おまけのアニーさんっ!?
「キアス殿、さすがにそろそろ財政的にキツい。無理に商談に持ち込んだことは、私も謝ろう。だからそろそろ勘弁してくれないか?」
ああ、だからアニーさん今まで黙ってたのか。無理矢理、といえなくもない強引さで商談に持ち込んだ上、あれが高い、これを安くしろではあんまりだからな。
やっぱりアニーさんはしっかり者だなぁ。ちゃんとゴメンナサイが言えるのも偉い。
「そうですか?ではこれはアニーさんに差し上げますね」
僕はそう言って少し多き目のレッグホルダーをアニーさんに手渡した。
「あ、いや、私も手持ちは………」
「ああ、いやいや、差し上げますって。実はそれ、試行を頼まれてたんですけど、僕はあまり戦闘をしないので困ってたんですよ」
「い、いただけるのか?」
「ええ。因みに、構造はシュタールの魔法の袋と同じです。ただ、それを戦闘用に改良したらしく、言ってみれば武器がいくらでも入る鞘みたいな物です」
「なんとっ!あの鎖袋は現代に造られたものだったのか!?」
「ああ、いや、正確には鎖袋とその鞘の制作者は違いますよ。
その鞘の制作者は、皆さんに売った奇剣を打った刀工です」
本当は同じだけど。ダンジョンにある鎖袋を、僕の知り合いが造ったというのは、かなり怪しいからね。
「ほ、本当にいただいても………?」
「ええ。中に投擲武器のチャクラムが10枚入ってます。これは僕からのサービスです」
「では、ありがたく」
「あ、それとこちらも差し上げますよ」
そう言って通信用のイヤリングを渡す。
「その鞘を使った感想などは、そのイヤリングを通して聞かせてください。僕からその刀工に伝えます」
「い、いいのか、こんな何から何まで?」
タダと聞いて、むしろ疑わしげな視線のアニーさん。まぁ、今までの守銭奴っぷりが嘘のような大盤振る舞いだからな。
「彼の刀工には僕もお世話になっているので、実験の協力くらいはしてあげたいのですよ。あ、試作品ですから、何か不備があるかもしれませんよ?」
「う、うむ。ではありがたく使わせてもらうとしよう」
ふふふ。
「………僕も、………欲しい………」
タダと聞いてか、ミレも名乗り出てきた。まぁ、ここでアニーさんだけ優遇するのはよくないな。
「3つありますから、ミレさんとレイラさんにも差し上げましょう」
「おい!俺はっ!?」
「お前は魔法の袋があるだろうが」
何が悲しくて、お前なんかにサービスしないといけないんだ。
「………ホントに………タダ………?」
うーん………。やはりかなり警戒されてしまったな。まぁ、もう諦めたからいいけど。
「はい。でも、ちゃんと感想を聞かせてもらわないと、追加でお金をとるかもしれませんよ?」
「………や、やっぱりいい!!」
「冗談です。本当に無料ですから、どうか使ってください」
「………………」
うろんな目でこちらを見ながら、ミレはそのレッグホルダーを受け取った。
「ア、アタシも、いいの………?」
すっかりしおらしくなってしまったレイラも、ビクビクと受け取る。
いやー、本当に警戒されちゃったなぁ。まぁ、当たり前か。
「アルトリアさんは、このベルト付きの腰帯にそれを下げてくださいね。ちょっとジャラジャラうるさいですが」
「………はい」
あれ?
なんかこの人だけは、僕に怯えたような視線を向けてこないな。
まぁ、いっか。
「シュタール。しょうがねえからお前にも、ウルミーの鞘をくれてやる」
そう言って僕は長い革ベルトを差し出す。
「お、おい!これって………」
「そうだ。普通のベルトとして使える鞘だから、ありがたく使え」
鍔をバックルにしたのでちょっと柄がゴツいけど、それはそれで似合ってしまうのがイケメンだ。ケッ。
「それとジャマダハルはこの普通のレッグホルダーに、メル・パッター・ベモーは長いけどこの普通の鞘だ。なんとかしろ」
「おう!」
何でコイツはこんな元気なんだよ。
まぁいい。
「一応これで商談は終わり、でよろしかったですか?」
「ああ、こちらとしてはいい取引ができた。無理を言って本当に済まなかったな」
「いえいえ。では食事にしましょう」
代表して答えてくれたアニーさんに、僕は満面の笑みで答える。
この人がこのメンバーの取りまとめ役なのはわかっている。
だからこそ色々とサービスしたのだ。
もしここで、ただ金を巻き上げただけだったら、アニーさんはこれから僕と取引をしたがりはしないだろう。そうなれば、僕は金蔓に逃げられてしまうという事だ。だが、ある程度失った信頼も、あの鞘でいくらか取り戻せたはず。
他のメンバーが僕と取引しようとした時も、そう強くは止めないと思う。あまりに散財が目に余らなければ。
信用は金で買えない。
何て言葉もあるが、僕の持論は、
信用はタダで買う。
だ。
何より、これからの話の都合上、アニーさんにはこちらを信用していてもらわないといけない。
食事をしつつ僕とアニーさんは、お互いに情報交換に花を咲かせていた。
どうやらまだアニーさん達にも僕の『奴隷狩り狩り』については伝わってないようだ。まぁ、先入観がないなら好都合だ。
「この国ではやはり食料の不足や、居住環境が良くないようですね」
僕もこの国の民の状況などを話の種に、アムハムラ料理に舌鼓を打つ。白米と魚の相性って最強だね。
他のメンバー?なんか通夜の席みたいに粛々と食事をしてるよ。あ、シュタール以外。
シュタールは僕から買ったメル・パッター・ベモーを眺めてるので、今回は静かだ。
「ところで………」
僕はおもむろにアニーさんに話しかける。
「今回皆さんは大分お金を使ってしまったのではないですか?」
「あなたがそれを言うか」
苦笑しながら答えるアニーさんには、こちらを批難するような雰囲気は感じられない。よし、とりあえず成功だ。プレゼントの威力は強い。
「別に粗悪品を高額で売り付けたわけではありませんよ?」
「それはわかっている。どれもいい品ばかりだ。だが、やはり財布に痛いのは事実なんだよ」
「そうですか。そんなアニーさんに耳寄りな情報がありますよ?」
僕の言葉に、アニーさんがニヤリと笑う。
「まさか、私の財布の中身まで狙っているのか、キアス殿?」
「いえいえ。私が狙っている利益は、あなた達が得る利益のおこぼれの方です」
「おこぼれ?」
怪訝そうな顔のアニーさんに、僕は伝える。
「冒険者なら一攫千金も夢じゃない、魔獣は多くともお宝も山のようにある場所があるんです!」