに?」


 「ん?ああ、金を稼ぎにな。またキアスの野郎にむしり取られたんで、その補充さ」


 「ダンジョンに入るんですね。じゃ、じゃあ!

 こ、これはひじゅちゅひんです!!」


 うん、必需品な。


 「なんでも、ダンジョンの中は一度入ると後戻りできないそうで、帰ってくるにはこの腕輪か必要だって、言ってました」


 そう言って、鉄でできた腕輪を取り出すウェパルちゃん。なんか緊張してるな。


 「ぇぁ、えっと、すごい怪我をした時とか、帰りたくなった時に、この腕輪で帰ってくる、そうです」


 成る程。至れり尽くせりだな。冒険者なんてのは、基本命がけの仕事をする奴等だ。宝が手に入って、おまけに命の保証まであると。


 「ぁ、でも、死んじゃった人は戻ってこれないって………」


 ああ、即死したらダメなのか。やっぱそこまで厚待遇ではないか。でも、この腕輪は充分すぎるほど、こちらの安全を保証してくれている。

 たぶんこれを作ったのは魔王だよな。さっぱりわからねーな。何でこんなに好条件で、人を呼び込もうとしてんだ?


 「そ、そして!この腕輪が今ならなんと銅貨50枚!」


 ああ、なんかウェパルちゃんらしからぬさっきからの口調は、キアスの真似だったのか。


 「しかし、銅貨50枚とは半端な値段だな。50枚もの銅貨は持ち合わせがないぞ?」


 金の管理を任せているアニーが、思案顔で言う。


 「あ、両替商がありますよ!ホラあそこ!」


 ウェパルちゃんが嬉しそうに、両替商を指差す。何がそんなに嬉しいんだ?


 「あそこには、銅貨50枚分の価値がある半銀貨とか、銀貨50枚分の価値がある半金貨があるんですよ!」


 これもキアスの真似なのか?なんだかウェパルちゃんがイキイキと、聞きなれない金の話を始めた。


 それに食いついたのはアニーである。


 「成る程、買い物が便利そうだな」


 「はい!とっても便利なんですよ!」


 「ふむ。実物を見ておきたいな。案内してくれるか?」


 「はい!」


 そういえば、他の連中がやけに静かだな。そう思ってみてみれば、なぜか3人とも、店の向かいにある大きな窓の前で、微動だにしていない。


 「おーい、置いてくぞー?」


 俺が声をかけても、3人は動かない。


 「ぁ、一度見ておいた方がいいですよ、綺麗ですから!」


 「うん、何かあるのか?」


 首を傾げるアニーの手を引き、ウェパルちゃんはその窓へアニーを連れていった。


 その後を追って、俺もそこへ向かう。


 「これは………っ!!」


 アニーが驚愕の言葉を漏らすと、勢いよくガラスの窓に飛び付いた。

 何なんだよ?







 絶景だった。





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