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 雷鳴

 雷鳴。


 そう、雷鳴だ。


 広間の内に響き渡った轟音は、その室内にいた全ての者を一瞬で金縛りにした。


 一番最初に動いたのは私である。


 私だけが、短剣を取り落とし、ゆっくりとくずおれていく。


 先程、少年に剣を突き立てた時とは真逆な光景だ。


 腹からは力が抜け、立っていられず、私は地に伏した。


 鎧の奥。腹部からは鋭い痛みと熱が這い上がってくる。見れば鎧には小さな穴が開き、その隙間からはドクドクと真っ赤な血液が流れ出していた。


 何が起こったのか、まるでわからなかった。


 魔法ではない。魔法は魔力を集中させる際に、予兆とでもいうべき、揺らぎが生じるはずなのだ。だが、今回それはなかった。つまり、私の腹を貫いたのは魔法ではないという事だ。ではなんだ?何が起こった?

 混乱の渦中で、少年がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


 アムハムラ王も、2人の聖騎士も、事態がわからずただ立ち尽くしていた。


 それはそうだ。


 当事者である私にも、何がなんだかわからないのだから。


 「ごめんな、コレ命中精度が悪いから、一番狙いやすい腹しか狙えなかったんだよ。痛いだろ?すぐ楽にしてやるからな」


 最早、私の攻撃によるダメージなど微塵も窺えず、ただ悠然と、ただ超然と話す少年。


 なんなのだろうこの少年は?


 何なのだ?この少年は一体何なのだ?


 痛みから混乱する思考が、さらに纏まりなく頭の中を掻き乱す。


 斬っても傷を負わぬ。

 殺しても死なない。


 それではまるで、噂に聞く第11魔王ではないか。この少年は―――


 「おま……えは、一体………」


 「うん?僕の正体かい?そういえば名乗ってなかったね」


 けらけらと明るく笑う少年。私が血を流し、死を待つのみの身の上だというのに、冷酷なまでに少年は明るく笑う。今まで殺し合いをしていたとは思えぬほど、屈託なく笑う。

 それはやはり異様な光景だった。


 「僕の名前はアムドゥスキアスという。親しい者はキアスと呼ぶね」


 少年が私の背を踏みつけながら、しかし表情と声だけは長年の友人にでも話しかけているかのような気さくさだ。


 「すぐそこの『魔王の血涙』で、ちょこっと魔王やってます」


 「―――っ!!」


 魔王!?魔王だと!?


 神の怨敵、秩序の破壊者、狂気の体現者、魔王。


 そんな馬鹿なっ!?魔王とは、諸悪の根源を体現すべく醜悪な姿のはずだ!こんな、こんな人間のような姿の魔王などっ!!


 あるいはそれこそが卑劣な罠か!!人間の姿で人間を騙し、罠に嵌める魔王!成る程それなら得心がいく。

 私は沸々と沸き上がる怒りに身を震わせ、頭上の魔王を睨み付ける。


 魔王は笑う。


 「君達には、こういう強行策に出ないようにちょっと細工もしたんだけど、無駄だったようだね。一体どんな馬鹿がこんな事をさせたんだい?」


 「わ……ったしがっ!………それ、を……口に……すると、でも?」


 「んーん、ただ聞いてみただけ。でもその口ぶりじゃ、やっぱり黒幕はいるんだね。いい事が聞けたよ」


 くっ!こんな魔王にいいように踊らされるとはっ!

 だが、ここでこの魔王を討ち取れば、神の悲願を1つ果たせる。例え敵わずとも、手傷くらいはっ!!


 私は近くに落ちていた短剣を掴むと、一気に魔王の足を斬りつけた。これで倒れてくれれば、今の私でもとどめくらいは………っ!


 「ったいよ、もー。せっかく無事だったズボンまでダメになっちゃったじゃんかー」


 だが、魔王はそれでも立ったまま私を踏みつけていた。


 魔王が私の目の前でズボンの裾を持ち上げると、うっすらと傷の残る足首が見えた。私の目の前で、今つけたその傷がみるみる内に塞がっていく。


 「これは僕の持つスキルの1つの効果だよ。体力を増大させ、ダメージを軽減し、自然治癒力を上げる、その名も『神の加護』っていうんだ」


 酷薄にすら思える笑顔で、魔王は語る。


 私は―――


 「神の………―――」


 ただ呆然と呟くことしかできなかった。

 それ以上は言葉にならなかったのだ。


 魔王がその手に持つ剣を私の首にかけ、最期とばかりに言い放つ。


 「僕さ、人間と魔族の争いを止めてくれって神様に頼まれてね。その時この加護を貰ったんだ」


 この、どう見てもただの子供にしか見えない魔王が、神の使徒?

 いや、神の使徒は既に勇者として!

 そもそも神が魔王を?

 いや、それ以上に神が魔族との争いを望んでいないのだとしたら、私のこれまでにしてきた事は―――

 私のこれまでの人生は―――




 混乱する私に、彼は気さくに別れを口にした。


 「あの人、気のいい人だからきっと来世は良い事あるよ。じゃあね、聖騎士さん」




 ああ、神よ、どうか私を―――





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