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【第1話 とんでもないルーキー!?・その4】

同時刻。〈AMF〉パイロット専用の控え室で、男女四人がその試合を観戦していた。

空気中に貼られたスクリーンに映っているのは、最初の攻防のリプレイだった。


「リプレイなんてどうでもいいんだよ! 早く現状を映せ!」


正面の机にずっしりと腰掛ていた男が、興奮気味にスクリーンに詰め寄る。

長身で痩せ形。耳にかぶさる鮮麗な藍青色の髪に、黄色の双眸。全体からは、少し軽そうな印象を受ける。


「ギフトはん。そないに興奮せんと、ちょいと落ちつきー。モニターが見えへんわ」


その男の横で頬杖を着き、椅子に座る少女が言った。明るくパッとしていて、気持ちのいい表情。切れ長く吊り目。えんじ色の瞳。長い髪を後ろで纏めている。しかし髪留めが変わっている。

白くて頭よりも幅が広い。右側からはゴバッと広がった紙のようなものが幾重にもなり、左側はテープで巻かれ幅が薄い。

そう。それはハリセンである。漫才で頭を叩く道具の。

ギフトと呼ばれた男は息を吐き捨て座り、


「全くよー。俺みたいな天才はなぁー、試合内容なんて一度だけで頭に入るんだよ。そこんとこを考慮しろと言いたいんだ、関西人」


蘭蘭アララギ ランや! えー加減、名前ぐらい覚えとき」


「あー、悪いな。俺はお子様には興味ないから……」


ギフトはそう言ってから、蘭の胸を一瞥し『ふっ』と鼻で笑う。

ギフトの態度にキレた蘭は、両手で机を叩いて立ち上がった。


「なんやてぇ!? ほんまに腹立つわ! ハリセンボンバー食らわしたろかっ!?」


猛り叫ぶ蘭。ギフトは肩をすくめ、


「やれやれ。そういう態度がお子様なんだよ」


「そっちの方かて、胸で判断するなんてガキ臭いわぁ! あー、嫌やわ!」


「このやろ……!」


ギャーギャーと口論し始めた二人。煩いこと、この上なし。


「リプレイ。飛ばせる」


その間に、ボソッと蝌の鳴くような小さな、とても小さな声が割り込んだ。

ギフトと蘭は、互いに引っ張り合っていた相手の頬から手を放した。そして後ろの席でノートパソコンをいじっている少女に詰め寄る。

歳は十歳前後。長い銀白色の髪に、ワインレッドの瞳。病気と疑いそうな白い肌。髪には青いリボンが左右に飾られている。


「ほんまに? 神様、仏様、アイネ・ミリアルデ様や〜」


蘭は瞳に一番星を輝かせる。


「じゃあ、早速やってくれ」


ギフトが声を弾ませる。

柔和そうな少女――アイネは僅かな空気も揺らさないほど静かに頷く。そのすぐあと、打って変わってキーボードを凄まじい速さで打つ出す。

その速さは尋常ではない。肉眼では確認しにくい。まるで手足のように打ち間違いなく――いや、正しく打っているのかすらも、アイネにしか分からない。


「あ、映った」


生命力の薄そうな、やる気のない声。

アイネの隣に座っていた女性がスクリーンを指差した。

歳は二十代前半。青色のショート。紫色の瞳と細面。体型は細くても、出るとこは出ている。

しかし全身から脱力オーラが漂い、どんよりとしている。陰気なわけではなく、生気が欠落している感じだ。

ギフトと蘭は頭を振り向かせ、スクリーンを見る。

映っていたのは〈フラウジル〉が殆どの武器を乱射して突っ込む場面だった。

しかし四人は、すぐにその行動は無謀だという結論を作り上げた。

パワー。火力。機動力。装甲。 どれを比べても、紫の機体が上だと知っていたからだ。


「あの〈フラウジル〉……。いい動きだったが、それは軽率だ。シュナ機に潰されるぜ」


「なんや。ギフトはんも、この〈フラウジル〉に目ぇ付けとったんかいな」


「ああ。シュナ機とタイマンなんて、普通の『リゼ』パイロットのやることじゃねぇ」


ギフトの瞳は〈フラウジル〉の動きを映し続ける。

するとアイネが目線を『何か』に送り、口を開いた。


「『リゼ』は〈エアリゼランス〉の略称。〈エアリゼランス〉は〈フラウジル〉などの機種識別コードネーム。シュナ機の識別コードネームは〈エアトレイト〉。因みに〈エアトレイト〉は『AT』。〈エアリゼランス〉は『AR』と省略されて呼ばれてます。……ご静聴、感謝します」


『何か』に向かってペコリと頭を下げる。呟きに近い声は、僅かな距離があったギフトと蘭には聞こえない。

隣に座っている女性は、ボーッとした面持ちで『何か』に向かって手を振った。


「馬鹿っ! 避けろっ!」


ギフトはスクリーンに向かって叫ぶ。

シュナ機が〈フラウジル〉を頭を狙い、槍を垂直に振り下ろす。

〈フラウジル〉は何とか反応し、少し右に移動。だが槍の刃によって残った左肩と小型ガトリングが切り落とされた。

左肩は地面を跳ね回り、ガトリングが吹き飛んだ後、やがて停止した。


「あかん! 次のは避けれんわ!」


次は蘭。槍を横薙ぎしようと構えるシュナ機を見て叫ぶ。

その時、別の〈フラウジル〉がシュナ機に体当たり。シールドから突っ込み、火花を散らした直後に二機は分離する。

不意を突かれ落下するシュナ機に、もう一方の〈フラウジル〉のマシンガンが光を吐き出す。

レーザーはシュナ機のキャノン砲に命中し、炎上。

切り放したのと同時に爆発。

シュナ機は下方に広がる渓谷の奥へと姿を消した。

そこで突然、蘭が自分の掌に拳を打ち、


「くぅ〜! こないに燃える試合見とると、むずむずしてくるわぁ!」


と、昔の熱血スポ根アニメみたいなメラメラ瞳で、語調を高鳴らす。


「まあ悪くない試合だな。しかし従業員の奴らがここまでやるとはな」


ギフトは素直に感嘆した。二人は机の上にあるコップを手に取り、中身を喉を流し込む。

そこで部屋の扉が真横にスライドし、一人の少女が姿を見せる。


「えー、〈AMF〉パイロット様の中に、ルーキーのエクサ君。エクサ・ミューロウ君はいないかな? スーパー美少女アイドルのイリアちゃんが呼んでるよー!」


富士の山もひとっ飛びなハイテンション娘のイリアである。聞く割には、すでにいることを確信するような物言いだった。

ギフトと蘭は顔を見合わせ、アイネは無表情でパソコンの画面に目を向け、カタカタカタ。隣は生命反応なし。


「残念やけど、おらんで」


代表で蘭が答える。

その直後、蘭の視界にイリアの顔がドアップ。


「えぇーっ! なんで、なんで、なんで!?」


イリアは食い付きそうな勢いで詰め寄る。


「そんなん知らんわ! 来とらんのちゃうか?」


「でも開催日はルーキーを含めて全員集合でしょ? ……判った! さては隠してるッスね〜?」


「……あんさん。動機って知っとるか?」


部屋に沈黙が訪れる。アイネがキーボードを打つ音だけが響く。


「ぶぅー! つまんないなぁ」


沈黙破りの呪文を唱え、口を尖らせるイリア。いないことが分かると、片道特急電車の行き先が他に向く。黙然と同じ作業を続けるアイネの背中に回り込んだ。


「ねー、ねー! アイリンは何してるの?」


「わたし、アイネ……」


「難しそうッスねー! ってゆーか、いつもパソパソばっかだよね? 駄目ッスよ、それじゃ! アイリンには好きな人いないの?」

「わたし、アイネ……」


「あっ! アイリンには、まだ早かったかな?」


「…………」


アイネの表情が微かに沈んだ。

人の話を聞けよ、と思うギフトと蘭。爆弾キャラの登場で存在感が減っていく。イリアは止まらない。喋りながらも手を止めないアイネを、擽りだす始末だ。

それでも相手にされなくなったイリアは、スクリーンの目の前を陣取って覗き込んだ。他の人が見えない。下手すると小学生より質が悪い。

しかし、『あること』にはイリアだけが気が付いた。


「あれ? 実況さんの音声が出てないね。故障かな?」


言われてから、蘭も初めて気付きハッとする。


「確かにそうやな。気が付かんかったわ」


そしてギフトがいち早くアイネに問い掛けた。


「これはどこのカメラなんだ?」


アイネは僅かにパソコンから目線を逸らしてギフトの顔を見る。やおら小さな唇が動きだす。


「〈AMF〉運営専用カメラ」


〈AMF〉ほど発達した競技でも、従来とあまり変わらない。

戦闘は基本的に二種類のカメラに収められる。一つは民間ように放映されるカメラ。もう一つは戦闘データや記録を撮るもの。

前者は実況やリプレイなどのメディア要素を多く含み、後者は運営側が用途に応じて使用する。

従って〈AMF〉運営専用カメラからは、運営者や従業員でしか覗けないのだ。だが、少し前を振り返ってみよう――


『ハッキング(かよ/かいな)ッ!』


ギフトと蘭が、事の重大さに思わず声を張り上げる。アイネ・ミリアルデ。人畜無害そうな顔をして、犯罪に近いことを平気でやる恐い少女だ。

イリアは頭のてっぺんに『?』を大量に放出した。

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