モヒカン頭とフルフル2号っ!?
僕の生み出したミノタウルスは、弱くはない。
地下迷宮の守護者の一匹であり、間違ってもただの子供に圧倒されるような脆弱な存在ではないのだ。
しかし、素早く駆ける紅い髪の子供に翻弄され、変幻自在の攻撃を繰り出す蛍光ピンクのようなどぎつい色の髪をした子供に、いいようになぶられている姿は、その事実を忘れさせてしまうほどに圧巻だった。
繰り返して言うが、ミノタウルスは決して弱くない。昨日僕が倒した聖騎士では、とても相手にできないような強さの魔物なのだ。まぁ、あのクラスの戦士があと2人いれば結構いい勝負になるかも、というレベルなのだ。
つまり、ミノタウルスが弱いのではなく、この子供達が強すぎるのだ。
戦闘の行く末を眺める僕らを後目に、紅髪の子供が猛スピードで突撃し、それに怯み、隙を作ったミノタウルスをピンクの子供が、
包み込んだ。
まるで捕食するように体を変化させ、完全にその巨体を覆ってしまうと、ミノタウロスは動かなくなる。
この時点で、かなり薄かった人間の子供、という可能性はなくなったな。魔族か?出来れば穏便に事を進めたいもんだよなぁ。
そんな危惧をしていた僕の現在の状況は、
「マスタ、マスタ」
「ました、ました」
なぜか子供2人にやたらとなつかれていた。
場所は今だミノタウロスの間である。
戦闘を終え、こちらに気付いた2人はなぜか嬉しそうにこちらに駆けてきた。フルフルに拘束されるも、それでもこちらに愛嬌たっぷりの笑顔を振り撒いてくる。
2人のステータスを確認してみれば、確かにミノタウロスは相手にならなそうな数字だ。ピンクの方なんて、フルフルと同じ『物理無効』のスキルまである。
名前は紅髪の方がワーウルフ、ピンクの方がワーリキッド。名前はどうやら無いようだ。
紅髪はその頭髪が結構すごい。モヒカンだ。登頂部以外は短く刈り込まれ、タテガミのようなモヒカンを揺らして、笑っている少年。
ピンクの方はその髪色以外は結構普通。ピンク髪でツインテールって創作物じゃ良く見るけど、ここまで毒々しい蛍光ピンクだと結構ヒくなぁ。
「あー、君たち?別に僕は君たちをどうこうするために来たんじゃないよ?ダンジョンに入るのも、戦闘も自由だ。ただ、君たちがどうやってここまで来たのか、それを尋ねるために来たんだ。教えてくれないかい?」
「マスタ、マスタ」
「ました、ました」
おぉっと、話が通じない。これは参ったな………。言葉が通じないって事は、どうやってここまで来たのかもわからずじまいだぞ。
「ワーウルフにワーリキッドか。パイモン、そんな種族に心当たりはあるか?」
「いえ、聞いたことがありません」
うーん………、だろうな。
ワーウルフ 《レベル8》
まじん ほしょくしゃ きょうしゃ
たいりょく 792/800
まりょく 212/324
けいけんち 1121/4800
ちから 731
まもり 170
はやさ 8502
まほう 88
わざ
ぢばしり
かくとう レベル89
そうび
だってこいつ等魔族じゃないし。
しかし、なんつーアンバランスなステータスだ。レベルより格闘技能のレベルの方が高く、素早さの数値も異常だ。
ワーリキッドもそうだが、なぜそんな低いレベルでそこまでの強さがあるんだ?
魔人、もしくは魔神だろうか?でも、神様って感じでもないし魔人だろうな。『ワー』ってのは確か人って意味だったと思うし。
「マスタ、アレ、あげる」
お、紅髪の方がようやく意味のありそうな言葉を話したな。でも指差した先には、ピクリとも動かないミノタウルス。うんいらない。
「えーと………、君たちは何者だい?」
「マスタ、おいしい、マスタ」
あ、ダメだ。やっぱり言葉が通じない。
「うー、このピンクいの、なんか気持ち悪いの!」
フルフルの水の腕の中で、ワーリキッドも体を変化させて暴れている。なんかアメーバの共食いでも見てるみたいだ。
「フルフル、アンダインになる前に魔人になったりとかってした?」
「してないの。精霊は生まれた時から精霊なの!」
じゃあ、本当になんなんだよこいつ等?
暴れてはいるが、別にこちらに害意があるわけでもなさそうだし離してやってもいいのだが、いかんせんこいつ等の正体が謎過ぎる。
「マスタ、アレ、食べない?ニョロ、あるよ」
ニョロ?
僕が首を傾げると、ピンクの方が、
「ました、ニョロ、あげる」
いきなり口の中から、巨大な何かを吐き出した。
ヒュドラ?
そこには半分溶けかけのヒュドラの死体があった。
「プル、ある。パタ、ある」
次々と口から魔物を吐き出す少女。スライム、ヤタガラス、ロングキャタピラー。全部ここ地下迷宮に出現する魔物達だ。
そこではたと気付く。
「なぁ、お前等ってもしかして―――」
弱肉強食の地下迷宮。そこを生き残っていた紅色のタテガミと、軟体生物。
「レッドキャップとスライム?」