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【第1話 とんでもないルーキー!?・その2】

灰色で統一された壁。蜘蛛の巣のように岐れた通路。どこに行けども立ち塞がる、頑丈な扉。

少年のこめかみから一筋の汗が流れ落ちる。


(迷った……)


その言葉しか脳裏に浮かばなくなっていた。

イリアと一緒に行けば、今頃こんな苦労をしないで済んだはずだ。

後悔の念がずっしりとのしかかる。

それでも少年は、何も考えず通路を走った。

すると道が三方向に岐れた場所に辿り着いた。


「どっちだ……」


息を切らせ、肩を上下に揺らす。

気付けば周りの壁が黒くなっていた。道の手前に長さ一メートル程のポールのようなものと、壁に描かれた『A区画』の文字以外は何もない。


「地図くらいないのかよ! クソッ!」


捌け口のない不満を仕方なく周囲に洩らすと、左に曲がり走った。

視線を落とし、時計を見る。


(あと三分……)



少年が通り過ぎた後、二人の若い女も同じ道に差し掛かった。


「会場はどっち?」


片方が問い掛けると、もう一人が手前のポールに近付いた。

そして半円形の蓋を開け、中のボタンを押す。

ポールの頭上に光の小型スクリーンが映し出され、文字が浮かびだす。


〔↑会場・→パイロット専用施設・←〈AMF〉第三運営管理施設〕


蓋を閉じて振り向き、


「真っすぐだって!」


と答えた。


「これがあれば道に迷う人っていないよね?」


もう一人の女は口元を綻ばせていう。


「この時代になって道に迷うなんて相当な田舎者だけじゃない?」


「あはは、言えてる!」


件の珍事など知らず、二人の女は言いたい放題だ。

会話を弾ませながら会場に向かって行った。



左。〈AMF〉第三運営管理施設――



会場は大歓声に包まれていた。観衆の一人一人が、イベントの始まる前から熱狂し叫ぶ。

その会場の中心。青い光の地面に一人の少女が転送された。

何もなかった場所から出現したのは、玉姿な少女――イリアである。

イリアは一呼吸してから、マイクを持つ手を口に近付た。


「皆さーん! 今日は〈AMF〉の開会式に来てくれてありがとー! 皆さんの期待に答えて、あたしも全力で歌います!」


歓声は更に爆発したかのように大きくなる。スピーカーからの音量も跳ね退ける勢いだ。

熱気が巨大な渦となってイリアの肌を突く。

彼女にはこの感触が心地よく、自分の生命が最も輝く時だと感じていた。


『イリアちゃん、最高っ!』


「えへへ……。ありがとー!」


気恥ずかしげに人差し指で頬を撫でる。


「それではステージに変更するので席から立たないでくださいねー! 約束だよ〜?」


小指を立てて前に出し、二、三度その場で軽く揺らす。

すると会場全体が揺れ始めた。イリアを後ろで見ていた観客が、建物の外壁と共に移動する。

この会場全体が形を変えているのだ。

地面が開き、ステージは後ろに下がる。

響く機械音。全ての観客席が正面に移動すると、中心の大地を覆う程の特大の立体ステージが姿を現した。何本もの新型合金で生成された太い柱が長方形に組み立てられている。

全体は白色。そのステージの中心にはスクリーンが鮮明な映像を映し出す。


「約束を守ってくれて、とっても嬉しい! 今度はあたしが守る番だね! 聴いてください。あたしのデビュー曲! 『Resplendent you』」


ステージの映像が〈AMF〉の戦闘場面に切り替わり、左右の虚空にもその映像が拡大されて映る。

ステージの後ろではイリアも拡大され、青空を染める。

同時に軽快でテンポの早い曲が鳴り響く。その音楽は建物全体に広がっていった。



少年は先が見えない廊下をひたすら走っていた。

明らかに疲労し、顔から滴れ落ちる汗が逆の方向に流れる。しかしそんなことは気にせず、前だけを見つめて駆け抜けた。

そして、やっとのことで〈メインルーム〉まで辿り着いた。

扉を開こうとすると少年の耳朶を、微かな歌声が掠めた。

少年は扉の開閉ボタンから指を離し、黒い壁に耳を押し当てた。

その瞬間、そこの壁だけが透明化する。会場の様子が一望できる特等席へと早変わり。

少年は眼を燦然とさせ、そこから広がる光景に魅入られた。


『輝く、貴方の横顔〜♪ 見つめ行きたいよ彼方へ♪』


あの歌が聞える方向を向くと、一人の少女が小柄な身体をステージ一杯に舞わせていた。

詳しくは確認できなかったが、生き生きとしているのだけが判った。


(凄いな。あの娘……。俺も頑張るぞ)


少年は踵を返すと、新たに加えた情熱を胸に、ボタンを押し扉を開いた。

中に入ると、ゲームセンターに置いてありそうなレースゲームの筐体に類似した物体が幾つも並んでいた。正面には、会場を色々な角度から映した大型モニターがあり、その下で人が忙しそうに作業している。

少年は眼を丸くした。初めて見る機器ばかりで心が踊り、ある種の浮遊感すら覚えた。


「まだ来てないのか? 間に合わないぞ」


「はい。何しろ連絡がつかないようでして……」


筐体に乗った男が外で立っている男と話している。

男は舌打ちすると、筐体に乗り込んでいる他の人に言った。


「仕方がない。今回は四人で行くぞ!」


他の奴らは『どうせ変わらないさ』やれ、『さっさと終わらそうぜ』と軽口。

残った一人は『逃げちゃダメだ』と何回も呟いたりしている。

少年は誰も搭乗していない筐体まで走る。


「遅れてすいません!」


言ったのと、ほぼ同時。

軽い身のこなしで飛び乗り、複雑な構造の機械を起動させる。


「やっと来たか。ったく、減給ものだぞ!」


男は溜息を吐いた後、筐体の影に消えた。

――初日からやっちゃったよ。あとで謝らないと。天井が滑り降り、操縦席が薄暗くなった。それから数秒して電源が点き、正面のモニターが作動する。


〔aerospace mobile machine mediocritry system起動〕


内部で機械の動作音がし、難解な文字がメインモニターに溢れだした。


〔type――aerospace resemblance machine認証〕


〔各部位フル起動。兵器ロック――オール解除〕


機械音がテンションを上げたかのように高音になっていく。


〔全システム――オールグリーン。エアリゼランス型――製造ナンバー15672――『フラウジル』起動〕


天井の全てが透明のモニターと化す。外は薄暗く、何やら『狭い箱』に収容されているようだ。

そこで、またあの男の声が聞こえてきた。


「毎度のヤラレ役だが、別に負けろとは命令されてない。各自が連携し全力で戦えば、勝機も増える」


「一パーセントくらいか?」


誰かが口を挟む。他の面子が哄笑する。


「言うな……。俺たちだって少しはやれるとこを見せてやれってことだ」


「まあ、給料も上がるかもしれないし、少しは真面目にやるか」


この会話。少年には妙だった。

プロのランカーが自分をヤラレ役なんて言うのか?

それに〈AMF〉は一対一が原則では?

――何かが、おかしい。

先程は、遅刻したのは俺だと思い込んでいたが、実は違ったのかもしれない。

少年は困惑しながら、暗澹とした天井を眺めた。



曲が終わると、観客は残念そうに声の音量を下げる。空気中に残った微熱を堪能したイリアは、口を開いた。


「このあとは前大会の総合チャンピオン――『シュナ・アスリード』によるエキシビジョンマッチが行われるよ! では、またシーズン中に会おうね? やくそく、やくそく♪」

小粋なポーズを決めると、イリアの身体は青い輪に包まれ消えた。

そして観客席が元の形に戻り、ステージが地面に引き込まれ平地となる。

数瞬して緑色のシールドが張られる。更に平地だった場所に、突如として荒れた土地が出現。


『皆様。本日は〈AMF〉の開会式に御来場いただき、誠に感謝します。それではエキシビジョンマッチをお楽しみください』


会場にあるスピーカーから、インテリ風な鼻に付く語調の男がイベント開始を宣言した。



「さあて、出番だぞ! いっちょ暴れてやるぜっ!」


よく喋るリーダー格らしき男の機体が勢いよく飛び出した。

各々で何か呟きながら、続いて他の三体も発進する。――少年の心は、底無しの絶望感に包まれていた。

今になってやっと分かったのだ。道を間違えたと。

これは運営の役員専用のコクピットで、自分は乗ってはいけなかったと。

しかしここまで来たら戸惑ってる場合じゃない。

でたとこ勝負。やるしかないさ。

……とはいっても、これはまずいよなー。下手したらライセンス剥奪だぞ。

短かったな。パイロット人生。

去るときは、せめて伝説的な醜態を残さずに去ろう。そして、ラストバトルは必ず勝つ!

――コクピットの両脇にあるスティックを握り締め、足をペダルに固定し機体を動かす。

両手で外にある棒状の把手を握り、足を滑走路のような場所に乗せた。


「出撃準備完了! 五番機はエクサです!」


殆ど自棄クソな口調で、少年――エクサが叫ぶ。


「エクサ・ミューロウ! 行きますっ!」


脚部の底に付いた射出機が火花を散らして機体を押し出す。

スティックから両手を離し、大空へと飛び出した。

多忙、設定、用語、人名などで遅くなりました。どうか長い目で見てやってくださいm(__)m

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