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 破滅

 カリス達の任務は失敗した。


 驚いた事に、昨日事件が起こり、今日にはその報が、ここアドルヴェルドに入った。どうやらアムハムラ王国が、失伝していた古代魔法の1つを解き明かし、それを国益に繋げるつもりらしい。


 抗議というほどでもないが、襲撃者が聖騎士を名乗っていたので確認のため、こちらで身元を確かめてくれとの事だ。


 フン、大っぴらに抗議でもしてくれた方が、あの国を滅す口実を得られたかもしれんな。


 死体と首を送って寄越したアムハムラ王国は、さぞいい気なものだろう。これでしばらくは魔大陸侵攻は無いとたかをくくっておればいい。

 勇者とオンディーヌが襲撃を阻止し、アムハムラ王に剣を授けただと?


 馬鹿馬鹿しい。


 あんな勇者など、最早ただの障害でしかない。神の御意志を悉く蔑ろにしおってっ!!オンディーヌなどあ奴等のでっち上げに決まっている!それらしい美女と、それらしい剣でもあれば自作自演など簡単に出来るのだから。


 なのに穏健派の奴等は、オンディーヌの意思を蔑ろにはできないだとか、アムハムラ王に教会から称号を贈り、機嫌を窺おうだとか、日和見ばかり言いおってからにっ!!


 オンディーヌの意思などより、神の意思を尊重せよ愚か者が!!


 儂はこの程度で、諦めたりはせんぞ。なぜなら今この時を逃せば神の悲願を果たすのは、また大きく遅れてしまうだろう。


 過去数百年、魔族共の繁殖を許し、未だ淘滅できざるはお前等のような臆病者のせいだとなぜ気付かんっ!?


 しかし次か………。なかなか良い案がないな。


 同じ手は流石にマズかろう。だが、不幸中の幸いかカリス達を送り出した時より、第13魔王の動きは活発だ。1度ズヴェーリに現れたということは、真大陸の他の地にも現れる可能性もある。そこを討つか?だが、どこに現れるかは見当もつかん。誘い出すことも………。


 待てよ。奴隷の解放?ならば今………。成る程、悪くない。


 これなら第13魔王をおびき出せる。


 儂が魔王の末路にほくそ笑んでいると、ノックもなく扉が開き1人の信徒が入室してきた。


 「何をしておるかっ!!ここは枢機卿の執務室であるぞ!?」


 「あははは。知ってるよー」


 激昂する儂を見て、信徒は怯えるそぶりすら見せずにカラカラと笑っていた。


 「いやー、キミ流石だね。あんなにあっさり、部下を使い捨てにするとは思わなかったよ」


 ピクリと儂の眉がひとりでに動く。成る程、この信徒はカリスを呼びに行かせたり、勇者を連れ戻そうとした時にもいた。今回の顛末を推測することも出来よう。それで儂から小遣いでもせびりに来たか。愚か者め。明日にはその命、無いと思え。


 「それにしても、キアス君にも参ったもんだ。まさか、ここまで派手に動くとはね。


 自分がどれだけ危ない橋に立っているのか、本当にわかってるのかな。

 あははははっ!いや、わかってても、同じか。キアス君はそういう子だもんね」


 なんだこいつは………?


 儂はその時になってようやく、こやつの異様な雰囲気を察した。


 「あははは。ユヒタリット君、キミは中々いい噛ませ犬だったけど、残念ながらこれからの世界にはキミのような三下はいらないよ。


 まぁ、今までキミを好きにさせてたのは、彼がどうやって真大陸と魔大陸を取り持つか。本当に架け橋になれるかを試す、試験みたいなものだったからね。


 だからもうキミは要らない。


 彼はボクの試験を100点満点でクリアだ。まぁ、まだちょっと粗は目立つけど、それはまぁオマケって事で。ボクはお姉さんだからそこら辺は寛大なんだ」


 「な、何を言っているっ!?」


 「キミの知る必要の無い、これからの世界の話さ。


 さて、後始末くらいはやってあげないと、お姉さんとしての面目も立たないというものだよね。キミもそう思わない?」


 不穏な気配を感じ、儂は人を呼ぼうとした。机の鈴に手を伸ばそうとした時、それは起きた。


 信徒の背から、法衣を突き破って漆黒の4枚の翼が飛び出したのだ。


 「あはは。驚いたかい?」


 「第2、魔王………」


 そう。


 その姿は伝え聞く第2魔王の姿そのものだった。


 「そうだよー。しかし、ここの警備はザルだよね。魔王が来るわけ無いと、たかをくくってたのかい?」


 最早事態は火急である。儂は1も2もなく鈴を取ろうとしたが、その腕が音もなく床に落ちた。


 「無駄だよ。今日ボクがここに居た事を知るのはキミだけだ。


 そして、キミは明日を迎える事はない。もう二度と」


 「ぁ………がっ………」


 焼けるような熱さが、傷口から身体中を駆け巡る。とても立ってはいられず、思わず地面に尻餅を着いた。と思った。


 2本の足だけは、変わらず地面に立ったままだった。


 「がぁぁあ―――むごっ………」


 第2魔王に口に何かを詰め込まれる。


 「騒いじゃダメじゃないか。まぁいいか。


 じゃあお別れだね。ああ、キミが例の聖騎士と手紙をやり取りしていた記録がここにあるよ。おめでとう、これでキミも彼らと同じ背教者の仲間入りだね」


 儂の目の前で、処分したはずの書類の束を執務机の上に置く魔王。


 「ま………、まて………っ!」


 なんとか口からぐにゃぐにゃした気持ちの悪い物を吐き出すと、儂は魔王に話しかける。


 「わ、儂には、まだやらなければならない事が………」


 「そーいうの、ボクにお願いする事?そのやらなきゃならない事って、ボクたちを殺すことでしょ?」


 酷薄に言い捨てる魔王に、儂はなおも言い募る。


 「ま、まて……っ!お前は、元人間だろう………?」


 「だから?」


 「我が教会は、第2魔王を狙わない事を約束する。儂がなんとかする!!だから―――」


 「あはははははははは。なぁに言ってんの?ボクが人間に戻りたいとでも?ボクを魔王にしたのは、紛れもなく人間なのに?




 それにもう手遅れだよ。




 自分が今、床に吐き出した物を見てごらん」


 魔王が指差したそれは、僅かに脈動し、所々から血液が吹き出していた。




 「気付かなかった?ソレ、キミの心臓だよ」




 儂は―――


 「た………たすけ………」


 身体中からどんどん熱が無くなっていく。寒い。


 「情けないなぁ。キミのせいで死んだ聖騎士は、多分もっと立派な最期を迎えたはずだよ。

 やっぱりキミに黒幕なんて無理だね。こんな情けない姿、キアス君が見たらガッカリしちゃうよ。


 さて、キアス君は次は何をするのかなぁ。楽しみだなぁ」


 そう言って去っていく魔王に、儂は声にならない声で訴える。どうか助けてくれと。何でもするからと。


 しかし、魔王は私に興味が無いかのように、こちらに一瞥もくれずに立ち去ろうとしている。


 「ま゛………て」


 魔王が扉を開けた時、なんとか儂が紡ぎ出した声に、魔王は―――




 ―――振り向きもせずに扉を閉めた。




 誰か………、誰か………、助け―――褒美は―――金―――地位―――誰か―――誰か………―――





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