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 劣勢と笑顔

 魔王が腹部を刺され、くずおれた。


 私は2人の聖騎士を相手にしながら、その光景に目を見張る。


 魔王が、こんな簡単にやられるはずなど無い。


 だが、先程までの稚拙な剣技、身体強化魔法を使って尚遅いスピード。もしかすれば本当に、あの魔王はあの程度の実力しかないのかもしれない。


 だが参った。もしあの魔王がやられれば、あちらの聖騎士もこちらに加勢するだろう。


 流石にこれだけの手練れを3人も相手には出来ぬだろう。私ももう歳だ。体力もいつまで持つか。


 まずいな………。


 応援が駆けつけたところで、これだけの技量の聖騎士だ。何人の犠牲が出るかもわからん。


 魔王は再び立ち上がり、1人の聖騎士といまだ相対している。だが、それも時間の問題だ。

 斬りつけられ、盾を取り落とし、剣を振るも避けられ、また斬りつけられる。

 常人であればとっくに死んでしまうような傷を受けて尚立っているのは流石は魔王と言う他無いが、それでも勝敗は決定的だ。


 「ぅくっ!」


 他所見が祟ったか、肩に僅かな傷を負ってしまった。こちらの2人の聖騎士も中々の技量なのだ。だが、魔王の相手をしている聖騎士は頭1つ分は飛び抜けている。

 速さ、剣技、共に申し分ないほどの武人である。


 アヴィ教に属してなどいなければ、一門の武人として相見えることもできたのであろうが、今となっては望むべくもない。




 私はなんとしても、ここを生き延びねばならないのだ。でなければこの国は、民は、アヴィ教の狂信者にいいように蹂躙されてしまう。


 なんとしても生き延びねば………っ!




 私たちが剣戟を交わし、攻防を繰り広げている傍らでは、魔王が満身創痍で聖騎士の攻撃を受けていた。

 流石の聖騎士も、魔王の驚くべきタフネスに痺れを切らし猛攻に出ていた。

 魔王はそれをなんとか剣でしのいでいる。だが、全ては捌ききれず、幾筋もの傷をその身に刻み、赤い血飛沫が花のように散っている。


 「驚くべき耐久力だ」


 魔王を相手にしていた聖騎士が攻撃の手を止め、呆れるように呟いた。それには私も同感である。


 これほどまでに傷を負いながらも、魔王はいまだ2本の足で立っていた。

 だが、ダメージは隠しきれず手足は震え、視線は虚ろで、姿勢もおぼつかない。




 しかし、その表情だけには確かな笑みが浮かんでいる。




 見る者の背筋を凍りつかせるような、そんな笑みを。


 「い………やぁ………、参った……ね………。………手もあ……も出な……や」


 声すら所々聞き取れないような弱い口調。しかし、魔王は笑う。


 まるで天使のような笑み。純真無垢な笑顔。だがどうして、このような状況でそんな笑顔を浮かべることができるのだ。


 私が戦っている2人の聖騎士も、その異様な光景が気になってか先程から剣技に粗が見え始めた。


 いや、仕方の無いことだ。かく言う私も、その隙を突けていないのだから。


 だから圧倒的優位に立っていたその聖騎士が、焦ったように単調な攻撃に出たのも仕方の無いことだった。




 ギィィィン!!




 鋭い金属音と共に、聖騎士の剣が半ばから折れた。あの程度の打ち降ろしであれば、あの魔王でも対処できたようだ。


 何よりあの魔王の使う剣は、本当の業物だ。


 私の持つ長剣もだが、一振りでこの国の税収の半ばは吹き飛ぶような名剣だ。

 トリシャの剣といい、機会さえあれば私も一振り貰えないだろうか。なんだったら、この長剣でもいい。

 まぁ、それはこの場をお互いに生き残ってからだ。



 おや、何だかんだで私はあの魔王が殺される心配はしていないな。


 満身創痍で、立っているのがやっとな魔王。

 相手の技量は高く、生まれてから2ヶ月の魔王には厳しい相手だろう。


 だが、トリシャを貰い受けるならこの程度の窮地、何とかして見せよ!

 魔王たる矜持があるなら、男であるなら、無様な姿など決して許さん。

 そんな奴にトリシャを任せることなどできはしない。


 いや、別に生き残ったらトリシャを嫁に出すとか言っている訳じゃないぞ?

 念の為。




 「なぜだろうな………」


 なぜだろう。


 紛う事なき窮地にあって今、私は少し楽しくなってきていた。


 あの魔王はどうやってこの窮地を抜けるか、それを楽しみに剣を振るう。


 お、聖騎士の片方がいい具合に隙を作ったな。


 さっきのお返しとばかりに、肩を斬りつける。鎧に阻まれ傷を負わせるまでには至らなかったが、動揺させることはできた。

 私はもう片方が横薙ぎに振るった剣を避け、籠手の上から腕を払う。

 やはり傷はない。


 だが2人の聖騎士は明らかに狼狽え、攻め手にも躊躇が見られる。


 そんな脆弱な意思でこのアムハムラ王を取りに来たとは笑わせる。少しは魔王を見習うことだ。




 私は先程より軽く感じる剣を振り、2人の聖騎士を相手にする。





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