ミレの短剣っ!?
フルフルには、トリシャと一緒に武器の回収に向かわせた。
あれは商品であると同時に、ダンジョンに落とす予定の品物だ。タダでホイホイくれてやれるような物じゃない。
だが、必然的に僕のコレクションの中から売らなきゃいけなくなってしまった。別に待っていてもいいのだが、フルフルに預けていた商品でこの人達が満足する品は少ない。バカ2人も我慢できなさそうだし。
仕方ない。うん仕方ない。
フルフルのアホ。
「まずはどなたから?」
「………僕………」
ミレが身を乗り出して名乗り出る。あまり押しが強そうには見えなかったので意外だ。アルトリアさんはここは譲るとばかりに微笑んでいる。もしかしたら見せる商品から、品定めするつもりかもしれないな。商品でなく僕という商人を。
レイラは今はおとなしく座っている。というか座らされている。
シュタールとレイラが話しに入ってくると場がぐちゃぐちゃになると、アニーさんとアルトリアさんが気を利かせてくれた。
正直本当に助かる。
「ミレさんは確か短剣をご所望でしたね?」
「………ん………」
口数は少ないが、目に期待が籠っている気がする。真っ青な碧眼が、キラキラと輝いている。
「あらかじめ注意しておきますが、今からお見せするのは奇剣です。僕が趣味で集めた逸品ばかりなので、使いづらいかもしれませんよ?」
「………構わない………。………例のマン・ゴーシュも君のコレクションだったと聞いた………。………あれくらい素晴らしいものなら文句はない………」
静かな口調なのに、どこか威圧感すら感じる。あれ以下の物など見せてくれるな、という声が聞こえてきそうだ。
「そうですねぇ………。ではまずはこんな物でどうでしょう?」
鎖袋から取り出し、テーブルの上に乗せる。
刀身がくの字を描き、その内側に刃を持つ短剣。グルカナイフ。またの名をククリである。
ネパールの高地民族発祥の、ブッシュナイフとしても利用できる利便性の高い品だ。
「………………」
手に取り、ためつすがめつ検分するミレ。
奇剣としては結構有名で、僕としてはコレクションから消えても構わない品だ。奇剣とは無名な物ほどいいのだ。マニア魂というか、マイノリティというか、ひねくれ者の思想だが。
「………いいナイフ………」
確かに造りに手は抜いていない。剣先が重いので遠心力で斬撃の威力が上がり、幅広の刀身も頑丈だ。
「………でも僕にはちょっと重い………。………一応候補に残しておく………」
ダメか。まぁ、ミレにはグリップがちょっと太かったしな。それでも候補に残すあたり、結構気に入ってくれたようだ。少し嬉しい。
「軽い物をご所望でしたら、こちらなどいかがですか?」
僕は次の品をテーブルに乗せる。
鎌のように反った刀身。両刃なので、様々な使い方ができるナイフ。柄に穴が空いていて、そこに指を入れて逆手で使うカランビット・ナイフだ。またの名をコラムビ。
スマトラ島近辺で近代まで使われていたナイフだ。
斬るに良し、突き刺すも良し、その後抉り込むように使うも良し。
取り回しもしやすく、軽い。ミレの要求通りの一品だろう。
「………っ!………、………っ!?」
なんかすごいソワソワしている。手に取り、指を通し、握って、構えて。
無言だけど凄く嬉しそうだ。
「………こ、これ………いくら………?」
多分マン・ゴーシュの値段を聞いていたのだろう。恐る恐るといった風に、ミレは聞いてくる。
お買い上げありがとうございます。
「金貨50枚。2本で90枚まではまけましょう」
「買った………っ!!」
懐から白金貨を1枚取り出すミレ。これはマン・ゴーシュ程複雑な造りではないし、ギミックもない。だからこの値段なのだ。
だが!
ふふふ、僕がただおまけしたとでも思ったのかい?
まだまだだよ、ミレちゃん。
「まぁまぁ、まだそれは仕舞っておいてくださいな。他の物を見てからでも遅くないですよ?」
「………確かに………」
はっはっはっ!!
我が事成せり!!最早ミレは僕の手の平の上さ。
「次はこの剣はいかがでしょう?」
本当は最古の奇剣とも呼ぶべきチョーパーとか、ピチャンガティなんかも出したいけど、あれはやや大きいんだよな。
次に僕が出したのは奇剣も奇剣。なんと柄の無い短剣、ジャマダハルだ。
先は細く刃元が幅広の綺麗な三角形の刀身。そこから伸びる2本の棒、その間にグリップがあり、それを握ると拳から刃が伸びるように見える短剣だ。別名パンチングダガー。
「………面白いっ………!」
グリップを握り、軽く振るミレ。安定させるためにグリップは2本あるが、取り外しも可能で、自分の好みの位置にグリップを移動させることもできる。
因みに、前述のチョーパー、ピチャンガティと、このジャマダハル、発祥はどれもインドである。僕は三蔵法師よりも天竺を崇拝している自信がある。奇剣といえばインド。全ての発祥の地、インド万歳。
閑話休題。
「………こ、これは………、………いくら………?」
「これも大したギミックもありませんし、僕のコレクションにストックもあります。金貨30枚、2本で50枚までおまけしますよ?」
「………買っ、た………。………さっきのと合わせて金貨140枚………」
「いいのですか?まだとっておきの1つがありますが、見ませんか?」
「………っ!………み、見る………。………」
あぁ………、多分自分の未来を予見してるのか、声にさっきみたいな力がない。多分これも買うだろうなー。
「最後はコレ!」
僕が取り出した最後の品は、僕もお気に入りの逸品。
ハラディ。
湾曲した片刃の刃が2枚、上下反対向きに柄から伸びている。さらに、ナックルガードに鋲を打ち込んだカッコいい短剣だ。
発祥はいわずもがな。あー、僕も天竺行きたい。
「………っ!こ、これいくら!?」
興奮を隠しきれないといった勢いで、いきなり値段を聞いてきた。最早、最初のクールな印象は何処へやらだ。
「これは少々お高くなっておりますね。1本金貨90枚、2本で170枚となります」
「………ぅ………あぅ………」
さすがに後込みしたかな。だが許さん。
「そうですね、先程の2つと合わせると、金貨310枚と半端です。もし、もし仮に!その2つとこのハラディを買っていただけるなら、ここは出血大サービスでさらに金貨10枚を値引きしましょう!!
とはいえ、正直を申せば金貨90枚の持ち合わせがないので、白金貨で払われてもお釣りがない、というだけなのですがね」
嘘だけど。袋の中には金貨もジャラジヤラ唸っている。僕がわざわざこんな事を言ったのは、既に30枚もの金貨を値引きし、さらに一緒に買えば10枚の値引き。もし今を逃せば最初の30枚はともかく、最後の10枚の値引きは無くなる可能性がある。理由が僕の持ち合わせが無い事なら、次はそうではない可能性もあるからだ。
購買意欲を刺激するというのは、損して徳取れをいかに悟らせないかが肝要なのだ。
「………買います………」
項垂れて白金貨3枚を差し出すミレが、ちょっと涙目だったのに気付いたとき、僕はやり過ぎた事に気付いた。