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 とある王様の疲労

 オンディーヌ信仰。


 信仰とは名ばかりの、ただのお伽噺群なのだが、その人気は篤い。

 オンディーヌが登場する逸話は多く残っている。とある国の王子と恋に落ちた話や、英雄に剣を授ける話が有名ではあるが、他にも様々なおとぎ話にその名は出てくる。


 大抵が絶世の美女として語られ、知識や武器を授け、見る者を恋に落とす。吟遊詩人に歌わせれば夜から朝までその美しさを語って聞かされるほどの、美の化身と言っても過言ではない存在だ。


 真大陸では山中の泉などでたまに目にする機会がある程度のオンディーヌは、そのおとぎ話も相まって最早信仰と言っていいほど人気があるのだ。







 「フルフルは、フルフルなの………」


 さっきの勢いはどこへやら、オンディーヌだと紹介された少女は魔王の陰からそう自己紹介をした。


 「おう!俺はシュタールだ。よろしくな、フルフルちゃん!」


 一応説明されたとはいえ納得できない私を他所に、勇者も自己紹介をして少女に笑いかける。


 単純すぎないか、この勇者?


 私はといえば、いまだに二の句を次げないでいた。

 だってオンディーヌだぞ!?


 私とて、幼少の頃にはオンディーヌに剣を授かる程の英雄になる事を夢見ていたのだぞ!?青年の頃には、時間を見つけては山中に潜りオンディーヌの住まう泉を探したのは、今となってはいい思い出だ。


 そんなオンディーヌが、今は魔王と共に現れ、私の目の前にいるのだ。


 これに動揺せぬというなら、その者はスモールリザードが目の前でバシリスクになっても動揺などしないだろう。


 「キアス、この前のウェパルちゃんといい、フルフルちゃんといい、お前幼女趣味でもあるのか?」


 「あ゛?ぶっ殺すぞ、この脳たりん。

 大体フルフルは僕より遥かに年上だ。言動は残念だがこれでも水精霊だからな」


 「恐えよ。なんかお前、俺の扱いが段々雑になってないか?」


 「あらぬ疑いをかけるお前が悪い。だから武器も売らん」


 「おいおいおい!ちょっと待ってくれよ!困るって!仲間にお前から買った剣散々自慢しちゃってさ、ここでお前から買えなかったら、今度こそ本当に横取りされかねねーんだって!!」


 「知るか。勇者のパーティなんだから、適当な国からでも巻き上げてこい」


 「それ、どこら辺が勇者!?」


 なんでこの魔王と勇者はこんなに仲がよいのだ?

 2人の立場を知ってしまっている私には、この光景は素直に恐ろしい。


 その時、廊下からドタドタといくつもの足音が聞こえ始めた。ようやく応援が来たらしい。


 「父上!キアス様!ご無事ですか!?」


 真っ先に飛び込んで来たのはトリシャである。続いて数名の騎士が、室内の惨状に驚きつつも駆け寄ってきた。


 「陛下、お怪我は?」


 緊急時なので略礼で話す。膝を地に着けている暇など今はないのだ。


 「肩を少しの。下はどうなっておる?」


 「賊はほぼ殲滅いたしました。討ち漏らしが無いか、城内を巡回中です」


 「うむ」


 面倒臭い礼儀や、作法などを無視して騎士が状況を報告してくる。トリシャは魔王の方へ行ってしまった………。


 「陛下、この死者は………?」


 「聖騎士だそうだ」


 「なッ!?つまりこれはアヴィ教の襲撃だったのですか!?」


 「いや、独断だろうな。いくらなんでも、これが教会の意思なら杜撰すぎる。私がこの城に居る保証もないしの」


 この城は本来、敵を迎え撃つようには出来ていない。国境や北の砦の方がよっぽど堅牢であり、私はそちらに居る事の方が多い。


 今回はたまたまこちらに居たが、まさかそれを調べてから来たわけではあるまい。なぜなら、私がここに居るのは魔王との会談のためだったのだから。


 「今回も少なからず犠牲が出ています、いい加減あの教会には辟易させられます………」


 うんざりとした口調で言う騎士には、私も大いに同感だ。無論、彼等の中にも貧民救済や戦争孤児を養うなど、立派な行いをしている人物もいるのだ。でなければ、広大な真大陸でここまで普及はしない。



 だが、いかんせんこの国は教義の中の一部に悪影響を受けすぎている。


 「この件について抗議はするが、精々が蜥蜴の尻尾を切られて終わりだろう。だが、強硬派の勢いは確実に減じる。しばらくは魔大陸侵攻は無いだろうな」


 「不幸中の幸い………と言っていいのやら考えものです」


 であろうな。


 そもそも魔大陸侵攻強硬派は、既にかなり失速していた。だからこそのこの強行策だったのだろうが、それも失敗すれば自らの首を絞めるに等しい。

 いくら知らぬ存ぜぬを決め込もうとも、これが強硬派の仕業なのは誰の目にも明らかだ。強硬派及び、アドルヴェルドは各国からの抗議が殺到するだろうな。仮にも聖騎士を名乗る者が、王族の暗殺を企てたのだから。


 「だが、これで意固地になられても困る。最悪、アドルヴェルドと賛同する国だけで魔大陸侵攻を企てれば、他国は干渉できん。


 それでも一番の被害を被るのは我が国なのだ」


 理不尽ではあるが、敵対するにしても支援するにしても、魔大陸侵攻が我が国に及ぼす影響は絶大なのだ。


 だからこそ、あまり追求しすぎず、さりとて事が真大陸中に知れ渡るぐらいには喧伝しなくてはならん。


 まぁ、期せずしてその方法も、手段もついさっきもたらされたのだが。



 「陛下、そ、それで、そのぅ………」


 騎士が言いにくそうに問うて来るのを、私は答えを用意しながら待つ。


 「………あの少女は一体………?」




 あぁ、早く引退したいなぁ………。





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