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 興奮、動揺、嫉妬

 キアス様が上半身裸だった。




 ………危うくまた鼻血が出るところだった。下半身も脱げていたら絶対出ていた。


 私たちが駆けつけると、キアス様と父上、見知らぬ男と、そしてフルフルが室内にいた。フルフルの事だから城内で迷子にでもなっているんじゃないかと、心配していたのだ。


 「キアス様、ご無事ですか!?」


 「大丈夫だよトリシャ。ちょっと剣でつつかれただけさ」


 強がるキアス様可愛いっ!!


 ではなくて、服もボロボロだし、室内は血の海だし、とてもキアス様が生き残れるような生易しい地獄絵図ではないのだが。


 「本当に、大丈夫だったのですか?」


 「ホントホント、ホラッ!!」


 そんな事を言って両腕に力瘤を作るような仕草をするが、残念ながら二の腕の太さは全く変わっていない。


 あぁあぁ………。今抱き締めたらマズイ。人目もあるし、何より父上の目の前だ………。でも可愛いっ!!


 「おおっ!なんだよまた別嬪さんじゃねぇか!?キアスもホント、隅に置けねえな!!」


 部屋に居た見知らぬ男は、馴れ馴れしくもキアス様をからかうように口にした。というか、この者は誰だ?謁見中にはいなかったし、我が国の兵でもない。


 「貴殿は?」


 やや固い口調になってしまった私を気にするでもなく、その男は快活に答えた。


 「俺はシュタール!ちょっとした縁でキアスと知り合ってな!今はダチだ!」


 「縁って………、僕の記憶では無理矢理商談に介入したり、無理矢理僕から商品を巻き上げてった記憶しかないぞ?」


 「なんだよぉ、腐れ縁もまた縁って言うだろぉ!」


 「腐れ縁って程長くもねぇだろうが。僕にとってはお前は金払いの悪い、しょっぱい客でしかない!」


 「白金貨15枚も巻き上げておいてそりゃねぇだろ!?」


 「売るつもりの無かった物を無理矢理買ったんだ。当然の出費だろう。それともなんだ、代金返せば返品するのか?」


 「ごめんなさい。売ってくれてありがとう。これからも大事に使わせてもらいます」


 な、仲が良さそうだ………。


 私の知らぬ所でキアス様が友人を作っていたことに、安心と一抹の寂しさを感じてしまう。


 「私はトリシャ・リリ・アムハムラ。この国の騎士団長を勤めている」


 「おう!よろしくな………って!トリシャ・リリ・アムハムラって言えば王女じゃねえか!?しかも救国の王妃の娘の!!おいおい、どうやって知り合ったんだよキアス?」


 「え、あ、いや………」


 しまった。少々キアス様に気を使いすぎた。王女である私がキアス様を『様』付けで呼ぶのはいささか以上に不自然だ。

 気付けば騎士の中にも不審そうな視線をキアス様に向けている者もいる。

 どうしよう………。


 「トリシャは僕がフルフルを連れているから、なんか神聖視されちゃってるんだよ。やっぱりオンディーヌって騎士には憧れの対象みたいでさ」

 驚きを顔に出さなかった私を誉めてほしい。特にキアス様に。


 オンディーヌ!?フルフルが!?


 「ああ、確かに。つか、オンディーヌ連れてるとか、お前勇者かよ?」


 私の動揺を他所に、シュタールと名乗った男はそう言った。いや、それだけ?オンディーヌだぞ?


 「やめてくれよ。僕はただの商人だよ」


 ただの商人ではなく魔王です、キアス様。しかもオンディーヌを連れた魔王です。前代未聞です。


 「ふーん。まぁいいや!」


 いやいやいや!シュタールのあっさりとした言葉に、私の動揺は最高潮に達する。


 なんなのだこの男は!?『まぁいいや』ではないだろう?オンディーヌだぞ!?


 「それよりキアス、剣売ってくれよ!」


 「いーやーだっ!僕の集めてる奇剣は、商品じゃなくコレクションだって言っただろう。ただの剣なら売ってやる。普通の商人でも用意できるくらいのヤツならな」


 「それじゃあお前を探してここまで来た意味がねえじゃねえか!」


 「知るか!勇者なんだから自分で何とかしろ!」




 ………………………。




 はぁぁぁあああっっっ!!?


 勇者!?勇者と仰いました?ななななんで勇者がこんな所に?というか何仲良くしてるんですかキアス様!ソレあなたの敵じゃないですかっ!?


 「天帝金貨のヤツなら売ってもいいぞ。オリハルコン製のただのロングソードだからな」


 いい加減にしてくださいキアス様っ!!


 これ以上私を驚かせてどうしたいのですかっ!?


 「オリハルコン!?マジでか!?スゲーな、伝説級の代物じゃねえか!?マジで?マジであんの?」


 案の定勇者も飛び付いている。


 当たり前だ。オリハルコンの武具と言えば、真大陸にも王家に1つあるか無いか。我が国にはない。それもロングソードだ。普通は短剣や、ナイフのような物でも貴重だというのに。天帝金貨だろうと欲しがる国は枚挙にいとまなどないだろう。


 「か、買った!!」


 「残念でしたー、実はもうアムハムラ王にあげる予定なんですぅ〜」


 「くぁああ!!なんだそのムカつく口調!?知ってんぞ、お前がそういうの人に譲るときは予備があんだろ!?魔法の袋の時もそうだった!!」


 「ぅぐっ………!で、でもコレは僕のコレクションで………」


 「それ買ったぁぁああ!!金に糸目はつけん!!例え我が家を売り払っ―――」




 「「アホかぁぁぁあああ!!」」




 突然飛び込んできた2人の女性が、勇者の後頭部を蹴り飛ばす………。


 はぁ、もう驚き疲れた………。







 「やぁアニーさん、お久しぶりです」


 「やぁキアス殿、相変わらず遣り手のようだな」


 何て言っている場合じゃない!!

 なんだそこのエルフ!?キアス様に馴れ馴れしいぞ!!





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