異世界の水は肌に合わないっ!?
パイモン。ソロモン72柱の悪魔の、序列9番。女顔の男で、あらゆる知識を授ける悪魔。
仲間になったオーガの名前だ。僕に知識を与え、意外と女顔の彼にはぴったりだと思う。僕の名前が名前なので、彼の名前もソロモンの悪魔からいただいた。
「パイモン………。私の名前はパイモン………」
パイモンがなにやらぶつぶつと呟き、たまににへらと笑う。
最初こそわんわん泣いて困ったが、なんだかそのあどけない表情に、結構癒される。それもそのはず、彼はなんとまだ12歳とのこと。0歳の僕が言えたことではないが、まだまだ子供だ。
そんな歳で天涯孤独。不憫だが、これからは僕の仲間だ。
一緒に、いっぱい楽しいことをしよう。
さて、パイモンが仲間になったし、次は………………
やっぱり風呂か。
水がないって?実は、水くらいなら、スマホの機能で作れるのだ。
というか、無機物なら大体造れる。
ただ、生活水に使うには激しく適さない。
まず、迷宮の一部として造ってしまうので、基本的に僕が消さない限り消えない。摂氏1000℃でも蒸発しないし、絶対零度でも固まらない。
だから洗濯物も乾かないし、洗った食器もずっと濡れたまま。飲料水?飲みたい?コレ?
さらに、エネルギー消費も馬鹿にならない。水は生活に必要不可欠なものだ。それを一々スマホで造っていては、神様から貰った分の力なんて、すぐに底が尽きる。
という理由で、水を自作したりはしなかったのだが、
よし前言撤回!水を作って風呂に入ろう!
しょうがないじゃん。文明人なんだもん。
風呂の無い生活なんて無理。せっかく作った石鹸や、シャンプー、リンスなんかも無駄になる。
因みに、石鹸、シャンプー、リンスは『製作』であらかじめ作れるようになっていた。きっと神様の心憎い気配りだろう。僕の知識って、無駄な物は知っているくせに、こういう物の作り方とか全然知らないからね。マジで助かった。
そうと決まれば、早速風呂の準備だ。そうだ、パイモンに水を飲まないよう、注意しないとな。というかあいつ、風呂入ったことあるのかな。髪なんかの状態を見れば、少なくともしばらくは入っていないことは確実だ。
「アレ?」
僕は、ふと思い付いたことに、指の動きを止める。
そういえば、水だけじゃ風呂って言えないよな?
水風呂だ。
よく考えたら、風呂場は造ったけど、ボイラーなんかは造ってない。あれ?ボイラーってどう造ればいいの?流石にそんな複雑な機械を、スマホでちょちょいとは造れないよ。
『マスター、私に何か言いたいことがあるんじゃないですか?』
「よく考えないで、物を造りました………、助けてください………」
「箱が喋ったっ!?」と驚いているパイモンを尻目に、僕はスマホに懇願した。こうなりゃ恥も外聞もない。僕は異世界に来ても、文明的な生活を手放すつもりなど無いのだ。そのためなら悪魔に魂を売ってでも、何とかする。
『誰が悪魔ですって?』
「ごめんなさい。マジごめんなさい」
うわぁぁぁん!!僕のスマホが怖すぎるぅぅぅ!!
「アムドゥスキアス様、その箱はなんですか?魔道具か何かですか?」
パイモンが不思議そうに、僕の手に握られているスマホを見る。
『はじめまして。私はマスターのサポートをしている、アンドレアルフスと申します。以後お見知りおきをパイモン』
おい、一体いつ名前が付いたんだ、お前は?
「わっ!本当に喋っています!あ、私はパイモンです。アムドゥスキアス様の新しい下僕です」
「いや、下僕とかじゃないから。様とか要らんし、名前も長すぎるから、短縮してキアスって呼べばいいよ」
僕が呆れて、話しに横槍を入れる。だって言いづらいだろ。
「魔王を呼び捨てになどできませんよ!で、でも、あだ名って、いいですね」
はにかみながら言うパイモン。
すごく嬉しそう。
くそ、しくった。
パイモンにあだ名が付けれない。パイ?イモ?モン?どれもイマイチ過ぎる。特にイモ。
『そこの気遣いの出来ないダメ男のせいで、私はあなたをパイモンと呼ぶことにします。私のことはアンドレでいいですよ』
「はい、アンドレさん!」
嬉しそうだ。
なんだかすごいパイモンに癒される。少し、この性格の悪いスマホと接しすぎたのかもしれない。
『マスター?』
「ごめんなさい」
即土下座。プライド?んなもん、こいつの怖さの前では使用後のティッシュより価値がない。
『今さらですが、マスターはダンジョンマスターの癖に、このダンジョンについて知らない事が多すぎます。
あ、正座してください。私今、説教してますので』
「はい………」
僕はすごすごと足を折り、姿勢を正す。隣で、なぜかパイモンまで僕の真似をして座っている。
『いいですか?今のままでは、このダンジョンはただの壁です。
いくら壊されない壁とはいえ、ダンジョンというものは、一繋ぎでなくてはいけません。つまり、絶対に誰もここに辿り着けない構造には出来ないのです。
自分の身を守るためには、ダンジョンを強化していくしかありません。
まずはもっと、『カスタム』の機能を理解しなさい。そして、もっと考えて行動しなさい』
………………反省します。