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 魔王と勇者

 俺がアムハムラ王国にたどり着いた時、事態は既に動いていた。


 アニーの使う時空間魔法でアムハムラ王城に転移してきた時、すぐには気付けなかった事が悔やまれる。


 「やっぱ、アニーの時空間魔法は便利だな。あっちゅう間にアムハムラだぜ!」


 レイラが快活に笑いながら言う。俺もそれに頷きながら、久しぶりに見るアムハムラ王国独特の王城を見上げた。


 「ホントだよなぁ。転移が使える時空間魔法の使い手なんて、長年生きててもアニーくらいしか見たことねーもん」


 「うふふふ、あらアニー、照れていますね?」


 「なっ!?照れてなどいない!誤解を招くようなことを言うな!」


 アルトリアとアニーがじゃれ合うのを横目に、久しぶりにアムハムラ王にも挨拶すっかなー、何て考えていた俺の服の裾をちょいちょいと引っ張る奴がいた。


 ミレである。




 「…………血の臭い………」




 みれが一言呟くように言っただけで、俺達4人から笑顔は消え、緊張が辺りを包んだ。


 「ミレ、どれくらい強い?」


 「………わからない。………少なくとも10人以上………、………城内から………」


 俺の確認に、なんの感情も伴わずに答えるミレ。


 「城門から行くか?」


 レイラが確認してくるが、そんなわけがない。


 「この城壁を越える方が得策だ。アムハムラの兵には後で事情を説明して、納得してもらうしかない。最悪、まだ関知してない危険もあるからな」


 俺の考えに同調するように、アニーがみんなに説明してくれる。俺は説明下手だからこういう時は本当に助かる。




 一気に城壁を登る。壁面を駆け、5m程の城壁の天辺までたどり着く。レイラとミレは俺と同じ方法で登ったのだが、運動の苦手なアニーとアルトリアは、アニーの風魔法で上がってきた。普段は非効率的だと使いたがらないが、今回は目を瞑ったのだろう。アルトリアの捲れるスカートにも俺は目を瞑る。




 「こ、これは………」


 城内に侵入した俺達は、騎士団の詰め所の近くで異様な光景を目撃した。


 大地に突き立った無数の武器。それに串刺しにされた人。その近くで数人の騎士が捕縛した人間を見張っていた。


 「誰だ貴様ら!?」


 その騎士達がこちらに気付き、槍を向けながら殺気だって問いただしてきた。


 「怪しいモンじゃねえ。城から血の臭いがしたんで駆けつけてみた、ただの冒険者さ」


 「冒険者か。悪いが身分証を確認させてくれ。賊の身内である可能性もある」


 まぁ、この状況じゃそうだよな。


 俺達は言われた通り、冒険者組合発行の身分証を見せる。教会発行の身分証もあるが、この国じゃ教会関係者は白い目で見られるからな。

 「こ………っ!!これはっ!?」


 騎士が俺の身分証を見て目を見張る。


 「まさかあなたは、勇者ですか!?」


 あ、やっぱバレた。どうしよっかなー。教会関係者である勇者の加勢なんて、嫌がるかな?


 と思っていたら、騎士はその場に膝を着き頭を下げた。


 「失礼しました。勇者とは露知らず、ご無礼を申しました!」


 「え?あれ?」


 俺の困惑を他所に、騎士は畏まった態度で続ける。


 「勇者に御加勢いただけるなら心強い。賊の侵入よりこちら、我々は今だ陛下の安否すら知れません。どうかご助力ください」


 「えっと………、いいのか?俺、これでもアヴィ教会所属だぜ?」


 俺が確認すると、その騎士は苦笑してから首を振る。


 「確かに我々は、アヴィ教に思うところはあります。ですが、過日の困難の折り、勇者殿が我が国にしてくれた恩を忘れるわけも御座いません。教会の意向を無視し、1人でも多くの民にと慣れぬ漁をし、食糧を取り続けてくれた恩、アムハムラの国民は未来永劫忘れたりなどはいたしません!」


 いや、大したことしたわけじゃないんだけど………。っていうか、マジで慣れねー船仕事で、本職の漁師の邪魔ばかりしてた気さえする。


 「じゃあとりあえず、俺達は王様を見つけ出して保護すればいいんだな?」


 「はっ!ご助力、感謝します!」


 騎士が胸に手を当て敬礼したとき、


 ドォォオン!!


 異様な轟音が鳴り響いた。


 俺や仲間たち、騎士や賊までもが、慌てて周囲を確認する。


 「あそこから聞こえた気がする!!」


 俺は2階の窓を指差し、そこへ駆ける。


 「レイラ、ミレ!お前等は城内をアニー達と来い!」


 アニーとアルトリアでは、手練れの剣士とかが相手だと分が悪い。

 城の壁を駆け上がり屋根に飛び乗ると、目的の窓まで走る。




 「キアス?」


 そこで俺は、あいつと再会した。




 1人の首の無い聖騎士。2人の聖騎士。アムハムラ王。そしてキアス。


 全く持って状況がわからん!!


 侵入したのは賊のはずだが、それらしい人物は見当たらない。全員が剣を抜いていることから、戦闘中であった事は分かるのだが、俺がここに入ってきた時点では誰も戦っていなかった。


 全く持って状況がわからねぇ!!


 だが、とりあえずアムハムラ王を見つけることはできた。後はアムハムラ王を守るだけだ。


 「シュタール!」


 俺が行動方針を決め、駆け出そうとしたとき、キアスが鋭く声をあげた。


 「アムハムラ王に加勢して、聖騎士を討て!奴等は魔大陸侵攻を強行するためにアムハムラ王を弑そうとする賊だ!!」


 成る程。アヴィ教の中でも重度の馬鹿ならやりかねねぇな。


 「わかった!」


 俺は聖騎士の1人に向かって突貫する。


 「このド阿呆がぁぁぁ!!」


 こちらに反応できずにいた聖騎士が俺の拳を顔面に受け、壁まで吹き飛ぶ。

 鎧と壁がけたたましい衝撃音をあげ、聖騎士はピクリとも動かなくなる。


 「貴様!!まお―――」


 もう1人の聖騎士が何かを言いかけていたが、完全にアムハムラ王を忘れてしまっていたのか、あっさりと首を落とされた。


 「勇者か、久しいな」


 何事も無かったかのように、アムハムラ王は口端を歪めてこちらに笑いかける。よっし!なんかよくわかんねーけど、一件落着?


 アムハムラ王がキアスを警戒していない以上、こいつは敵じゃないんだろう。

 良かった。こいつも賊なんじゃないかと、一瞬警戒しちゃったよ。こいつにはこれから剣を売ってもらわなくちゃな。いやー、こんな所で会うとは思わなかった。


 俺がそんな風に安心していると、キアスが俺の殴り飛ばした聖騎士に駆け寄った。

 てっきり捕縛でもするのかと思っていた俺は、キアスの次の行動に度肝を抜かれた。




 キアスが聖騎士の首を、あの剣で切り落としたのだ。




 はぁ!?


 「お、おいキアス!何でそいつ殺したんだよ!?」


 「は?」


 俺が詰め寄ると、キアスは何を言っているのかわからないと言うように、首を傾げた。




 本当に状況がわからねぇ………。どういうコト?





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