仮想彼氏・只今・戦闘中 第5回 夢の戦い
これはリレー小説「仮想彼氏・只今・戦闘中」の5回目でーす。濡れ丸さん、みゃもさんによって描かれた4回目までを読んでからお読み下さい!
残念ながら一番文章量、文章力が無いサイコウさん。お二人のを読まれた後では見劣りしまくりでしょうが、生暖かい目で見てくださいな。
あ、それと今回は戦闘中心で描かせて頂いたので、グロテスクな表現が少しばかり入っております。それだけは了承してくださいませ。
だんっ、と踏み込んで敵を切る。
「チェスト───!」
ぶちぶちと肉の繊維を切る感触。相手は人型。革鎧を着込んだ兵士その一、みたいな奴だ。
この切る感触、まるでまな板の上のササミを切る感触だ。気持ち悪いけれど、それが勝利に繋がる。一種の快感だ。
「レイ、将軍を見つけた!」
「誰!?」
「ラドクリフだ!」
普通ならそのまま突っ込んでいくが躊躇した。エラー報告をした時のことが思い浮かばれたのだ。
だから背後から忍びよる敵に気付かなかった。
ザシュッ、と何かが噴く。生温い液体が服の隙間に入り込んだ。そこに手をあてて見ると赤かった。───血だ。
「───え?」
生々しくドロリととし赤い液体。人肌の温もりがねっとりと指に絡みつく。
そんなはずは無い。確かにこのゲームはかなりリアリティ溢れる。物を切る感触はするし、切られたら痛い。血も出るし、温度も感じられる。
けれどそれさえ限度があるのだ。今まではここまでリアリティは無かった。触れたり感じたりしたものは、偽物だとある程度は感じられるものがあった。
それなのに。
いつも以上にリアリティが増している。錯覚なのかもしれない。もしかしたら、危ない事件の話を知ったからそう感じているだけなのかもしれない。
黙り込んで惚けていると、イトウが獲物を手にしたまま私に近づく。
「戦場でぼーっとしてんなよ。なんなら俺がお前のお悩み覗いてやるぜー?」
「遠慮します」
乙女をなんだと思っているの!
それでもさっきの感覚が幻だったかのように消えた。あの感覚、一体なんなのか。
指の血をお腹辺りでこすりつけるように拭いた。自分の日本刀を構え直す。
「パックンの援護に行きます」
「オーケーオーケー」
駆けだした。
♢♢♢♢♢
ラドクリフが手を差し伸べる。
パックンは日本刀を構える。
それは遠目から見ても異様な光景。
「君なら世界を変えられる」
「俺はレイがいれば世界なんて変える必要がない」
愛されてる。それはとてもとても嬉しい。けれど。
「くっ……」
「ほらほらぁ、よそ見しては駄目ですのん!」
なんだこのオリンというヤツ。チートだろ。絶対チートだ。だって……、
「なんなのその大鎌───!」
絶対負ける。
大鎌VS日本刀とか絶対負ける。そもそもそんな格好でよく動けますよね!? 重いよね花魁衣装!!
オリンは身長より大きいんじゃないかという鎌を喜々として振り回してる。怖い、コワい、こわい!
「オホホホホホ! 世界を変えるラドクリフ様を助けられるのはこの私だけですのよぉ───ん!」
「本当にこれエラーじゃないの───ん!?」
思わず口調が移ってしまったのん。あ、コラ、イトウ。笑ってないで助けろ。働け、働くんだ!
だから本当はパックンの方に気をかける余裕なんてありませーん!
せっかく嬉しい言葉がパックンから聞こえたのにっ! このオリンとかいう奴、邪魔すぎる!
「ひゅー♪ あつあつだねぇ」
「うるさい援護してください!」
イトウ、私の心の言葉が分かるなら助けてよ。必死なのはよく分かるでしょう!
「俺、女の相手はちょっと~」
こいつ……!
絶対怖じ気付いてるに違いない。
「ひっ!?」
目前を鎌が凪ぐ。慌てて身を反らした。注射の効果で反射神経は格段に良くなっている気がする。
近づいて遠ざかる鎌。遠心力に任せて振っているのは明らかである。
私は日本刀を正眼に構えた。基本は大事なのですよ。
「そぉーれ」
もう一度、鎌が凪ぐ。私の間合いに入った瞬間、私は身を低くし地面と水平になる。そのまま突進。鎌をくぐり抜けるような感じでオリンに近づく。
「───チェスト!」
気合いを込めて日本刀を繰り出す。身が低い状態で突進してるので斬る動作はしにくい。だから、
ドスッ
鈍い音。私の日本刀は分厚い生地ごとオリンの右の横腹を貫く。
オリンは顔を歪めて一歩退いた。スルリと日本刀がすり抜ける。血があまり付いていないところからして、浅かったようだ。
もうちょっと左だったら攻撃が上手く入っただろうに。
「私に傷をつけるとは……!」
殺人をする、という感覚はまるでない。相手はAIでこれはゲームだからだ。多分、現実で事件を犯した人達はそこの境界線が曖昧になっていただけなのだ。私は大丈夫。
私も一旦オリンから距離を置く。イトウの隣までやってくると、オリンなんかそっちのけでパックンの方へ視線をやった。
パックンもラドクリフと斬り合っている。
軽い装備のパックンは飛び跳ねるように攻撃をするが、ラドクリフはドシリと待ちかまえて受け流す。力の拮抗は明らかであった。
「パックン頑張って……!」
「乙女だな!」
イトウはスルーする。
しかし、
「くっ……!」
応援の声も虚しく、パックンがラドクリフの攻撃を食らった。日本刀が斧によって跳ね上げられ、パックンの手から飛び出した。
カチャン、と音を立てて転がる日本刀。これではパックンが丸腰だ。
「君は弱い。私に負けるようでは世界を変えられない」
ラドクリフが斧を振りかぶる。
薙いだ。
「あ………っ!」
無惨にもパックンの首が跳ねられる。
血が噴水のように溢れ、パックンの首と胴が分かれる。鞠のように首が弾む。
(あ、あ、あ────!)
私の意識は急速に暗転した。
♢♢♢♢♢
無機質な機械だらけの部屋で男達は言う。
「ラドクリフを貸すとは言ったが、パトリックを殺すことまで許可した覚えはない」
苛立ちが立ちこめる言葉。それを悠然と聞くもう一人。
「制裁を与えるならこれぐらいしなくちゃあな」
悪気も無いような言葉。それを怒気をはらめて聞くもう一人。
「お前、わざわざイトウを作った意味はあるか?」
「フェイクは必要だ」
ニヤリと笑う。
「イトウは全てを見通すキャラだ。心理を読めるエスパーがいれば自然と敵方の心理も読めると勘違いする。そこがフェイクだ」
「そんなの必要か?」
「必要だ。油断させるにはもってこいだし、疑心暗鬼の増長には手っ取り早い」
黙っていた男はため息をついて、機械の一つ、パソコンのような物を操作し始めた。
「仕方ない。レイをログアウトさせて直ぐに設定を巻き戻すか……」
男はめんどくさそうな顔を微塵も隠さない。それに対してもう一人の男はニヤニヤと面白そうに笑う。
「ははは。トラウマは与えた。これが疑心暗鬼となり現実へ影響を与える。文字通り“世界を救おう”とする。───自己世界を、な」
「───それでは困るんだ」
パトリックのデータの巻き戻しを行う男は目を細めて、憂うように溜め息をついた。