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【第1話 とんでもないルーキー!?】

超高層ビルが射し込む暖かな韶光で輝きながら、美しい整列で眼下の人並みを見送る。

〈新生アース〉で最も発達し、〈AMF〉の開催地となっている首都――シファリュードである。

その郊外。

一人の少年が、自分の背丈ほどの連絡ボードと睨めっこをしていた。

雑な揃え方の金髪。穏やかな目付きに茶色の双眼。顔のパーツは整っているが、どこか田舎臭い風体だ。

界隈は深い森林に囲まれ、空を仰げば多数の雲の旅路を確認できる。

少年は、先程から車の一台も通り過ぎない道路の真中に出てみた。

歩いてきた方向を眺めると地平線が見える。踵を返すと、目的地と思われる都市。のっぽなビルのお陰で何とか見える。

蜃気楼だとしても、おかしくない距離だ。


「遅いなー。もう一時間も過ぎてる」


彼はここを通過するバスを待っていた。しかしバスどころか人の気配すらない。手元の時計で時間を確認すると、焦燥感が襲ってくる。


「まずい。まずいぞ。遅刻したらライセンス剥奪かもしれない」


そう言うと、ボードの前に戻り、睨めっこを再開する。今度は時計とも戦う。

三十分が経過。

少年の苛立ちは頂点に達した。

それは怒りではなく紛れもない焦燥である。

余程、急いでいるようだ。少年が大きなリュックを背負い歩きだす。

すると同時に颯爽と真横を走り抜けた赤いスポーツカーが、数メートル前方で止まった。

無音だったので気付きもしなかった。

車のドアが縦に開き、サングラスを掛けた少女が中から出てくる。

腰まで届く白銀の髪。筋の通った鼻に艶やかな玉唇。美人だということは想像が付く。


「こんなとこを徒歩で移動したら乾涸びるっスよ。 タフガイさん♪」


楽しげな口調で言うと、サングラスを取った。

目元もはっきりとしていて、大きな眼に溌剌とした印象を与える。


「どうしたの? あたしも急いでるから、乗るならお早めに!」


ウィンクを決め、くるっと後ろを振り向く。

よく見れば、銀色の髪に透き通るオレンジ色が混ざっていたり、腰辺りで髪をリボンで縛っていた。

リボンから下の毛は真っ赤に染まっていた。

少年は右側の助手席に乗り込み、荷物を膝の上に置いて座った。


「ではでは……。しゅっぱーつ!」


宣言するやいなや、アクセルを踏み込み、猛スピードで道路を突っ走る。

地味な森林の景色させ目まぐるしくなる。


「あたしはイリアっていう顔も名前もプリティーな女の子ッス。……では、質問ターイム! きみ何歳? どこの出身? 彼女はいるのかな?」


イリアは凄まじい勢いで喋りまくる。まるで教育テレビのお兄さんのようだ。


「え、えーと、十五歳で旧アース出身です。彼女は、……いません」


少年はたじろぎながらも、冷静に全ての質問に答える。


「うわーッ! 田舎だね! じゅ〜ごかぁ! それならあたしとタメだよ。それから敬語なんて使わなくていいよ」


イリアのトークも早いが、車も速い。

嫌でも都市が視界に入る距離まで来ていた。

少年は目を輝かせビルを見上げる。スポーツカーなので視点を高くまで持っていけるが、それでも納まり切っていない。


「よし! 頑張るぞ!」


素晴らしい景色に釣られ、つい声に出していた。

その様子を見ていたイリア。眼を細めて意地悪そうな笑みを浮かべ、


「読めた! さてはナンパ目的ッスね〜?」


「ち、違うって……。別に遊びに来たわけじゃないさ」


「ふ〜ん。それは大儀だぞ、少年」


微塵も信じてない語調で言う。

少年は顔を窓の方に向け、ふて腐れる。

だが、車に乗る前のイリアの言葉を思い出し、顔の位置を戻す。


「そういえば、急いでるって言ってたけど、君は何の目的で来たの?」


それを聞いたイリアは、何故か怪訝な表情で少年を凝視する。


「あれ? あたしの顔さ。テレビで見たことない?」


少年は頭を振る。


「おっかしいなー」


何度も首を傾げるイリアに、


「あ、そうか」


少年は何かに気付き囁いて、そして次を繋ぐ。


「家は立体のテレビだから、最新のチャンネルは入ってないんだ」


驚愕の事実に、イリアは眼を見開いた。


「えぇっ!? 立体のテレビなんて、今だに存在してたんだ! そっちのが驚いたよ」


車が都市の前まで到着し、いよいよ人為的に作られた谷底を走りだした。

森林のようにあまり変わらない景色だが、少年は興味深そうに見つめる。

それから暫くしてイリアは口を開いた。


「お客さん、どちら迄ッスか?」


「〈AMF〉の会場に行きたいんだけど……」


「おぉ! 奇遇だねー。あたしと一緒だ」


どこまでもテンションの高いイリアに、少年は感心させ覚えた。

やがて一気に都心まで行けるワープ装置に車体を止めた。車から降りたイリアは堂に入った手つきで装置を起動させ、車に戻る。

数瞬して車体が白い光に包まれ、外が白色のみとなり、次には違う場所にいた。イリアは目の前に聳える巨大な建物に向かって車を走らせる。


「へえー。凄いなぁ」


少年は左見右見して感嘆の声を上げるばかりだ。


「科学の進歩ってやつだねー。こんな便利な物を造った人は偉い!」


そこで少年は疑問に思っていたことを口にする。


「科学は発達したのに、何で車は変わらないのかな?」


「車だって内面は変わったよ。環境に優しいし、静かだし……」


「空を飛ぶ車とかは便利だと思うけどな」


「確かに便利だし造れるけど……。技能の問題ね。人が自由に乗りこなすことができなかったり……」


そんな話をしている間に目的地に到着した。

少年はドアを開け外に出る。

目の前にはお伽話に登場する巨人の家を彷彿とさせる建物が存在する。


「案内してくれて、ありがとう。俺は先に行くよ! それじゃっ!」


「え? 待ってよ! 中も広――」


イリアは辺りを確認し言葉を区切る。すでに少年の姿はなかった。

名前を聞くの、忘れてた。あの少年と話していた時間は、とても心が和んだ気がした。

多忙な仕事に嫌気がさしていた自分。車でここまで来たのも仕事のためなのに。何故だか、そのことを忘れていた。

相性がいい? それともこれは――

イリアはボーッとして状態から我に返り、建物の中に入った。

二百メートルほど離れた場所は人で溢れ返っており、係員が走り回り大賑わいだった。


「遅かったわね」


入り口付近にいた少女が、凛とした声でイリアに話し掛ける。


「他の仕事で少し遅れちゃって……」


「最近は多忙よね。どっちが本業?」


「どっちも! 『戦うアイドル』ッス!」


快活な口調で答え、イリアは電子掲示板に目を通す。そこには今年から〈AMF〉に参戦するルーキーの名前が記載されていた。


「エクサ・ミューロウ君かぁ〜! どんな人だろうね?」


「興味ないわ。でも、一つ判ってるのは……」



少女は腰まである黒髪を翻す。


「ライバルってことよ」


そして人混みの中を闊歩していった。

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