【第4話 遊び人はスナイパー】
ブーストを調整して高度を保った〈デザートカロル〉は、眼下に広がる光景を眺めた。
「す、凄い……」
そこには一つの都市が丸ごと存在していた。
不規則な高さの高層ビルが立ち並び、その間を丸いパイプのようなものが無数に張り巡らされている。
噴水や公園、球体の建物などもある。
エクサはビルに高度を合わせ、機体を隠しながら進んだ。
周囲を見渡すと所々で弾痕が物体を撓ませている。その事象が、長い年月の間ここがバトルフィールドとして使用されていたのを看取させる。
「ん? 何だあれ?」
ビルのジャングルが空けた先の広場に、派手なドームが見えてきた。
その周りには筒が渦を巻き、筒内を電車に似たものが走り抜け、ドームの天井に入っていく。そして少し離れた場所にある筒から飛び出す。
「駅? それとも遊園地かな?」
機体を着陸させ、渦状の筒を両腕で囲むような動きをした。
エクサはその珍しい建物に心を奪われた。
本当に凄いや。機会があったら見学に来たいな。
モニターに映る全てが、彼の瞳に英気を宿らせる。
しかし思い出して貰いたい。自身が今は何をしている時なのかを。
そこで突然サブモニターが熱量を感知し、警戒を呼び掛けた。
エクサは一瞬にして神経を集中させ、盾を前に出す。同時に着弾。
〈デザートカロル〉が半歩ほど後ろに引き摺られる。
「来るかっ!?」
両手で腰部のハンドガンを引き抜き、戦闘モードに移行する。シールドの両端から収納していた残りの部分を展開。
ブーストが身体を持ち上げ、空を駆ける。
一発目は、かなり遠距離からだ。それもサブモニターがATの熱量自体を捉えきれない場所である。
エクサはビルを盾にしながら、俊敏に前進していく。半身を出して前方を確認し、ブーストを吹かせての高速移動。
これなら捉えられることはない。
機体を前方のビルまで移動させようとした直後、二射目が放たれた。
前からではない。真横。
エクサは驚愕の色を顔に浮かべながらも冷静に避ける。すぐさまハンドガンを向けるが、機影は発見できない。
「くっ……」
全速力で飛翔してビルの隙間を駆ける。
太陽の光を反射した窓ガラスに、凜乎な姿の自機が映し出されていた。
とにかくレーダーの範囲に捕まえなければ。
接近する〈デザートカロル〉の前に、誘導ミサイルが現れた。その数は四、五発。
「っ……!?」
エクサは機体を急停止させ、斜めに傾けると真下に降下した。
無論、ミサイルも追跡してくる。
追っ手に向かい、両手のハンドガンを乱射した。弾が上空に昇り、二発のミサイルを爆発させる。
急ブレーキを地面寸前に止まると、ミサイルをぎりぎりまで引き付け、後方に飛び退いた。
先頭を切ったミサイルは曲がれずに衝突。辺りに巨大な穴を作った。
しかしまだ終わらない。
煙を尾に巻き、二発のミサイルが〈デザートカロル〉を急追してくる。
〈デザートカロル〉は後向きのままブーストで加速。ハンドガンで狙いを定める。
砲口から発射炎。数発は逸れて奥のビルを壁を打つ。またもや爆発し、遥か上空まで伸びた黒煙が空色に変わる。
命中したのは、二発の内の後方のミサイル。もう一発は勢いの衰えを知らずに目標に向う。
エクサは機体の両足を地面に着き、ミサイルが胴体に接触する間際で飛び上がった。
脚部を空がある方角にやり、ミサイルを睨む。そこからハンドガンのグリップでミサイルの胴体を強打した。
ミサイルは錐揉みして地面に身体を打ち付け、内部の熱を解放した。
エクサは多少、安堵する。だがそんな感情はすぐに吐き捨て、機体を数メートル、真横にずらした。
すると弾丸がビルの窓ガラスを突き破り〈デザートカロル〉がいた位置を貫いた。
数秒でも避けるのが遅ければ直撃コースだった。
そして弾丸は間違いなくビルの反対側からやってきたもの。
凄まじく正確な射撃だ。
エクサは攻撃を読み切ったものの、内心では怖気に襲われていた。
それでも、その感情を感じるのは後回し。
ブーストをフルパワーで稼働させ、ビルの反対側に廻り込んだ。
景色が覗かせた同時にハンドガンを構える。
敵機の姿はない――が、ビルに張り付いている影をエクサは見逃さなかった。
飛来した弾を左腕のシールドで防ぎ天を仰ぐ。
敵機は上。高層ビルの屋上だ。
「お返しだ!」
ハンドガンが火を噴いた。しかし距離が遠い所為で狙いが曖昧となり、ビルに弾痕を付けただけだ。
射撃修正。即座に持前の勘で、敵機を射線軸に捉えた。
着弾する直前に敵機が舞う。
逆光により、〈デザートカロル〉の位置からでは全容の確認ができない。
急降下してくることは分かる。
右腕付近から一瞬だけ小さな光が灯った。
「こんなものに当たるか!」
光速の弾丸を避ける。
続けてハンドガンで射撃を行おうとしたが、今度は青い光線が無数に迫ってきた。
素早い機動で躱し、回避が無理なら盾で受ける。
〈デザートカロル〉と敵機の位置関係が入れ代わる。右背部の榴弾砲を展開し、ブーストで降下していく敵機に狙い定める。
相手も振り向き、右手の長い砲身の銃から弾丸を放つ。
反射的に左手の盾で軌道を覆った。着弾すると、衝撃で盾が吹き飛ぶ。
「このっ!」
次は機体に衝撃が伝わった。右背部の榴弾砲を撃った反動だ。
弾は空気を裂いて一直線に敵機に接近したが、虚しく地面に命中した。
エクサはハンドガンを構えたが、正面の様子に気付き狙いを解いた。
そこには、こちらに武器を向けるでもなく、ただ宙に浮いているだけの敵機の姿があった。