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 オンディーヌの恩寵っ!?

 「フルフル、服の入った袋だして」


 「うんなの」


 フルフルが体の中にしまっていた鎖袋を取り出す。その中からワイシャツと学ランとスラックスを取り出す。下は今替えるのはなんか嫌だから後で。こんな美女美少女美幼女に囲まれての着替えなんて、どんな羞恥プレイだ。


 スラックスだけ僕の腰に下げた鎖袋に入れ、ワイシャツと学ランを着込む。うぅ〜服が冷たい。


 「き、キアス殿………?」


 またもフルフルの異様さに驚く人が増えた。なんかもう説明とか面倒くさいので、シュタールに聞いてくれと伝え、僕はアムハムラ王の元へ。


 勇者ハーレムの女性陣がそれでもこちらをじっと見ていた。わかったよ、後でちゃんと武器は売るから今は待っててくれ。


 「平気か?」


 「はい、なんとか………」


 こちらを気遣ってくれるアムハムラ王に涙が出そうだ。気遣いができるって素晴らしいね。


 「陛下、少々ゴタゴタしてしまいましたが、予定通り陛下には剣を賜っていただきます」


 そう言ってフルフルを一歩前に出す。打ち合わせはさっき済ませたが、何せフルフルだからな。どこでトチるかわからない。


 僕の物言いに、騎士が敵意を向けてくる。まぁ、王様が賜るってどんだけだよ、と僕も思う。だが、今回の話を大きくしつつ、僕が目立たないようにするにはこれが一番なのだ。


 「アムハムラ王、お前は民のため、世界のために貢献する良き王なの。これからもお前が賢君であるなら、この剣を授けるの」


 偉そうにそう言って、フルフルがお腹からオリハルコンの長剣を取り出す。いや、他の場所から出せよ。


 「必ずや、オンディーヌのご意向に沿う王たらんことを誓います」


 アムハムラ王も空気を読んで恭しくその剣を受けとる。




 これぞ僕のとっさに考えた『オンディーヌのお伽噺にあやかってうやむや作戦』だっ!!




 オンディーヌに剣を授けられるというのは、コーロンさんの話を聞く限り伝説レベルの事柄だ。

 それが今この場で起これば、騎士の人も勇者ご一行も驚くだろう。あ、トリシャも驚いてる。


 しかもあげるのは正真正銘のオリハルコンの剣だ。この話が港間に流れれば、アムハムラ王は伝説の仲間入りである。国内外問わず、アムハムラ王の人気はうなぎ登りだろう。各国も、抗議や批難は自国の民の信用を失う事くらいはわかるはずだ。


 これには、聖騎士を倒したアムハムラ王国に万一にも批難が向かわないようにというのと、今回の襲撃を勇者とオンディーヌの両名が阻んだという証言がほしかったのだ。




 いくらアヴィ教でも、オンディーヌを蔑ろにすることはできない。なぜなら、オンディーヌを含む4大精霊は神の使いと、アヴィ教自身の教義が決めているからだ。まぁ、恐らくはオンディーヌや他の精霊を信仰する人々を取り込むつもりで加えた教義なのだろうが、今回はそこを逆手に取らせてもらう。


 フルフルの異常さは既に周知のようだし、今さら隠し立てすれば疑われる。痛くもない腹ならまだしも、僕の腹は激痛だ。さぐられればかなり困ってしまう。

 フルフルがオンディーヌなのは本当だし、目撃者が多いなら逆に好都合だ。


 『アムハムラ王を襲った凶賊をオンディーヌが退け、アムハムラ王に剣を授けた』


 まさにお伽噺のように出来すぎたシュチュエーションじゃないか。


 さっきまで僕に敵意を向けていた騎士は、感動のあまり表情を変えずに涙を流している。

 いや、恐いよ。


 とりあえずこの場はこれでいい。僕はうまく脇役のモブに自身をバミることができた。後はとっとと退散するのみである。


 「キアス、貴様にも礼をせねばな。それにこちらの剣の代金もある。後程また来い」


 ツヴァイハンダーを持ち上げ、王がこちらに苦笑する。


 わかってます。インフラ独占の件で話があるんでしょう?

 僕は恭しく頭を下げたあと、部屋を後にしようと歩き出す。


 「ちょっと待て、俺たちの武器は!?」


 シュタールが慌てて駆け寄ってくる。


 チッ、忘れてなかったか。







 「しかしまさかオンディーヌが仲間にいるとは、驚いたぞ」


 僕達はトリシャに案内され、アムハムラ王都の高級料亭みたいな店の個室に集まっていた。ここも靴を脱ぐのに板敷きなのか。


 アニーさんが呆れるような、感心するような声で言う。今まで黙っていたのは、この人達にしてみれば、突然現れた形状不明の生き物がオンディーヌだと言われて混乱していたのだろう。


 シュタールが単純でバカなだけで、やっぱりこれは異様な事のようだからな。


 「まさかキアス殿の商品の数々は、そのオンディーヌの少女から貰った物なのか?」


 「さぁ〜、どうでしょう」


 はぐらかすように営業スマイルを浮かべる僕に、バカの片方、レイラが声をあらげる。


 「んなこたぁいいんだよ!オラ、さっさと商品見せやがれ!」


 「…………」


 僕エラくね?

 まだ怒ってないよ?


 「レイラ………、お前は少し黙れ。このままでは我々までキアス殿に敬遠されかねん」


 「アニーの言う通りですねぇ。レイラちゃん、後でお仕置きですよ?」


 「………引っ込んでて………」


 うわぁ……、総スカンだ………。


 仲間からの猛攻に、シュンとして小さな体をさらに小さくするレイラ。


 バカってどこに行っても同じようなポジションなんだなぁ。僕も気を付けよ。


 「商品を売るのはやぶさかではありません。僕も商人なのでね。


 ただ、少々お高くなりますよ?」


 僕がそう忠告すると、アニーさんが思い詰めた表情で頷く。


 「………覚悟の上だ………」


 まぁこの前も大分むしり取ったしな。警戒されるのは当然か。まぁ、手加減はしないけど。


 「フルフル、武器の袋を出してくれ」


 いくら小さな鎖袋とはいえ、いくつも携帯するのは面倒なので種類ごとに小分けにしてフルフルに持たせている。鎖袋にだって容量があるし、できればこんな奴に持たせたくはないのだが仕方がない。

 別に僕の袋の中にそれぞれの鎖袋を入れてもいいのだが、取り出すとき区別がつかないんだよな。


 「あ」


 そこでフルフルが不吉な言葉を漏らす………。


 まさか………。




 「お城に武器忘れてきちゃったの………」




 あぁ………、所詮こいつはオンディーヌなんて大層なモンじゃなく、お風呂の精霊なんだな………。

 その事を忘れていた僕が悪い。そう、僕が悪いんだ………。




 とりあえずフルフルは帰るまでお風呂抜き。





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