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【第8話 飛魚!・その2】

 銃撃。爆音。建物や大地の破砕音。

 それらが一体となる空間を、主に戦場と云う。プロのランカーが体感するのは、それと何ら変わらないものである。

 極限までにリアル。肌を突くような、嫌な空気すら充満する。オペレート・ボックスに、だ。

 エクサは〈デザートカロル〉を起動させ戦っていた。ギフト戦の時と同じ、高層ビルなどが立ち並ぶフィールドで。

 地面に背部が衝きそうな程の低空で移動し、斜め上空に両手のハンドガンを撃つ。

 弾が行き着く先は、相手のAT。

 青と白の装甲。

 人型なのは勿論のこと、しかし、とにかく体格が良い。横幅は〈アルケイン〉の二倍弱にもなろうか。各パーツが〈フラウジル〉並に逞しい。だが、鈍重な感はどこにもない。

 様相自体は、アニメに登場するロボット系の部類だ。

 武装は実弾派。右手に巨大なガトリングガンを持ち、左手には先端が獣の歯ように鋭い楯。腰部には巻物のような物体。大腿部と肩部に中型のミサイル・ポッド。両背部には、複数の砲門のある長方形の箱が二つ装備されている。

 あの機体は〈カレント〉。出撃時にショウが教えてくれた名称だ。

 正確には〈真・カレントRS〉らしいが、それを知る者は少ない。

 弾丸は〈カレント〉の楯に遮られた。お返しの銃撃が来る。それも何倍もの威力と弾数で。

 最初は真横に置いてある車を粉々に吹き飛ばし、次は足元に来る。

 相手は命中精度を度外視し、機銃の連射力に頼っているため、照準が定めにくいのだろう。

 しかし、それも一瞬。

 エクサは機体のブーストを使い、その場から急速離脱した。

 直後。

 また〈デザートカロル〉の足元に着弾。通常速度で移動していたら、直撃コースだった。

 これが普通。基本だ。予想移動距離を脳内で算出し、秒単位で先読みした相手を撃ち抜く。高速度での戦闘を想定するならば、自然と身に付くことだ。

 攻撃は止まない。

 〈デザートカロル〉はブレーキでのフェイントや、矩形の移動で回避する。無論、ハンドガンで撃ち返しながら。

 蘭も最小限の動作で回避を成し、射撃を続行してくる。

 試しに榴弾砲を放つ。これは、やはりハンドガンと同じ結果。

 ……威力で決めているじゃないか、やっぱり……。 蘭は被害の大小に関わらず、弾道を見切り対処している。当たり前と言えばそれまでだが。

 しかし、

 ……付け込む隙を探さないと。

 有り体に言って、機体同士の相性が良くない。相手のが武器の適性射程が長く、火力にも秀でている。

 エクサにしてみれば、何とか接近戦に持ち込みたい所である。

 それが出来ないのには、理由がある。

 まず戦闘が開始してから一分程で出会ってしまったこと。

 次に出合い頭の地形。

 間を取って並ぶ高層ビルが全方位にあり、足元にある道路を俯瞰する形となっている。ビル群の中は空けた空間なのだ。このような比較的めずらしい構図は、火力を生かせる絶交の場である。

 様子見の無い移動方法を取っているエクサの、経験不足が仇となった。

 エクサは〈デザートカロル〉の機動性を用い、尚も回避運動。

 その下。必然と斜線上になる道路は穿たれ、細かい破片が宙を舞う。

 不意にバックモニターに陰から察知する。見ると、ビルの壁が迫っていた。

 仕方がなく脚部での跳躍から、ブーストと併用の急上昇を選ぶ。

 移動はワンパターンではない。先程と同様。しかしブレーキのフェイントは効果的でないので、除外する。

 追跡してくる弾丸を、果たして振り切った。

 おそらく弾切れ。連射力に特化した武器ならでは弱点である。

 反撃に移る契機が訪れた。エクサも目の色を変え、フットペダルに力を込める。

 加速して突撃。

 その筈だった。次の瞬間までは。

 〈カレント〉の脚部と腕部に動きがあった。

 ミサイル・ポッドの砲門が開き、そこから、


「ミサイルの壁ですか!?」


 前方から、整然と列を揃えた小型のミサイルが飛来してきた。

 エクサは、すぐさまハンドガンで迎撃を試みる。

 構えた。

 そこでミサイルが予期せぬ行動を起こした。

 なんと一斉に列を崩し、拡散し始めたのだ。軌道は空に絵を描くようである。 奔放のミサイルたちは戻ってくる気配を見せず、


「当たらない……?」


 否。そんな都合のいいことは無い。

 独り身になっても、ミサイルは目標を定めていた。はっきりと、こちらを襲おうとする意志表示まで感じる。

 エクサは集中した。的は前方の広範囲。

 連続射撃。

 数発は撃ち落とすも、いかんせん数が多過ぎる。

 瞬時の判断で〈デザートカロル〉を後退させる。ビルに背中を衝け、楯を前に出し、機体を丸める。

 直後、小規模の爆発が〈デザートカロル〉を飲み込んだ。メインモニターが黄色の発光だけに埋め尽くされる。

 爆発や黒煙だけになろうと、エクサは眼前を見据えた。

 そして爆発の切れ目を見るや否や、上空に飛び上がる。

 これは敵機の接近を警戒してのこと。だが今回に限っては不必要だったようだ。

 〈カレント〉は距離を縮めず、その場に留まっていた。しかも悠々とガトリングの弾倉を交換している。 対する〈デザートカロル〉のサブモニターも静かなものだった。いつもは腕や脚を失うとビービーなるクセに。

 ……損傷は軽微かな?

 メインモニターで覗くと、あまり楽観視はできない。焦げた装甲が、若干、頼りなさげだ。

 そう何発も食らえない、と思う。躱しにくいのも厄介だ。

 敵機にも、そういう意図があるのだろう。間を置かず、予測よりも確かな実証が来た。

 〈カレント〉からの第二陣のミサイル群だ。

 エクサは即座に行動した。垂直に下り、地面の近くまで高度を落とした。こうすることにより、下方から攻撃される可能性が低くなるからだ。

 次に左腕の楯から隠しているグレネードを丁寧に取り外し、右手に保持する。 そのまま前方に加速し、降ってくるミサイル群に向かった。

 ミサイルは下りながら拡散。

 〈デザートカロル〉は、散った中心から飛び込んだガトリングの弾丸を躱す。 それから不規則な軌道のミサイルを見た。

 引き付け、急停止。

 微速後退と右手を振り上げるのは同時。


「こんな攻撃!」


 叫び、道路にグレネードを投げ付けた。

 轟音からコンクリートの噴射音。〈デザートカロル〉の足元が爆発し、噴水の如き反発力を見せた。

 接近したミサイルは土砂などに打たれ、エネルギーを発散していく。

 真上や背中から狡猾に迫ったミサイルも楯で防ぐ。 左の楯が酷使に軋むも無視。

 鎮圧しない土砂と黒煙を突っ切り、〈カレント〉との距離を縮めに入る。

 ……探し物を、見つけたさ。



 その光景を、蘭は呆然と眺めていた。数瞬してから我に返り、メインモニターを見る。

 彼我の距離が、この試合で最短となっていた。

 驚きながら、


「まだガトリングだけでも主導権は握れる距離やで!」


 しかし蘭は冷静だ。

 弾切れとなり、用を果たしたミサイル・ポッドを切り離し、身軽にする。

 〈デザートカロル〉の速度と、それで生じる回避運動の範囲を、大まかに決め付けた。

 指を掛けたトリガーを、押し込む。

 その直前――

 不意にポケットに入れていた〈アルメ〉が、音楽を流した。曲名は『熱血、ボクらのサブカルチャー』だ。


「なんや!? こないな時に、うっさいわ! はよ、黙らんか……、ああーーーっ!」


 蘭はようやく重大な事に気が付いた。

 そう。CMDの重ね塗りをする時間が来てしまったことに。

 ……あかん、あかん、あかん、あかん、あかん!

 両手で頭を押さえ、懊悩する。もはや、冷静さは何処かへ旅行中だ。

 CMDに命を懸けてきた蘭には、この失態はあまりに堪えた。

 なぜか走馬灯が浮かぶ。 作業の邪魔をした教官をハリセンで殴って大目玉を喰らったことや、視察にやって来たお偉いさんを箱で生き埋めにしてしまったこと。

 懐かしい。あの頃は貧乏で、ろくな工具は無かったが、それでも、

 ……四六時中、様子を看とったなぁ。

 訓練中も、食事中も、就寝中も。一つ屋根の下、将来の夢も語った。いつかプロのランカーになり、仲間たちを作って、誇らしげに飾ってやると。

 夕日に向かって叫びもした。貧乏でも愛が勝つ! と。

 今は約束通り飾ってある。しかし、その者たちに、どう顔向けできようか。罪を犯した蘭には、それが解らない。

 ……勘忍したってぇ。

 その言葉しか、思い浮かばなかった。

 そこで鬱な思考を吹き飛ばす一撃。肩部のパーツが壊れ、中身が露となった。 ……こりゃ、そないな場合やないで。

 蘭はプロらしく、戦闘以外の思考を停止させた。顔を上げ、スティック状の操縦桿を握る。

 そして今こそ、トリガーを押し込む。

 幾つもの砲口が絶え間無く声を上げた。

 声に押し出され凶器と化した弾丸は、斜め下へ。〈デザートカロル〉に向かって行くも、


『当たるかよ!』


 普段とは違うエクサの鋭利な声。内容は実行されていた。

 速度を維持しながら角度だけを変え、こちらと水平の位置関係となり、

 ……ハンドガンが有利な距離や。

 乱射が来た。それも投射位置を変化させながら。

 蘭は楯を構えて対応するも、全ては防ぎ切れない。 穿たれた装甲が悲鳴を上げるも、防御に徹する。

 解っていた。

 〈カレント〉は、この程度では沈まないことくらい。蘭はATに対しても相当な知識があるため、自機の強度や耐性を熟知している。

 だからこそ、自信を持って思う。沈みはしないと。 弾丸の嵐が止む。

 防御を解くと、〈デザートカロル〉が弾倉を交換し終えていた。

 速い、と思う。

 だが、


「速さと丁寧さなら、ウチの色付けのが上や!」


『な、なんの話ですか!?』


「知らんわ、ボケェ!」


 自分勝手に会話を切り捨て。

 適当にガトリングを撃ち後退する。淀みも迷いもない。

 重要なのは距離。これは接近を許した時に、何度も行った操作だ。流麗にもなろう。

 ならば、やはり〈デザートカロル〉は速い。

 弾丸を楯で防いで前方へと出て、ハンドガンの距離を保ち続けている。

 更にブーストの推力により、空中でサイドステップを踏み、広範囲からの射撃を実現させていた。

 これが、位置変化の正体。

 機体の制御に気を遣いながらも、攻撃を繋ぎ続ける。高等な技だ。

 今までは見せなかったことから推測すると、この戦闘中に、何かのヒントを得て体得に至ったのか。

 蘭は堪らずに後退。

 〈デザートカロル〉は離れない。しかも技を止めずに。

 蘭は左右への機動を余儀なくされた。このままでは、いくら〈カレント〉の装甲といえど、損傷は免れなくなる。

 撃ち返しては、徐々に後退していく行為に、違和感があった。

 ……狙って押し出しとるんか?

 〈デザートカロル〉の攻撃には、先程から決め手が無い。ECブレードを使用した白兵戦をする気配すら見せない。

 不自然だ。

 蘭はバックモニターからの眩しさにハッとし、相手の思惑に辿り着いた。

 同時。〈デザートカロル〉の榴弾砲が砲声を響もした。

 また後退した〈カレント〉は、遂に得意の領域を失ってしまった。

 陽光が眩しい。高層ビルは影となっていたため余計にだ。

 蘭は背後を見る。

 真後ろには大きなビルがあるが、

 ……この先は複雑な構造をしとった筈や。

 遮蔽物が多い場所は、機動性で劣る〈カレント〉が不利なのは必至。

 だから、蘭は賭に出た。 銃口を向ける〈デザートカロル〉に背を向け、ブーストをフルパワーで点火する。

 プロが敵に背面を晒すなど、有り得ない行為だ。しかし、こうすることで〈カレント〉は不利な状況を脱した。

 青い光りを背負った〈カレント〉は一瞬にして〈デザートカロル〉から距離を取った。

 このビルの先には小さな公園がある筈なのだ。そこで待ち伏せし、ビルから姿を現した所を仕留める。それが蘭の作戦である。 意表を突いたこともあり、〈デザートカロル〉は完全に追撃のタイミングを逸した。

 〈カレント〉は鬱蒼とした地面に両足を衝け、ガトリングを構える。

 狙う先はビルの左右。

 どちらから飛び出してこようと、撃墜する。

 空気が静の質を得た。

 ……まだ来んわな。

 おそらくハンドガンの弾倉を替え、思考を巡らせているのだ。反対の立場なら、そうする。

 蘭は楯から最後の弾倉を出し、交換する。指を解してから、スティックを握り絞めた。

 沈黙。それが数十秒。

 精神を研ぎ澄ます。

 こうしていると、ビルの背後で待機する〈デザートカロル〉の息遣いが聞こえてくるようだ。

 同調する息遣いをしてみる。

 深呼吸で。一度。二度。三度。

 もう一つの息遣いが動いた。

 こちらから見てビルの右側。丁度、高さとして中間くらい。

 蘭は迷わず、飛び出した影にガトリングを撃つ。ここ一番で集中しての射撃は、速く、精確だった。

 素早く動いた影を一発で射止め、後に続く弾丸は目標を破壊していく。

 蘭は勝利に顔を綻ばせた。だが、次の瞬間には凍り付くことになる。

 理由。それは蘭の口から発された。


「ブ……、ブーメランやて!?」


 反対側から、本命が飛び出した。

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