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【第4話 遊び人はスナイパー・その2】

『やるじゃねえか、ルーキー。正直、少し驚いてるぜ』


男の声が外部スピーカーを通して聞こえてくる。

エクサは不規則な呼吸しながら、震えた指で頭上のボタンを押した。


「えーと、その……こんにちは。ギフトさん」


挨拶と同時に敵機が空中でずっこけた。


『敵に挨拶してどうする!?』


地声から一オクターブ上がった音調でギフトがツッコミを入れた。


「すみません。何を言ったらいいのか分からなかったので……」


『何かあるだろ? なんつーの、こう……戦うと、俺がギフト・シュライクじゃないみたいだ、とか』


「あ! そうですね」


『そうだよ』


「戦ってるのは生身じゃなくてATですからね。機体の名前は何ですか?」


敵機が再び、ずっこける。

『そういう意味じゃねえ! おちょくってるのか!?』


なぜか機体の肩をゼハゼハさせる。

怒声に近くなったギフトにエクサは少し辟易し、首を捻った。

何か気に障ることしたかな?

答えに辿り着くはずのない理由を考えていると、ギフトが幾分か冷静な口調で次の言葉を発した。


『まあいいや。こいつは俺の愛機の〈トゥフェキア〉。射撃を特化した機体だ』


ギフトは〈トゥフェキア〉の右手に持っている、銃身の長い武器を掲げて言った。それも、かなり自慢げである。

〈トゥフェキア〉は全身が藍色を基調とし、所々に黄色いラインが角を作りながら塗られている。

体格は〈デザートカロル〉と同じ程度だが、腕部だけは逞しい。

身体にはあまり起伏はなく、滑らかだ。頭部は鋭角的で、細長い目が赤く光っている。

右手には主武器となるスナイパーライフル。両膝の横と両肩部には、ミサイルを搭載したカーキ色の箱。左の腰部にはハンドガンタイプの銃を提げている。

右背部には白銀で円筒形の物体が装備され、左背部には長方形の弾倉を積んでいる。

意外にも全体を総合して見れば、大衆ウケはしない地味なタイプだ。

エクサが〈トゥフェキア〉の姿に目を奪われていると、突如として銃口が向いた。


『ズドン! お前はすでに死んでいる。なんちゃって。うははははっ!』


ギフトは撃つ真似をして哄笑する。

今この時、間違いなく観客から野次が飛んでいるだろう。早く戦えよ、と。

そこで突然、場の空気が一変した。

和やかだった雰囲気が一気に四散し、変わりに戦闘時に溢れる嫌な感情が傾れ込む。

野性。この言葉が相応しい。プレッシャーが具現化し、渦を巻いて迫るような感覚だ。


『なあ、ルーキー。降参しないか?』


その一言は、今まで最も重々しかった。陰惨なまでに。

エクサが返答に間を置くと、ギフトは言葉を継いだ。

『悪いけど、お前は俺には勝てねえ。経験上、判っちまうんだよ』


右手のライフルを指すように向け、


『お前は俺より、格下だってな……!』


圧迫されそうな、静かで力強い語勢。

エクサは額の汗を拭い、ただ敵機を見つめた。そして震える自分を確認しつつ、軽く微笑んだ。


『もうすぐ五分だ。ギブアップしな』


「残念ですが、お断わりします」


エクサの朗々とするまでに跳ね上がった声が二人の間に響き渡る。


「俺、楽しいんです。嬉しいんです。こんな強い敵と戦えて。もっと戦いたい。勝てなくてもいいから、今は自分の力を試したい。そう思えます」


ギフトと同じように、右手のハンドガンを〈トゥフェキア〉に向け、


「心の底からっ! ……ですから、降参はしません!」


そう。エクサが震えた原因は、一種の武者震いからだったのだ。

エクサの宣言は、凄涼とするまでの沈黙を呼び込んだ。

数瞬して、この沈黙すら不思議で仕方のないエクサが口を開いた。

その時――


『あははははははははは……はははははは!』


ギフトが大声で笑った。

ATまでも腹を抱える仕草をしだす。


『ははは……やっぱ、お前いいよ。真っすぐでさ。面白い奴だよ』


先程とは全く正反対の明るく弾んだ声。


『悪かった、悪かった。試したんだ。俺が本気を出すに相応しいかをさ』


「はぁ……」


エクサはまだ訳が分からず、キョトンとしている。

〈トゥフェキア〉はライフルを空を払い、砲口を真下に向けた。

轟音が鳴り、弾丸が発射される。弾は地面に衝突し、道路を撓す。


『油断するな。こっからはマジでやるからよ』


〈トゥフェキア〉は後ろに下がり距離を取る。今度はライフルを正面に構えた。


『用意はいいか?』


エクサはレバーをしっかりと握り締め、深呼吸する。


「はい! よろしくお願いします!」


『戦士に敬語は必要ない!』


エクサは伝わってきた言葉を謹聴し、小さく首を縦に振った。


「ああ、判ってるさ!」


『そんじゃ……行くぜ!』


沈黙に絡んだ声すらも掻き消す爆音が、戦闘再開の合図をなによりも分かりやすい形で示した。

〈デザートカロル〉は砲撃を擦り抜け、〈トゥフェキア〉に接近した。

しかし〈トゥフェキア〉は後退し、ビルの影に逃げ込む。

エクサは追撃を試み、ビルの影に突入した。だが、それは罠だった。

機雷のような物体が目の前で破裂し、その衝撃で視界が揺れる。

同時に砲弾が迫る。

エクサは機体を後退させ難を逃れると、ハンドガンで反撃。

着弾した場所はビルだった。


『正面から正々堂々と仕掛けるのも戦術かもしれないが、中には俺みたいな奴がいる。……気を付けな!』

もう一発。煙を裂いて弾が風を退かして駆ける。


「そっちか……!」


躱すと同時に、薄い煙の奥で僅かに灯ったのが確認できた青い光を追って、〈デザートカロル〉も煙の中を突っ切り、強引に薄暗い闇を払う。

見えた。藍に混じる黄の線。

再びハンドガンを乱射。やはり命中しない。

――ATの動きが疾い所為なのか? 腕の所為とも考えられる。経験不足か。それとも他に何か……?

だとしても、相手の攻撃も命中してない以上は、全力で攻撃するのみ。

エクサは機体を操りながら、次々に状況分析をした。メインモニターに多数のミサイルが映る。

ブーストをフルパワーで後退。

ビルの隙間に潜り、ミサイルの飛行を範囲を限定させた。そこからハンドガンで打ち落とす。

背中を激突させる寸前に急浮上し、ビルの間を駆け昇る。

途中、透いた硝子が風圧で割れ、バラバラに砕け地面に降っていく。

身体を地面の方向に向けたまま、ビルの背丈を越えて青空に身を晒した。

両手のハンドガンの弾倉を外した。

サブモニターに詳細が表示される。弾切れと。

腰部のノズルにグリップの底を押しつける。

機械音がした直後、表示画面の弾数がフルになった。弾を補充したハンドガンを腰に掛け、両肩部の中からECブレードを取出し展開した。

ECブレードとは、ATの基礎となる携帯型白兵戦専用武装のことである。

設定次第で形状は自在に変化し、好みの武器を選択できる優れものだ。

〈デザートカロル〉のは刀身が三メートル程の白亜のナイフ。

両方の刃に熱が集まる。


「射撃より、こっちのが得意なんだ!」


ブーストを吹かし、ミサイルに突っ込んだ。距離が一気に縮まり、ミサイルは目前。

爆発。しかし下降する〈デザートカロル〉は無傷。

次のミサイルが着弾すると間際、ECブレードでミサイルを真っ二つに切り裂いた。

同じ要領でミサイルを撃墜し、地面に脚部を衝いた。その直後に警報。

砲弾が真上から降り注ぐ。迂闊だった。回避は間に合わない。

砲弾は榴弾砲の装着部分と左肩、直撃を防ごうと咄嗟に構えた右腕のシールドの後ろ半分に命中した。


「くそっ!」


ECブレードを収納し、砲弾の雨を避けながら上昇した。

榴弾砲が外れて落下していが、気にしてられない。

砲弾は尚も降り止まぬ。このまま上昇を続ける訳にはいかない。

エクサは〈デザートカロル〉を〈トゥフェキア〉の真下のビルに突進させた。

雨宿りには成功。だが、これで八方塞がりだ。

左右から飛び出れば、砲弾の餌食。

全速力で遠くに離れても、攻撃ができなくなる。唯一の遠距離武装である榴弾砲を失ったからだ。

スナイパーに見晴らしの良い場所に陣取られては、勝ち目はない。

思考を巡らせていると、サブモニターに通信が入ってきた。

それはショウからだった。

次回でギフト戦はラストです。

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