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 アルトリアの鞭っ!?

 半泣きのミレを宥めるために、おまけでククリも付けてなんとかご機嫌をとった。


 女の子の涙って卑怯だよね。


 結局僕は白金貨3枚で計7本の短剣を売った事になる。自分の造った物なので損ではないのだが、なんだかなぁ………。


 「あらあら、可愛らしい商人さんだと思っていたら、なんだかとっても恐い商人さんみたいですねぇ。ウチのミレちゃんを泣かせるなんて、ある意味すごいです」


 うぅ………、アルトリアさんの言葉に棘がある。まぁ、あんなウェパルと大して変わらないような女の子から金を巻き上げた上、泣かせたのだ。確かに批難は甘んじて受けるべきかもしれない。


 「なんだかゾクゾクします」


 なんで!?

 いや、マジでなんでっ!?


 「だから言っただろう。この商人には気を付けろと」


 アニーさんが、ミレの肩をポンポンと叩きながら慰めている。

 いや、確かに悪いとは思うけどさ、売った物は僕用のコレクションだから一級品だし、これってそっちがお願いしたから仕方なく応じた商談なんだよ。そこまで言われる事か?


 「………良い物を買った……。………ちょっと高かったけど、良い物だから仕方ない………。………僕は君に感謝してる………。………ありがとう………」


 ごめんなさい!!


 なんかごめんなさい!!


 「うふふふ。私もミレちゃんみたいに苛められちゃうのかしら?あら、なんだか楽しみね。

 私は苛められるより、苛める方が好きだとばかり思っていたのですが」


 えぇー………。なんか恐いっすこの人………。


 「次は私の番でよろしかったでしょうか?」


 本当は嫌だけど、僕は商人。商人は例え、焼きごてを当てられながらでも営業スマイルを浮かべられなくてはならないのだ。


 「はい。アルトリアさんは鞭をご所望とか?」


 「ええ。でも商人さんのご趣味は奇剣集めなのでしょう?

 それに鞭は武器ではありませんからねぇ。私は回復魔法を使う傍らで、敵を牽制する程度の武器であれば、一応見せていただきたいな、と」


 成る程。あまり意欲的に欲しいわけじゃないと。


 あ、駄目だ。さっきミレを泣かせたばかりだし、こんな方法じゃ………。うーん、でもなぁ。正直ぴったりの武器があるんだよな。




 よし!諦めよう!!




 この人達からいい人と思われる事を諦めた。

 というわけで、この人も泣かそう。あ、僕今魔王らしい?


 「ではこれなどいかがでしょう?」


 僕がそれを鎖袋からジャラリと取り出す。


 「まぁ!!」


 途端にアルトリアさんの目が輝き出す。そりゃそうだ。これはアルトリアさんのご所望の鞭なのだから。


 九節鞭。


 短い金属の棒を、九つの節で繋いだ打撃武器である。持ち手には上質な魔石が嵌め込まれ、杖にも施される魔法補助の術式も彫り込まれている。反対の先には刃まで仕込まれているので、打撃のみならず斬撃にも使用可能だ。


 正直、扱いづらく使い手を選ぶ品なのだが、今まで鞭を使っていたならそこまで無理難題というわけでもないだろう。


 「さ、触ってみても、よろしいでしょうか?」


 「構いませんよ」


 ああ、駄目だよアルトリアさん。そんな物欲しそうな顔をしたら、商人との交渉を不利にしちゃうよ?

 それをわかってやっていて、こちらを逆手にとるつもりなら警戒もするけど、多分これ、本気で心酔してるな。


 「いかがですか?魔術師用の中距離武器ですので魔法の補助式も施され、さらには固く、しかし軽い、魔法との親和性も高い総ミスリル製です!」


 「ミスリルですか!?」


 驚くアルトリアさん。当たり前だ。オリハルコンとまではいかなくても、ミスリルも希少な金属である。僕は錬金術で造り出すこともできるが、この世界では基本的に銀山などからごく少量採れるだけの金属なのだ。


 真大陸最大のミスリル鉱脈のあるドワーフの山脈国家でも、年にこの九節鞭に使われている量の半分でも採れれば御の字という代物なのだ。


 因みに、天帝金貨はこのミスリルが使われているらしい。まだ見たことはないけど。


 銅のように伸び、鉄より固く、銀のような輝きを持つミスリル。だがその実、武器として使うには意外と向かない。


 重さとは、武器にとって1つのステータスなのだ。重い武器ほど威力が高くなるのに、わざわざ軽い金属で武器を作る必要はない。また、軽さに重きを置くにしても、ミスリルより軽く使い勝手の良い金属は他にもある。ミスリルが軽いといわれるのは、あくまで銀と比較しての話なのだ。まぁ、鉄よりは軽いのでこの九節鞭に使ったが、こんな物、造った僕ですらまともに扱える自信はない。


 「そ、総ミスリル………」


 だがアルトリアさんはまじまじとその九節鞭を眺め、細部まで確認していく。節部分も丁寧に仕上げているので、いくら見られても瑕疵はない。

 アルトリアさんだけでなく、アニーさんやミレも九節鞭を見ては唸っている。


 「どうですか?」


 「えっ!?あ、ああ、とってもよろしいんじゃないでしょうか。うふふふ………」


 ふふ。取り繕ったって遅い。掴みはバッチリだな。


 「因みに、総ミスリルですのでお値段は結構しますよ?」


 「い、いか程で………?」


 やっぱり恐々と聞いてくるアルトリアさん。まぁ、シュタールに売ったマン・ゴーシュですら白金貨5枚もしたのだから身構えるのは当然か。ふふふ、そのおっとりとしたタレ目を真ん丸にして差し上げますよ。


 「白金貨18枚です」


 「………っ!!………」


 やっぱり驚いてる。まぁ、ミスリルだから当然の値段だ。


 「か、完全に予算オーバーですね。折角ですが………」


 名残惜しそうに九節鞭をテーブルに戻すアルトリアさん。まぁ、ここまでは上々と言って良い。


 「そうですか。確かにお高い品ですからね。


 では次にこれなどいかがでしょう?」


 僕は早速次の品をテーブルに出す。


 「縄ひょうと言われる武器で………」


 その後も鎖鎌、飛爪など様々な紐系統の武器を見せたが、アルトリアさんはあまりピンと来た様子はなかった。時折、出しっぱなしの九節鞭をチラチラと見ている事を確認しつつ、僕はそ知らぬ顔で次の品を出す。


 「これはウルミーという長剣です。鞭のように、とまではいきませんがよくしなる鉄製の剣です。ただ、敵に巻き付けたりはできませんし、強度は高くないので接近戦には―――」


 「―――あのっ!!」


 ウルミー、別名フレキシブルソードの説明を遮り、アルトリアさんが声をあげる。何を言いたいのかはおおよそ察しはついていたが、僕はただ営業スマイルで応じる。


 「はい、なんですか?」


 「こ、こちらの、九節鞭なのですが………」


 他の武器は説明を終えると袋に戻していたが、九節鞭だけは出しっぱなしだ。勿論、わざと。


 「なんとか、お安くなりませんか?」


 うんうん。その言葉が聞きたかった。


 「そうですねぇ………、では白金貨17枚と金貨60枚までなら、なんとか………」


 難しそうな表情で告げる。金貨40枚の値下げ。はっきり言って破格もいいところだが、それでもアルトリアさんの顔色は優れない。


 「な、なんとか15枚くらいには………」


 「えっ!?白金貨3枚も値下げはさすがに………」


 恥ずかしそうに言ったアルトリアさんに、僕は驚いた表情を作って応じる。

 さらに顔を赤くして縮こまる姿に、なんかゾクゾクするな。


 「うーん………、えーと………、………今回はご縁が無かったということで………」


 僕が商談を切り上げようとしたところで、すがり付くようにアルトリアさんがテーブルに身を乗り出す。


 「あ、あの!………」


 なんとか声を出すも、その後が繋がらないアルトリアさん。


 「そんなにお気に召していただけましたか?」


 「はい………」


 羞恥に縮こまる姿に、僕はニッコリと笑いかける。


 「僕は確かにコレクターですが、武器の扱いには慣れていません。武器も、自分を使ってくれる使い手の手にあった方が喜ぶかもしれませんね」


 「―――っで、ではっ!?」


 一条の光を見るような視線を僕に向けるアルトリアさん。僕は優しい笑顔で、アルトリアさんの肩に手を置き言う。




 「白金貨17枚までまけましょう」




 まぁ、営業スマイルだけどね。





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