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 王と魔王と勇者と精霊

 マズイな………。


 3体の首無し死体と、3人の男。


 勇者は混乱し、魔王は泰然自若に振るまい、私は黙る。


 今この状況で聖騎士に生き残りが出るのは確かにマズかった。だが、目の前で無抵抗な人間を1人殺されれば、勇者でなくても狼狽しよう。


 普通なら尋問するなり、教会への抗議に使うなり、生かしておいた方が得策なのだ。この者らが、私と魔王の接触さえ知らねば。


 しかし、知ってしまった以上、生かして帰すという選択肢はなくなった。魔王が自分の正体をばらさなければ、とも思うが、先程のあの武器、あれの存在の秘匿は確かに必要だろう。あのマジックアイテム。1度見てしまえば再現は難しくとも、模倣ならいくらでも可能だ。あんな物が例え口伝だろうと広まれば、最悪の場合など想像するまでもない。それ程応用がきき、単純でありながら、絶大な威力を発揮する武装なのだ。魔王としては元より口封じは必須だっただろう。


 しかしマズイ。まさか私も、この場に勇者が飛び込んでくるなど、想像もつかなかった。


 もし勇者にも彼の正体が魔王と知れれば、アムハムラ王国の世界的な立ち位置は一気に崖っぷちまで追いやられる。本当にマズイ………。


 「おい!何で殺したんだよキアス!?」


 どうやら魔王と勇者は知己であったようだ。この世界で生きる1人の人間としては、魔王と勇者が知り合いなどただの恐怖でしかない。

 だが、今回はそれが良い方に作用してくれれば、この窮地もまた切り抜けることも可能だろう。


 「何でも何も、こいつ等は狂信者だぞ?生かしておいたところで、まともな証言なんて望めない。

 最悪、アヴィ教に身柄を求められればこの国はアヴィ教にこいつ等の審判を委ねざるをえん。国際的立場はあちらの方が上なんだ。

 無論、一国の王の命を狙ったのだ、無罪放免どころか極刑は免れないだろうがな。それでも、断罪をあちらに任せるという事は、こいつ等の証言をあちらに都合よく解釈させる隙を作るということだ。


 もしもこいつ等がアドルヴェルドで、『アムハムラ王は魔王と会談し、誼を持とうとしていた』なんて言えば、今度は国をあげてこの国に首を突っ込む口実を与えることになるんだぞ?」


 よくもまぁ………、ペラペラと舌が回るものだ………。


 『もしも』も何もそのままの事実じゃないか。何より恐ろしいのは、隣で聞いている私ですら『確かに』と一瞬納得しかけてしまう説得力だ。いくらなんでもここまでの凶行を犯したこ奴等を国外に出すなど有り得ぬというのに。


 「むぅ。い、いや、でもな………」


 尚も言い募ろうとする勇者に、魔王はさらに畳み掛ける。


 「何より、現状僕らにコイツを拘束する手段がない。もし気がついて、再度アムハムラ王を狙った時はどうするんだ?

 いくらお前が強くても、100%何があっても王を守りきれると断言できるのか?

 仮に言いきれたとしても、様々なリスクを抱えつつ生かしておくような理由はあるのか?


 今この城ではアムハムラ王を救出せんと、多くの兵や騎士たちが奮戦している。その全員を納得させるだけの理由が、お前にはあるのか?」


 もう完全に魔王の独壇場だった。

 たじたじに言いくるめられた勇者に、少し同情してしまう。


 と言うか、こんな一方的な舌戦を目の当たりにすれば、やはりこの魔王は危険だと言わざるを得ない。


 魔王討伐にと送り出した勇者が、魔王側に寝返る未来がありありと想像できる。本当に恐ろしい………。


 「つ、つーか、キアスはここでなにしてんだよっ!?」


 あ、逃げた。


 「見てわかんねーのか、剣を売ってたんだよ」


 魔王はそう言って私の持つ剣を指し示す。


 よくもまぁそんな当たり前のように嘘をつけるものだ。そもそも一国の王に剣を売るなんて相当な商人でなければ不可能だし、まして1対1での受け渡しなどあり得ないのだが、私の持つ剣を見た勇者が目の色を変えたあたり、話題を逸らすという目的は達したようだ。


 「そーだ!お前を探してたんだよキアス!俺と俺の仲間に武器を売ってくれよ!!」


 「えー、やだよ。お前この前僕から無理矢理買い取ったやつがあるだろ」


 「ああ、あのマン・ゴーシュな!あれ超良いな!ついでにメインの剣も新調しようと思ってさ!」


 「だから嫌だって。大体、この前金欠だったくせに金はあんのか、あ゛ぁん?」


 「白金貨5枚は作った!」


 「おおぅ………。お前と話してると、商人として自信を無くすよ………。

 なんでこんな馬鹿が僕より効率的に金が稼げるんだよ………」


 いや、効率を言うならお前も相当な物だぞ。例の流通独占は確かにアムハムラが一番の利益を得るが、その傍らで真大陸中にマジックアイテムを売るつもりだろうが。


 「ふん!だが、白金貨5枚で買える程度なら、精々があのマン・ゴーシュ並みだな!」


 「なにっ!?もっと良い剣があるのか!?」


 「ふふん。僕のコレクションを舐めるなよ?白金貨どころか天帝金貨が必要な代物があるぞ?」


 「ぐぁっ!!マジか!?天帝金貨なんてギルドに預けてる2枚しかないぞ!?」


 「あんのかよっ!?全商人の憧れ、天帝金貨だぞ!?僕だって見たことないのにっ!!」


 いや、あの、君たち………?今の状況わかってる?




 「キアスっ!!」


 魔王と勇者が楽しそうに話している光景に絶句していると、魔王と一緒に訪れた少女が飛び込んできた。名前は確かフルフルだったか。


 「キアスから離れるのよ!!」


 突然少女は腕を伸ばし、勇者に襲いかかった。


 ああ………。終わった………。


 魔王の必死の説得も、今水泡に帰した。こんな事をすれば少女が魔族だという事が露見してしまうだろう。そこから魔王の素性に行き着くかはともかく、彼女を客人として迎え入れた我が国は言い逃れができない。


 「おわっ!?な、なんだぁ?」


 「キアスから離れるのよ!この変質者なのよ!」


 今の魔王は服はボロボロで、上半身など残骸が残る程度のほとんど半裸な姿だ。いや、しかしこの状況でソッチを疑うものか?


 「フルフル、大丈夫だ。こいつは敵じゃない」


 いや、魔王と勇者といえば敵でしかないぞ。


 「ホントなの?」


 「ホントホント。だから大丈夫だ」


 なんとか魔王が少女を宥めすかし、落ち着かせたがもう1人説得しなくてはならない人物がいるぞ?


 「お、おいキアス、なんなんだその子は?」


 「ああ、こいつはフルフル。僕の仲間だ」


 あぁ………、そんなハッキリ………。


 「な、仲間って………」


 案の定疑わしげに少女を見る勇者。さてどうかわす魔王?




 「ああ、フルフルはオンディーヌなんだよ」




 「「はぁぁぁあ!?」」




 私と勇者が同時に声をあげた。





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