表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/488

 方針

 キアス殿がオンディーヌの少女とアムハムラ王女と合流し、退室した後、我々は正真正銘安堵のため息を吐いた。


 「………やっと終わったか」


 私の呟きに答える者はいない。彼女達は私以上に彼と相対し、私以上にその恐ろしさを痛感したのだから当然だ。


 「………商人、怖い………」


 ミレの呟きに、私もレイラも頷く。彼が今日我々から巻き上げていったのは、小国が1年で集める税収にも等しい。


 恐ろしいことにミレ、レイラは、所持金の全てを吐き出し、アルトリアなど貯金の半分以上を持っていかれたのだ。シュタールの分も含めれば、我々の全財産の半額近くを彼は今日稼いだのだ。


 我々は、自分で言うのもなんだが、結構なお大尽であるはずだった。冒険者家業は実入りも良く、シュタールの繋がりで国家から依頼を受けることも多々あった。そんな我々が長年かけて稼いだお金が、ものの見事に搾取されたのである。


 「………でも………」


 そう、あの商人の一番タチの悪いところは、商品が紛れもなく一級品なのだ。

 ミレは嬉しそうに、えーと………、確かカランビット・ナイフというナイフを見つめている。ミレだけでなく、アルトリア、シュタールもまた、手に入れた武具を蕩然と眺めて悦に入っている。


 まるでおもちゃを手に入れた子供だ。


 「っかしよぉ!ありゃあねぇだろ!?」


 1人憤慨するレイラにも、本気で怒っている気配はない。


 「なんだありゃあ?商人ったら、人の顔色窺ってペコペコするもんだと思ってたのに!慇懃無礼っつーか、腰は低いのに高圧的っつーか!」


 その認識もどうかと思う。第一、今日キアス殿の当たりが強かったのは、レイラの態度に腹をたてていたからだと、私は思っている。


 「レイラは、キアス殿をどう思ったのだ?」


 いい機会だから聞いておこう。


 「いや、別に商品に不満があるわけじゃねーんだけどさ、あの馬鹿丁寧な話し方とか、虎視眈々とより多くの金を稼ぐ機会を窺ってるのとか、正直あまり好きにはなれねーな」


 「………あれはレイラが最初に失礼な態度をとったから………。………僕は別に嫌いじゃない………。………コレクションの趣味もいい………。………怖いけど………」


 「そうだな。これに懲りたら初対面の相手に、あんな態度をとるのはやめろ。私たちまでお前と同じような目で見られる」


 私が注意すると、レイラはふて腐れるように頬杖をつき、愚痴をこぼす。


 「お前等は、おまけで武器貰えたからいいだろうさ。アニーなんて正真正銘タダだったしな。けどさ、アタシはほしかった武器、1つ買えなかったんだぜ?稼いでんだからケチケチすんなっつの!」


 結局そこか。金貨数十枚の品をタダで寄越せとは、こいつは何も懲りてないな。


 「………確かに………」


 ミレまでが、恨みがましい視線をこちらに向けてくる。彼女も結構な散財だったからな。だが、実を言えば1番安く買い物をしたのもミレだ。持ってきた白金貨は全部無くなったが、2枚はアルトリアに貸しただけだ。


 アルトリアもミスリルの鞭を手に取っては、ほぅとため息を吐いて心ここにあらずといった風情だ。


 「アルトリア、お前はあの商人をどう思った?」


 私が声をかけると、ビクリと体を震わせ、アルトリアがこちらに向き直る。


 「えっ!?あの、ごめんなさい、聞いていませんでした」


 「そんなにその鞭が気に入ったのか?」


 確かに執着していたしな。何より、ここまでアルトリアの求めていた武器にピッタリな代物は、世界広しと言えどキアス殿でなければ用意できなかっただろう。これが白金貨17枚なら、確かに安いのだ。


 「気に入る気に入らないではありませんよ。あの方がご用意してくださった物ですもの、最高以外の言葉で表現すべきではありません」


 「ア、アルトリア?」


 何故だろう。アルトリアからはキアス殿に対する感情が、我々のものとは全然違うように感じる。


 「あぁぁぁ………。あの笑顔。あの無慈悲な笑顔が、私の心を掴んで離しませんわ。天使のような笑みで、悪魔も青ざめるあの所業。きっと魔王すらあの方の手にかかれば、易々と転がされてしまう………。素敵ですわぁ………。


 もっと搾取されたい………、もっと非道に扱っていただきたい………。


 あの時の、『は?何?お金ないの?』みたいな表情が………っ!!

 その後の商談を切り上げようとした時の、ドン引きした表情。きっとあれは私を蔑んでましたわぁ………。そしてすがり付いた私を見下すあの目。卑しい物乞いでも見るような視線………っ!


 あぁぁぁー………」


 「「「………………」」」


 私、ミレ、レイラは暗黙の了解で彼女を放置することにした。手遅れだ。


 「しかし、しばらくは金策に走らなくてはな」


 「大分懐もさみーしな」


 「………お金を貯めて、またナイフを買う………」


 買った物は買った物。できれば活用して、お金を稼げれば言うことはない。その方法は、キアス殿の入れ知恵が無いでもないのだが………。


 「第13魔王のダンジョンか………」


 「………どんな危険があるかわからない………。………シュタールが勇者だと知れればなおさら………」


 「とりあえず、行って魔王ぶっとばして、宝全部かっさらえばいいんじゃね?」


 私はイヤリングを手に取ると、それを耳に当てる。


 「すまないキアス殿、レイラが貴殿の悪口を言っていてな。もう一度こちらに来て懲らしめてはくれまいか?」


 「ちょぉっ!?タンマ、タンマ!!なに魔王よりおっかねえの呼ぼうとしてんの!?え、あ、聞こえてます………?ごめんなさい、今のウソ。ごめんなさいごめんなさい」


 魔力を流していないのでこのマジックアイテムは、今は起動していないのだが、レイラには効果抜群らしい。


 「………アニー、僕もビックリするからやめて………」


 さすがにミレにはすぐにバレたようだ。


 どうやら我がパーティの総意としては、




 キアス殿に比べれば、魔王など恐るるに足らん!!




 という事で一致したようだ。


 次の目標は『魔王の血涙』。できるだけ、今日使った金額を取り戻すのが目的だ。




 謎の多い第13魔王についても、何かわかるかもしれんしな。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ