【第7話 勝者と敗者の同調・その7】
二つだけ謝罪させてください。 一つは更新の遅れ。もう一つは一部(歌詞)だけ見にくくなっていますので先に謝罪します。 申し訳ありませんm(__)m あと私は「小説家になろう」の意向に従い、携帯版からも段落下げを行ないます。 修正は暇を見てやりますが、その場合には文章自体を修正すると思います。 いやー、読み返すと色々とひどいので(笑)
奥へと進んだエクサが遭遇したのは、対戦型ゲームの筐体を囲む人集りだった。
同時に二つの感覚を得る。
一つは熱気。人々が何かを観覧することだけに集中している。
もう一つは音。歓声とも野次とも取れる言葉が飛び交っている。
その中央。
「ふはははは! どうかね、蘭くん? この私の必殺奥義『絶対に暴いてはいけないマジシャンの十の秘密』の威力は!」
「う……あかん。気にしたら負けやで。……でも気になるわー!」
アインスと蘭の声だ。
モニターでは二つの人型機械兵器が、高速機動から衝突した。
白い機体が不規則に左右への移動を繰り返し、相手に攻撃を叩き込む。
「ウチも行くでぇー! 究極奥義『野菜は生が一番、マヨラー撲滅!』で勝負やー!」
蘭の台詞と共に、赤い機体は背部から連続光弾を打ち出した。
もはやこの戦場では、台詞と映像が噛み合ってないとの指摘すら滑稽らしい。 場違いな男エクサは、そこを素通りする。
そこから更に進むと、比較的、細い通路があった。左右がゲームの機器に挟まれた、特有のものだ。
右から向って三番目の通路。
そこにイリアが居た。彼女は頭を忙しなく動かしている。どうやらゲームの品定めを行っているようだ。 その周りでは他の客が、やっぱ可愛いなー、などと言いながら、ダメ元でナンパしようかとの打ち合せもしている。
エクサはそれを気にも止めずにイリアの隣にまで行き、カードを差し出す。
「イリアの分のカードだよ」
イリアの表情が瞬時に嬉々とした色を濃くし、
「わぁー! ありがとー! エクサ君からの初めてのプレゼントだね。記念に部屋に飾っておくッスよ」
「さっきカードを持ち帰るとゴザ犬生産工場で強制労働を強いられるって注意書きを見たけど……。それにギフトさんから渡すように頼まれたんだ」
エクサがその伝えると、イリアは笑みを解き、少し曇らせた顔となる。
「ギフトが……? それって何か裏が有りそうな感じだよ……」
指摘され、状況を思い出す。確かに従業員と、怪しいとも言えなくはない密談をしていたが。
……まあ、ギフトさんに限って、そんなことあるわけないか。
ギフトの人間性を盲信するエクサ。
「心配ないよ。ギフトさんっていい人だし」
「うーん、そーかなぁ……」
首を傾げ、なにやら慎重に黙考するイリア。彼女の中で、ギフトの評価は余り良いものではないのだろう。
そんな懸念の矢先。
室内スピーカーから動作が生まれた。それは音楽の切り替わり。
新たに流れてきた曲に、イリアが身を強ばらせたのを確認した。
エクサも聞き覚えがあり、しかも歌い手は、すぐ傍にいる。
出始めは、軽快なリズムで、明と暗のどちらともにも聞こえる音程だ。
これはイリアのデビュー曲『Resplendent you』だった。
思えば 物語の始まりから
狂いなく記憶を紡いで 来たんだね
最初の言葉 繋がれた 運命の発端
覚えているかな?
惜しげなく 封の解かれた 笑顔と眼に
自分の姿 どこからも 残しておきたいから
激しい 君と云う名の流れ 止まる杭をも
断ち切って 気付けば いつも 遠い向こう
いつの間にか 君は逞しく 背中抱くことも 叶わずに
離れ行く 時間の翼
無情に溢れた 希望の欠片に しがみ付いて
ただ単に
あの日から残してきた 分身を そっと覗き込んだ
広がる世界の片隅で 照らされた闇が 私なら
何も臆さずに 光の明日を共に踏み締める足となる
輝く貴方の横顔 見つめ行きたいよ 彼方へ
その瞳で映える 先の夢 この手でも掴みたいから
美しく響いた歌声。
エクサは瞳を閉じ、雑音の中でも浸透する音色に聴き入っていた。
曲が二番までの間奏に入ったところで、目蓋を持ち上げる。
それから率直な感想を口に出そうとした。
そのとき。
「うわぁーーー! 聞いちゃダメっすよー!」
イリアのチョップが炸裂した。両手を平行にし、首の付け根付近へと振り下ろすシャープな一撃。
エクサは、ぐはぁ、と膝を崩して地面に突っ伏した。
そんなエクサを放っておき、イリアは叫びながら走っていく。
数秒すると音楽が不自然に変化した。歌詞が途切れ、次の曲となったのだ。
帰ってきたイリアは肩で息をしている。深呼吸をしてから、
「あれ? エクサ君、何してるの?」
ダメージから立ち直れないこちらを見下ろして言った。焦りからなのか、どうやら自分の凶行を覚えていないらしい。
それどころか、エクサもこう思考していた。
……そうだ。イリアみたいな華奢な女の子が、あんな的確に急所を突いたチョップができるはずない。今のは幻覚、幻聴、幻痛に違いない。
エクサは立ち上がり、努めて笑顔で、
「なんでもないから気にしないで……」
「うん……。解った」
「それよりさ、折角だから二人で見て回ろうよ」
嫌ならいいけど、と付け加えてから、横の液晶画面に一瞥する。
ゲームの内容は、武士道精神を題材にした格闘対戦型。ヒットポイントゲージが赤になると、超必殺技の拳銃乱れ撃ちが使用できるらしい。
どこか方向性を間違っているのは、気の所為か。
視線を戻すと、イリアが輝きに満ちた瞳を向けていた。
「いいの!? もう、全然イヤなんかじゃないッスよ? 実はあたしもエクサ君と遊べたらなぁーなんて思ったり……きゃあー、言っちゃった言っちゃった!」
凄いはしゃぎようだ。
周囲から視線が集まるのも気にせず、小踊りまでしている。
ここまで喜ぶのは大袈裟だと思うが、さりとて悪い気はしない。
だからエクサは微笑を返す。
「まずは、どこから回ろうか?」
「はいはーい。あたしが考えたルートにしよ?」
勢い良く挙手したイリア。それから手前の光景を見て首を傾げる。
「どうしたの、エクサ君? 両手で首を隠したりして?」
「え? あれ? な、なんでだろ。……反射的に動いたのかな?」
「それ解る。あたしも反射的にって、よくあるからぁ」
「そ、そうだよね……」
あはははは、と二人で一笑。
不穏と和やかが融合した空間で、笑い声は朗々と響いた。
「ほら、エクサ君! そっちから敵が来てるよ?」
イリアが左手で画面を指差して言った。右手に模擬銃が握りながら。
「え? うわっ……あーあ、やられちゃったよ」
現在、エクサたちが遊んでいるのは、スタンダートなガン・シューティングのゲームだ。前方の大型スクリーンに現れる生物を、ビーム銃でとにかく撃ちまくるといった、ストーリー性に乏しいものだ。
「えいっ! 何でみんな同じ顔なんだー」
孤軍奮闘するイリアが相手にしているのは、グラサンにスーツ姿の中年男。高速で身体を動かし弾を避けるので、意外に手強い。
特殊能力である『救世主モード』も使い果たした状態では非常に辛い。
粘っていたイリアだったが、やがて、
「あー、あたしもやられたー! 悔しいッスー」
模擬銃を掛けてあった場所に戻し、渋々といった様子で離れる。
エクサは気分の晴れないイリアを宥めつつ、次のコーナーへと歩を進める。
そこはイリアルートの名称で言えば、店の顔だ。最新、あるいは人気の――それも比較的、大きい機種を置き、客の目を引く。
場所はもちろん入り口付近。
「やっぱり現代的なゲームは性に合わないなぁ……」
「でもさっきのダンスするゲームは上手かったよね? 怠惰ダンス革命だっけ? 題名とは逆に動きが激しくて難しかったけど……」
「もぅ〜、エクサ君ったらぁ。『都会に舞う、名も無き花』なんて褒め過ぎッスよ?」
「そんなこと言ったっけ!?」
「自分の言葉には責任を持たないとダメだよ?」
えー! と抗議の声を上げたが無視された。
入り口に近付くてくると、店の中央にある〈AMF〉のゲームが見えてきた。 イリアを探して通り過ぎたのとは、逆側の位置からだ。
空中のスクリーンでは、蘭とアインスの機体が背中を合わせていた。周りには画面を覆うほどのATが駐在している。
人集りは今だに健在で、あの二人の声も筐体の内部から漏れていた。
「蘭くん……。ここは私に任せて逃げたまえ!」
切迫した口調でアインス。
「なにアホ抜かしとるんや! そないなこと、できる訳あるかいな。……死ぬ時は一緒やで」
悲壮な声調で蘭。
「くっ……! すまない」
なぜか共闘する状況になっていた。
観衆からは『美しき友情だ』などと二人を讃える声もする。
場違いな二人は、そそくさと通り過ぎた。
そこから少し進むと、大規模な機器に囲まれたスペースがある。
多くは体感ゲームの類で、店内スピーカーよりも大きな音を出している。
その一角。
エクサはシートに座る二人組の男を見た。ギフトとブラスだ。
二人がやろうとしているのは、超高速のトロッコ・アドベンチャー・ゲーム、『走ってゴーゴー! 飛んでバラバラ! 武勇譚』である。何とも後先のない個性的な題名だ。
だが不思議なのは、ギフト達がそのゲームを始める気配がないということ。
気になるので、背後まで近付き声を掛けた。ノリ気でないイリアを余所に。
「どうしたんですか?」
シートに腕を掛け、振り向いたギフトが、
「ああ、エクサか。なんか故障してっからよ。今、店員を呼んでるとこだ」
「そうなんですか。あの……、それは?」
エクサが疑問を向けた先は、二人が頭上から提げたマイクだ。
それに答えたを返したのはブラスで、
「これは音声を送るための機材だよ。トロッコをジャンプさせる時に必要なんだ」
「へぇー、面白そうですね」
「だから待っているんだけど……」
ギフトとブラスは、目を合わせると苦笑した。
……待たされてる訳ですね。
内心でそう解釈する。
状況はどうあれ、エクサはこのゲームに魅かれるものを感じていた。
そして次にやってみたいと、イリアに提案しようとした。
そんな折――
「遅れて、申し訳ありません!」
一人の少年が急ぎ足で現れた。
手には工具を持ち、内部に続く鍵を開けると修理を始めた。
しかし少年は、すぐに何かに気付いたように、こちらに顔を向ける。
「げ……」
店員から出てはいけない一言だが、エクサ達にはその言動が理解できた。
店員の少年は四人がよく知る人物だった。
一瞬の沈黙を経てから、エクサは少年の名を口にした。
「紫羽さん……」
赤青紫羽は己の境遇を良く理解した上で、まともな第一声を発した。
「君たち……、ストーカー行為は犯罪だよ?」
「いきなり三段跳びしたような結論を出してんじゃねえよ」
即行で疑惑を否認するギフト。
紫羽は溜息を吐く。
……なんで、こうも遭遇するんだ? 狭いぞ、シファリュード。
などと思いながら、中断していた修理に取り掛かる。
すると両手を後頭部に組んだギフトが、
「そういや、〈ラファル〉のお姿がお見えになっていやがらねえな?」
「激しく間違った尊敬語は無視するとして……。〈ラファル〉は喫茶店の前で見張りをしてるよ……っと」
軽口を交えながら正面を見る。画面と音が復活したのを確認すると、鍵を閉めた。
即日のアルバイトだが紫羽はATに詳しいので、このくらいの機械の修理など朝飯前なのだ。
修理を終えた紫羽は、歯を覗かせる笑みを作り、
「また何かあったら呼んでくれ! すぐに駆け付けるからな、兄弟たちよ」
急にテンションを上げ、親指を立てた手を顔の前に持っていく。
その場から立ち去ろうとする紫羽。そんな背中をイリアの一言が貫いた。
「すっごいアルバイトのこと誤魔化そうとしてるッスね」
「勘弁して欲しいッス……」
ガクッと肩を落とす。
以前と同じ遣り取りを見てか、微苦笑しているエクサに紫羽は問う。
「四人で来たのか? しかも、その他の二人は意外な面子だな」
『ィヤッフゥー!』
いえ、とのエクサの声を遮る、重なった叫びが轟いた。睥睨すれば、ギフトとブラスが片手を虚空に突き上げている。
ゲームが始まったのだ。 画面では音声に合わせてトロッコがジャンプしている。
気を取り直し、エクサが続ける。
「シュナや蘭さん、アインスさんも来てます」
「そうか、そりゃ――」
『ィヤッフゥー!』
再び会話を遮る叫び。これが、また煩いこと。店内やゲーム機器からの音を遥かに凌ぎ、つい耳を塞ぎたくもなるくらいだ。
紫羽は一息の間を空けてから、
「そりゃ――」
『ィヤッフゥー!』
エクサもギフトたちを見て苦笑の色を濃くしていた。
今度は間を置かずに言葉を接ぐ。
「――また大人数だな。こんだけ集まってるのも珍しいぜ」
『ィヤッフゥー!』
「ええ、それが――」
『ィヤッフゥー!』
「――色々とありまして……」
『ィヤッフゥー!』
「そっか……、でも――」
『ィヤッフゥー! ィヤッフゥー! ィヤッフゥー! ィヤッフゥー! ィヤッフゥー!』
「うるせぇーっ!」
ついに紫羽がキレた。
大音声で突撃していったので、二人は僅かに身を竦めた。
ギフトはゲームの操作をしたながら、肩越しに振り向く。
「仕方ねえだろ。これィヤッフゥー! ……は、そういうィヤッフゥー! ……なんだから」
「そういうィヤッフゥーってなんだよ……? まあ、解るけど……」
「それだけじゃィヤッフゥー! このィヤッフゥー! ……はレベルの高いィヤッフゥー! ……で、かなりィヤッフゥー! なんだィヤッフゥー?」
「都合良く略すな!」
ギフト達が挑戦しているのは『老婆の耳レベル』だ。これは最高ランクの一歩手前である。
然るに、かなりの音量でないと聞き取ってはくれない。
因みに最高は『馬耳東風レベル』だ。
紫羽とて、道路工事に近い叫び声を上げないとクリアできないのは解っている。
しかし、
……うるせぇものは、うるせぇんだよ。つーか、こんなゲームを世に排出するな、業者。
矛先を変えていると、またも叫び声が上がった。
だが、今度はギフト達だけてはない。店内の中央――あの〈AMF〉関係のゲームがある場所からだ。
「なんやて!? ウチらがズルしとるって言うんか?」
それは蘭の声だと、紫羽にはすぐに解った。
「ふはは……、負け犬の遠吠えとは良く言ったものだな」
続けてアインス。
不穏な空気が流れ始めた砌、イリアが踵を返した。
「あたし……ちょっと様子を見てくる」
駆けていき、人集りを裂いて内側に入っていった。 紫羽は、イリアに付いて行こうとしたエクサを引き止め、口を開いた。
「少しだけ、外で話さないか?」
建物から出ると、騒音に解放されたことでの清々しさを一瞬だけ感じる。
基本的に娯楽街は騒がしいが、内部の騒音に慣れた耳なら、それは比ではない。
エクサは壁に寄り掛かり、全身を撫でる風を受け止めた。
「いいんですか? 店の方は……」
「少しくらい平気だよ。どうせ、今日だけの臨時なんだから」
言い切ると、紫羽は目を伏せた。どこか逡巡しているようにも思える表情。
……やっぱり戦闘の話かな? だとしたら、こちらから話すべきだろうか?
彼はギフトと同じ事を言おうとしている。そう考えてから、エクサはすぐに自分で否定した。
それは早計だ。十人十色であるからして、彼の主張は違うかもしれないのだ。 ……でも、タイミングからして戦闘の話であることは、間違いない。
思案を視線としての形に寄せ集め、紫羽を見る。
紫羽は空を仰ぎ、流れる雲の行方を見送っている。 その瞳は、とても穏やかだ。まるで雲ではなく、その先を見通すようである。 雲が高層ビルの影に隠れると、紫羽は話を切り出した。
「いい勝負だったぜ。久々に燃えたよ」
それには性急となって流れた、喜とした感情が含まれていた。
紫羽はこちらを注視している。透いた紫の双眸で、はっきりと、目の前を映している。
エクサは答えるのも忘れ、相手の言葉を噛み締めていた。
そうすることで、嬉しさが全身に伝わった。ただ、その感情だけに支配される感覚に浸かってから、
……俺もですよ。
相手が自分を認めてくれたのが嬉しかった。それ以上に、自分と想いが同一のものであったことが嬉しかった。
他人とぶつかり合うことで感情を共有する。
それは素晴らしい事だ。 それは快い事だ。
それは憧れてた事だ。
「俺は……」
半ば妄想でさえあり、理想像であり、夢の一部でもある。
「今日みたいな闘いを……ずっと続けていきたいです。大変だけど、とても楽しいから……」
だから本当に、心から嬉しいと感じることも特別だ。
届けた想いを、紫羽は沈黙で受けた。呼吸は胸と肩を膨らませている。
空気を吐き出す動作の後に生まれるのは、やはり言葉。
「エクサは……自分の名誉のために闘ってるんだよな?」
「名誉とは少し違いますが……、父さんみたいな強いランカーになりたいんです」
そっか、と一息。
「そういう奴は強いな」
紫羽の、自分とは分別するような言い方に、エクサは強い疑問を抱いた。
こういった場合、普段は思考を重ねるものだ。しかし、今のエクサは訊くことに躊躇しなかった。
「紫羽さんは違うんですか?」
「ああ……。違うな」
紫羽は断言する。
そして、こうも言う。まるで己の存在に釘を打って固定するように、はっきりと。
「俺は金を稼がないといけない。それが一番大きな理由だ……。だからお前と比較するのは失礼だな」
「そ、そんなことは……」
言葉に詰まるエクサ。
有体に言って、確かに比較されたくなかったからだ。ATを使って金を稼ぐのは、合法なら決して悪いことではない。
頭では解っている。だが、どうしても嫌悪する自分が抑えられない。
それはエクサが純粋に〈AMF〉が、ATが大好きだからである。
しかし、それすらも見越してか、紫羽が続けて、
「何故かとは、問うなよ? こっからはプライバシー・シールド! 対AT仕様、ビーム食らっても壊れな〜い!」
「す、凄いシールドですね!?」
いきなり戯けた口調の紫羽に対し、エクサも似た調子で返すことができた。
エクサは頭を掻き、傲慢な感情を振り払おうとする。簡単に払えるものでないと思いつつ。
……割り切れない俺は、子供なのかな?
紫羽がこちらの肩に手を乗せた。気にするな、とでも言うような強い眼差しを添えて。
「それと……、言っとくが〈AMF〉はこんなもんじゃないぞ? もちろん、この俺もな」
掴む肩には力が入っていき、
「セカンド・ステージは勝たせてもらうぜ」
口角を吊り上げ、自信を表す。
エクサは肩を掴む紫羽の手を、両手で丁寧に退かし、凛とした表情をし正面で向き合あった。
「次も俺が勝ちます」
「お? 言ったな、こいつぅ。なら勝負だ……今ここで」
「えー!? ATも無しの肉弾戦ですか!?」
「当ったり前よ! ……先手必勝!」
紫羽はエクサに飛び掛かり、ヘッドロックの体勢に入る。通行人が、こちらに目をやるが、そんなことはお構いなしだ。
もうギブアップ寸前のエクサは、不意に音を聞いた。
それは建物から入り口が開いたことによる、音の漏れであり、
「二人とも、何してるの? 早く戻ろうよ」
飛び出したイリアが、誘導する仕草をする。
踊りだしそうな程、快活な動きを見せてから、二人の腕を掴む。
「今日は、とことん遊びまくるッスよー!」
「もう充分に遊んだ気が……」
「俺はバイトだっ」
抵抗を試みるも、その体格からはありえない握力で引かれる。
エクサが驚愕に思う最中、
「なあ、エクサ。マジで大変なのって〈AMF〉より、ハイテンションな奴らとの日常じゃねえか?」
プロのランカーの中では、普通の人種に近い紫羽が問う。
「ですね……」
更に常人なエクサは、ここ一番の苦笑で簡潔に答えた。
二人は溜息を吐く。どちらも、やや呆れ気味な。
それは二人の歩調を揃える合図で、諦めからくる一日の始まりを告げるものでもあった。